7-2
「フーゴ……」
ユリシーズは恐る恐る声をかける。無事でいてくれ、と祈るような気持ちだ。
「いやーーーー! びっくりした!」
元気な明るい声が聞こえて、ほっとする。
「なんだったの、今の?」
「これ……」
駆け寄ってきたフーゴに巻物を見せる。
「えー? なんも書いてないよ」
「え!」
フーゴに言われてみれば、そこにあるのはただの白紙の巻物だ。
「……これ、使い捨ての道具みたいだ。さっきはこれに呪文のような言葉が浮かんでたんだ」
「へええ。すごい威力だったな!」
巻物は役目を終えたと言わんばかりにぼろぼろと崩れていって消えた。
部屋を見回す。魔物の姿はすべて消えた。床にはいろんなものが落ちている。
「終わった……」
「いやー、疲れた!」
なんとかなったという安堵に包まれて、体から力が抜ける。ユリシーズは再度その場に座り込んだ。フーゴも同じく腰を下ろす。
「フーゴ、お疲れ。助かったよ、ありがとう」
「いやいやこちらこそ」
ユリシーズが礼を言えば、フーゴの屈託のない笑顔が返ってくる。拳を突き出されて、それに合わせた。
「あ、あそこに階段あるっぽい」
「あー……ちょっと、休憩しようか」
「だな」
先に進める。だが、すぐにそうする気力は湧かなかった。再び動くには、英気を養う必要があった。
手持ちの食料を出して並べていく。持っている水分はただの水だ。部屋の水差しにあったのを水筒に入れたものだ。量が心許ない。部屋から脱出する際に新たに調達する余裕はなかった。
「あ、そういや水使わせちゃったんだよな」
フーゴが申し訳なさそうに言う。
「いや、しょうがないし……」
フーゴが鎧を錆びさせる霧を浴びた時に水で濡らした布を渡したのだ。あのまま放置して肌を痛められても困るので。
「俺が持ってるのは、これだなー」
フーゴがカップにワインを注ぐ。
「まあ、旅に持ってく水分と言えばそれだよな」
「腐らないしね」
フーゴはユリシーズの分も分けてくれる。ユリシーズはパンと干し肉を切り分けて、彼に渡した。フーゴが己の食料を差し出す。
「これ、ぺミカン? 非常食じゃ」
「基本、これだよー」
「これ、冬場とかに猟師が遭難に備えて持ってくやつだろ」
肉やドライフルーツやナッツを油脂と糖分で固めたものである。腹持ちはいいが、常食するものではない。
「直接そのまま食べるの? これって、湯で溶かしてスープとかにして食べるもんじゃないの?」
切り分けたものをそのまま口にしたフーゴを見て、ユリシーズは怪訝に思い口に出す。
「火起こしとかどうすんの」
「これがある」
ユリシーズはカバンから取り出した。
「猟師と一緒になって作った簡易コンロだ」
金属の薄い板を組み合わせて使う。解体すればまた薄い板に戻るので、持ち運びに便利だ。
「火打石はこれで、着火剤はこの松かさなんかがちょうどいい」
「へー。薪は?」
「ありません!」
薪がないので簡易コンロは使えなかった。部屋に転がっている、本来この部屋のためにあった調度を解体するという手もあったが、そんな気にもなれない。
「塗料とか燃えたら臭そう……」
「はい。このまま食べてね」
フーゴにぺミカンを差し出されて、ユリシーズは口にした。
「……結構おいしいな」
「うん。当たりで良かった」
「はずれがあんの」
フーゴ曰く、作り手によって味の良し悪しが変わるらしい。




