9 姫プレイもできない、こんな状況じゃ
集まった面々で共に攻略を続けていく。デビーとケントを先頭に、間にドロシーとユリシーズが入り、後ろをフーゴとモーリスが行く。
「ユリシーズが遠い……ユリシーズの隣がいい」
「ダメです」
フーゴがぼやき、ケントが即座に却下する。
前を行くデビーが杖を揮い、その横の雄山羊が角を振る。現れた幽霊達は蹴散らされていく。後ろから現れる敵はフーゴ、モーリスが倒していく。進行方向にある罠は前列の二人が見つける。さて、ユリシーズは何もすることがない。みんな強いなーと感心するばかりだ。
横の壁から、ぬるりと幽霊が這い出てくる。ハッと気づいて対処しようとしたとき、横からメイスが出てきてガツンと打ち付けられる。幽霊は壁とメイスに挟まれて霧散した。
メイスの持ち主ドロシーを見れば、どやと言わんばかりの顔をしていた。目はきらきらして、頬は紅潮している。その生気に満ちた顔を見ていて、ユリシーズはついドロシーの頭をよしよしと撫でる。
その表情を見れば、令嬢仕種をしていた時より、よっぽど生き生きとしていた。卒なく令嬢としての所作をこなしていたが、彼女もそれなりに憂さを抱えていたのだと、唐突に変化した身分にストレスを持っていたのだと、知れたのだった。
「そこ、注意するとこですよ!」
よしよししていれば、ケントから叱責が飛んでくる。大人しくしててくれとの願いを感じた。ここまでの道程がどんな様子だったのか、一連の流れで推測できた。
実体のない幽霊は杖や剣でかき消されるが、倒し切ったわけではないので、またすぐに姿を現して害をなそうとしてくる。こちらの体力を削る攻撃は、幽霊も実態を現してこないとできないようだが、視界を奪ったり悪寒を感じさせたりと悪影響を与えてくる。
「こういうときは、これですよ」
デビーが荷物から包みを取り出す。包みを解けば、中から剣が出てくる。デビーが剣を手に、幽霊を攻撃する。すると、攻撃された幽霊はかき消えるだけでなく、完全に倒された。
「おお、幽霊に有効な攻撃ができる剣なのか」
「このダンジョンで見つけました。でも、難点があって」
「難点?」
「これ、一回手にすると外せなくなるんですよ」
「えぇ……」
日常生活が送れなくなる致命的な難点に聞かされた方は困惑する。
「どうするつもり?」
心配して尋ねるが、当の本人は落ち着いている。
「こういう時は、これを使います」
デビーは剣とは逆の手で持った杖で、床を示す。そこには、罠の文様が見えている。デビーはすたすたと歩いてその罠をためらいなく踏んだ。
ずあっと床から無数の針のようなものが生えてきて、デビーにまとわりつく。その異様な光景に、一行はひえっと息を飲む。
無数の針はすぐに消えた。がらんがらんと床にデビーの杖、持っていた剣などが転がる。
「痛くない?」
「はい。これ、全然痛みはないんです」
「なんの罠?」
「装備している武器や防具が外されるっていう罠です」
「そうなんだ……」
デビーは淡々と説明し、見てる側は呆然とそれを受け入れる。
「剣を外せないときの影響はどんな感じ」
「ああ、なんか体力が削られてる感じはしますね。生気を吸われてるのかな。そういう呪いでしょうね」
「使うな!」
平然と言うので、ユリシーズは思わず一喝した。怒られた方はどこ吹く風である。




