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7-4

「ダンジョンは一説によると金鉱山に匹敵するとか。あるいはそれ以上とも聞く。それが見つかったということは、この国にとって大きなプラスとなるんじゃないか」

「ダンジョンの宝が、戦力の増強になるってこと?」

「そうそう。だから、プラウドはうかつに攻められない。ダンジョンは管理を怠ると魔物が溢れて大変だと言うし、ダンジョン周辺を蹂躙し尽くすってことはしないんじゃないかな」

「それはこの国の人間にダンジョンを管理させながら、上手いことダンジョンのうまみを得ようと画策するってこと?」

「そうそう。独立を宣言したって言っても、プラウドはまだここを自分の国の一部だと思ってる。だから、普通の領主に対するみたいに管理せよって言うと思うんだよね」

「う~~ん……」

 フーゴの考えを聞いて、ユリシーズは首をひねっている。

「こっちを侮っているとは思うけど」

 眉間にしわを寄せていても、かわいいなあとフーゴは思う。


「そんなに都合よく動いてくるかなあ」

 フーゴはユリシーズとの会話を楽しんでいた。そもそも、フーゴはこれまで王族と言える存在と真っ当な会話が続いたことがなかったのだ。



「プラウドはいきなり攻めてくるんじゃなくてまずは情報を欲しがってると思うんだよね。ダンジョンの脅威とか成長度合い、難易度とかうまみ。それらを把握してから動きたいと思うんだ」

 フーゴの言葉にユリシーズは素直になるほどとうなずいている。そんな反応も好ましいと感じる。


「だから、プラウド側の人間にダンジョンを攻略させようとするはずだ」

「お前だ!」

 ビシッと指摘されて、フーゴはあははと笑った。


「まあ。俺は成り行きで入っちゃったけど。ともかく、こうやってダンジョン攻略に挑戦したことで、『火種』を作らなかったことの責を問われることもないってわけ」

 ユリシーズはそれを聞いて、ぐぬぅと唸りながら黙った。

「……つまり。俺はお前を見逃して、無事にここを出てプラウドに出国させないといけないと」

「そういうこと」

 ぐぬぬとなっているユリシーズに、フーゴはつい笑いがこぼれる。彼のそんな反応を見て、フーゴは『兄弟』を思い出すのだ。



 フーゴの育った環境は王宮のどこか。そこで日中は適当に転がされていた。母はそれを笑って見守っていた。

 継承権のある王子ではないから適当に放って置かれていた。それが、良かった。特にあれをしろこれをしろと強制されることもないので、フーゴは伸びやかに育った。

 子供の頃、フーゴには『友達』が一人いた。同じように王宮の片隅に転がっていた少年だ。

 『兄弟』同士で遊ぶのはよくないと引き離されたりもしたが、結局は放置されたので、目を盗んで遊ぶことは幾らでも可能だった。


「なんだ、こいつら」

「おい、そんなのに構うな」

「ははは。こんな通路の床で遊んでやがる」

 時々『王子様』を目にすることがあった。出会った『王子様』達はなんだか尊大でこちらを睥睨してくる目は嫌な光り方をしていた。


 その『王子』が一人死んだ。暗殺だと噂される。欠けた『王子』の分、一人追加された。本来は継承権を持たないその辺に転がされていた子供達の内の一人。

 継承権争いでより有利な立場に立ちたい『王子』達の誰かが犯人だと噂されるが、すぐに一人が追加されたことで、暗殺して蹴落としても意味がないと彼らは知った。

 スペアはたくさんいる。殺しても殺したりないほどに。



 新たに『王子』になったのはフーゴの『友達』だった。彼と再び出会った時、『王子』達と一緒に現れたのだった。

 他の『王子』達と一緒になって懸命にこちらを見下す彼を見て、フーゴはがんばってるなとぼんやり思ったのだった。無理してるのが、見て取れた。彼の眉間のしわを見て、精々がんばれと心で応援した。



 フーゴにとって『王子』はそんな感じだったので、この地でユリシーズに出会って感動したのだ。

 素直でまっすぐで、まっさらだ。白に近い白金の髪のせいもあるが、彼には白の印象があった。

 こちらの言葉に素直に反応し、真っ当に言葉を返してくれる。その素直さに触れるたびに、新雪のように純粋だと感動する。



「ここ、すっごい罠だらけじゃない? よく一つも踏まなかったな」

 休憩を終えて、落ちている品物を拾っていく。

「この落とし穴の罠踏んだら次の階に行けるのかな」

「そういうの絶対やめろよ!」

 フーゴのつぶやきに大きな声が返ってくる。フーゴはそれを笑う。


「ドロシー大丈夫かな……」

 ユリシーズから弱気な一言が漏れる。

「さっき言ってた話の彼女?」

「騎士二人連れてたから、戦闘は多分大丈夫なんだ。でも、こんな罠いっぱいで……大丈夫かな……」

 ユリシーズの弱気な声は続く。ため息が漏れる。

「その騎士二人って強いの?」

「知らない……」

 ユリシーズがどんどん落ち込んでいくのが声の感じでわかる。どうしたのか、と振り返る。


「年頃の男女が共に危機を乗り越えるんだ。きっと危機を乗り越えるたびに、どんどんいい仲になっていくんだ……」

 ユリシーズの言葉に、フーゴはあははと笑う。


「笑うなよ!」

「コイバナ楽しいなー」

「これのどこがコイバナだ」

「同年代の人間とコイバナするの初めてだー」

「……」

 ニコニコしているフーゴに対して、ユリシーズは微妙な顔をしていた。



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