8 遭遇、再会、すったもんだ
ユリシーズ達が次の階層に降りた先で見かけたのは誰かが焚火をした跡だった。
「こんなところで焚火? どうやったんだ」
「やっぱり調度を壊したんじゃないか」
「大胆なことするな……」
何もない廊下に焚火跡だけがぽつんと残っている。焚火跡はほぼ燃え尽きていて、崩れた炭だけになっていた。
ユリシーズはドロシー達が残したものかと考える。
「ここまで、彼女達の気配はまったく感じ取れなかったけど……」
随分先を行っているのかとユリシーズは考える。
階を降りた先は廊下が広くなっていた。一部屋ごとの大きさも随分広がっていた。
「どういうこ……うわああ」
不意に現れた敵に思わず声を上げる。
この階に出てくる敵は、大体が息をしていなかった。ボロボロの衣服、ぽっかりと開いた眼窩。屍、骸、骨と皮。それらがこちらに向かってくる。素手でただ突進してくるもの、武器を手に持つもの、動きが遅いもの、早いもの……それらが切れ目なくやって来る。
「疲れる!」
最初は、人の屍に見えるそれらに恐れていたが、あまりに対処に追われてそんな感想はどこかへ行った。一応打撃は通用する。時々、見た目が透けている幽鬼のような敵も出てきたが、こちらを攻撃してくるときには実体を現した。透けているときには通らない攻撃が、実体が出てきた瞬間を狙って攻撃をすると通った。
「大分狩ったから、減ってきたな」
「多すぎ……」
ひっきりなしの敵の攻撃は、ダンジョンへの考察や探索をする余裕を奪っていた。ようやく会話をする暇を得て、部屋の探索に移る。
「一部屋がずいぶん大きくなったし、寝具とかはなくなったんだよな」
「執務室って感じかな」
空の棚が並ぶ中に文机が配置されている。時折、応接用のテーブルと椅子が配置された部屋もある。
「敵も城の使用人とかそんな感じかなー」
メイド服に銀食器を投げてくる骸骨や、朽ちかけた鎧の屍の騎士、文官だったのか破れたボロボロの衣服に元の上等さを感じる骸……
「王の執務室が近いって言ってたけど、いよいよってことか?」
フーゴの推測を思い出して、ユリシーズは言う。
「気合入れて、進もうー」
そういうフーゴの発言が、どこか気の抜けたものでユリシーズはため息とともに肩の力が抜ける。
階をさらに降りていく。次の階に降りたところで、香ばしいにおいが鼻に届く。えっ? と思ったところで、視線を上げた先、火を前に食事をしている男と目が合った。
「デ」
ユリシーズが口を開いたところで、横からぐうう~と音が聞こえてきた。
「あ~、いや、いい匂いだったから、つい」
「足りてなかった?」
食事を終えてからそんなに時間は経っていない。ユリシーズはそこまで空腹を感じていなかったが、体が大きく動きも大きいフーゴは消耗も大きいのだろう。
「デビー。お前もここに来ていたのか」
「どうも。落ちた羊が気になりましてね」
問うユリシーズに対し、食事中の男デビーは食べながらぞんざいに答える。
デビーがかぶりつく肉は肉汁の滴る厚みのあるものだった。それを見て、フーゴは思わず生唾を呑んでいる。
「……デビー。その肉はどうした? 随分と新鮮なようだが」
「ええ。こちらで調達しましたよ。落ちた羊達もこんなところで無残に他の獣に食われるくらいなら、俺の手で……なんてね」
「そうか……デビー、よかったら少し分けてもらえないか」
ユリシーズは思い切って切り出した。フーゴがえっとユリシーズを見てくる。




