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7 モンスターハウス、糧食、対話

「おおおおお!」

 フーゴが雄叫びを上げる。それに呼応するように魔物が咆哮を上げる。フーゴが一歩前に出る。足を踏み出すと同時に剣に手をやって抜き、振りかぶる。

 グアアアアア! と獣が咆哮と共に向かってくる。狒々のような見た目の大きな獣だ。勢いよく両の腕が伸びてくる。

 フーゴの剣が獣の腕を切り落とす。腕を切られた獣は悲鳴を上げながらも、口を大きく開けて牙での抵抗を試みる。フーゴは剣を取って返し、首を落とす。


 その間にも、第二第三の獣が押し寄せてくる。ユリシーズは身を沈め、フーゴの体の影から弓を構え、矢を放つ。獣の腕、顔、脚、場所を問わず射抜いていく。理想を言えば、目をつぶしたい。だが、狭い場所の限られた角度ではなかなか難しい。

 フーゴがさらに前に出る。押し寄せる魔物を数体倒して、前に出る余裕ができた。しかし、前に出ずにこの場所で魔物達を待ち構えた方が対処がしやすいはずだ。魔物達の来る方向が前だけに限られる。前に出てしまえば、横からの攻撃にも対処をしなければならない。


 だが、フーゴは前に出た。恐らく、ユリシーズを動きやすくするため。己を盾にし、剣を振るう。そこにユリシーズは弱きを助ける本物の騎士を見た。利己よりも利他。滅私の高潔さ。


 お前が俺を助けるんなら、俺もお前を助ける。


 ユリシーズはフーゴを補助するべく動く。フーゴが切り崩している隙に寄ってくる魔物の目を投げナイフでつぶす。矢をつがえて弓で射っていったが、背後に気配を感じた。振り返れば、通路に何体かの魔物だ。

 こちらにも気を配らなければならない。ユリシーズは杖を出して振るった。魔物がいなくなったのを確認して、部屋に入り扉を閉める。


 その間、フーゴはかなりの魔物を倒し、部屋の中ほどまで進んでいた。足元には、何体かの魔物が落とした物品が転がっている。

 何か戦闘に使えないか、とユリシーズはいくつか拾う。


 戦況を見ていると、魔物の数も減ってフーゴは大分戦いやすくなったようだ。それでも、連戦に次ぐ連戦で疲労は貯まっていくだろう。ユリシーズは少なくなった矢を射ながら、どうするべきかと考える。


 その時、どこからか草が飛んできてフーゴに当たった。フーゴがくらりと頭を回し、膝をつく。

「目回し草!」

 その草はユリシーズにとって見覚えのあるものだった。


 目回し草。草の表面についた成分を鼻から吸い込むと生き物の平衡感覚を狂わせる。有り体に言えば、毒草だ。ユリシーズは狩りの時などに、獲物との距離をとるのに使っていた。


 膝をついたフーゴめがけて、獣の腕が振り下ろされる。ユリシーズは杖を振った。獣は燃えさかる。

 その間も、どこからか目回し草が飛んでくる。ユリシーズはその出元をどこかと視線を巡らせる。



「いた!」

 果たして目回し草を投げつける存在は見つかった。存外、小さなそれは確かに異形の魔物だった。だが、その姿はどこか見覚えのあるものでもあった。


「目回し草の……根⁉」

 すっくと両の足で立っているかの如く、二股に分かれた根。胴のごとく太い根で一体となり、その上は頭部のようにくびれている。腕のごとく枝分かれした細い根が頭部の上に生えている目回し草の葉をちぎり、それを振り回して投げつけているのだ。


「草も魔物化すんのか!」

 ユリシーズは矢が効くのか微妙な存在のその動く目回し草を狙って杖を振った。だが、杖は沈黙したまま。予想通り、杖に備わっていた魔力はなくなり、使えなくなったのだ。


「くっそ!」

 ユリシーズは悪態をつき、杖を投げつけた。その杖が目回し草に当たると、どんと爆発した。最後に杖に宿した魔力が効力を発揮したのだ。

 杖は正しく使い捨ての道具であった。



 魔物の数はだいぶ減っていた。フーゴはまだふらつきながらも踏ん張って剣を振るっている。ユリシーズは手元にあるいくつかの品物を確認する。

「巻物?」

 ユリシーズはその巻物を広げる。そこには呪文を思わせる文言が書かれていた。その文言が揺らめいていて、なにか力を持っていると感じさせる。



 使え! と直感が言う。ユリシーズは誘われるままに、その文言を口にした。

「猛き風よ、わが敵を打ち払い給え。唸れ、爆風!」



 瞬間、部屋中に暴風が吹き荒れる。暴風は魔物達を飲み込み、それらの体を刻んでいった。ユリシーズは思わず体をすくませ、身を低くした。フーゴは無事か? 思いながら、風が止むのをただ待った。



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