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1-3

 ユリシーズは父に会うべく城内を歩く。いそうな場所を辺りをつけて探しているのに、なぜかすれ違い続けて出会えない。

「ユリシーズ様」

「ドロシー」

 出会ったのは宰相の娘のドロシーだ。父への届け物か言付けのために城内にやって来たらしい。

 これが大国の城ならば、登城するために事前に申請がいるのだろうが、素朴なこの地ではまだそんな儀礼が確立していない。

「明日の準備は整いましたか?」

「……うるさいな」

 ドロシーの確認に注意されてると感じて、ユリシーズはつい憎まれ口が出てくる。

 ユリシーズは自分からそんな態度をとっておきながら、自分の口から出た強い語調に嫌になる。気まずくて彼女の顔を直視できない。


「……他の人にはそんな言い方はなさらないでくださいね」

 彼女はユリシーズの憎まれ口に実に冷静に言い返す。

 ドロシーは気の強そうな顔立ちの美女だ。目鼻立ちははっきりとしている。猫のような形の瞳は強く意思を持つように光り、眉はきりりと濃い。

 濃い色のブルネットの髪は艶を放ちながら緩やかにカールしている。髪と同じく濃い色の瞳は清冽な印象を与える。

 そのくせ、唇は赤くてなんだか妖艶だ。薄っすらと赤い頬は溌溂とした生気を感じさせる。

 実際、ドロシーは気は強いのだが、こうして短気を起こさずに冷静な態度もとれる。そんな淑女のような態度もそつなくこなせる。


 少し前までただの村娘だったのに。その頃のドロシーなら、率直に「しっかりしなさいよ!」と檄を飛ばしただろう。それが今では淑女の仮面をかぶる。

 みんなが変わることを受け入れて前を進んでいるのに、ユリシーズは。



 ドロシーの父は、ユリシーズの父ともともと遠縁の血筋の人間だ。嫡男ではなかったため、ユリシーズの父の家令として働いていた。出自が貴族なので、貴族としての所作ができる。

 国としての体裁を整える際に領民の何人かが貴族となった。その内の一人がドロシーの父である。

 王となったユリシーズの父と血筋のつながりがあるのと、元々能力が高いことから公爵の地位を与えられた。



「言い方が優しいですわ。もっとはっきりお言いになりませんと。殿下には通じませんよ!」

 棘のある言葉がユリシーズに向かってくる。言葉を放ったのは、ドロシーに付き従っていた娘ホリーだ。彼女の父も貴族の地位を与えられて、今では一端の令嬢だ。

 今ではドロシーの侍女として彼女に付き従っている。

 ホリーのユリシーズへの態度は露骨に悪い。


 ユリシーズは少し試みてみたことがあるのだ。

 いつだったかホリーがドロシーに倣って小言を増やしだしたのだ。これ以上小言を言う人間が増えるのは困る、とユリシーズはホリーへの態度を変えてみた。

 優しげに笑い、親しげに声をかけ、親切心を全面に押し出した。

 がんばってるね。困ったことはない? いつでも力に乗るよ……そんな感じで。


 ホリーの態度は次第に軟化した。そして、のぼせ上った感じになった。

 ああ、これで小言の数も減った。良かった、などとユリシーズは思っていたが、ある日突然にホリーは我に返ってしまった。

 結果、ホリーのユリシーズへの態度はより一層苛烈になって悪化した。


 本当にはしかだな。一時的にしか効果がない。とユリシーズは余計なことをしなければ良かったと後悔した。

 もっと深追いすれば完全に手玉に取ることもできたのかもしれない。だが、そこまでしてしまうのは忍びないという気持ちがあった。未婚の令嬢をもてあそんだ後に起こる面倒のことを思うと、やりたくない気持ちが上回った。



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