3 選択
王子達の従者の一人が、紙を片手に読み上げていく。
「第五妾妃が一子、カシア殿」
「あーあーあー、そういうのはいい」
それを王子の一人が遮る。
「どこの誰かとかはどうでもいい。知りたいのは、名前と能力だ」
「えー。そこ、細かく知ったとこで意味ある?」
別の王子がさらに口を挟む。
「こういうのはさ、直感で選ぼうよ。その方が、運も実力の内って感じが出ない?」
「なこと言って、実は既に調べていて抜け駆けする気だろう」
「ええ! 心外!」
仲が良さそうな言い合いに見えて、互いに目が笑っていない。そこへ、別の王子が耐えきれないと言った感じで笑いを漏らした。
「ふふ……。いや、失礼。茶番だと思ってな。4人を選ぶ時点で、一応書類上では能力を加味しただろう。だから、我らは全員が同じ情報をすでに持っている。必要なのは、その書類上の情報と目の前にいる彼らを一致させること」
彼の言葉に言い争いをしていた二人はすっと黙る。
「よし。なら本人が名乗れ。褐色の髪のお前からだ」
王子が左端の兄弟を指差した。
「カシア」
変な夢を見たからと機嫌が悪くフーゴに絡んで来ようとした男だ。
「ヒース」
そのカシアからの絡みをまともに受け取って、煽るようなことを言っていたのはこのヒースだ。
「ニーム」
その二人の言い合いをたしなめるようにしていたのがこのニームである。
「フーゴ」
右端にいたフーゴは最後に名乗った。
フーゴ達の名乗りを聞いて、王子達がうなずいている。王子達の品定めの視線を受けながら、フーゴは王子の内の一人をこっそりと見ていた。
フーゴの正面に当たる位置にいる王子。彼は、フーゴにとっての昔の『友達』だ。かつては、王宮の敷地内の片隅で一緒になって遊んでいた。だが、彼が継承者として『補充』されてからは会話をすることもなくなった。
フーゴは懐かしさを感じていたが、対する彼はどうだろうか。フーゴのことに気づいているはずだが、彼とは視線が合わない。
そもそも、他の王子達に比べて彼は発言が極端に少なかった。彼は『補充』された立場だからか、他の生粋の継承者の王子達より一段落ちるとみなされている。数合わせのためだけに召し上げられ、強権を握ることを望まれているわけでもない。彼自身もそれを理解しているのか、控えめにその場に座している。
「ふん。中々勝気そうな面構えだな。カシア。こいつに決めようか」
王子の一人がそう言った。フーゴはその声を聞いて、思索から戻ってきた。そして、彼がフーゴを選ぶのかもとの思いが芽生える。
そうすれば……そうしたとして、二人がどうこうなりはしないだろうけど。
昔懐かしさに気安く声をかけようものなら、どうなるか。向こうがそれを望まない限り、それは実現しないし、フーゴの側からそれをした場合は待っているのは体罰込みの叱責だ。
継承者としての立場が弱い彼が、わざわざそれをしてくれるだろうか。フーゴと彼が例えば二人きりになるタイミングがあればそれも叶うかもしれないが、そんな機はきっと来ない。
「エフェドラはカシアね。じゃあ、僕はどうしよっかな」
王子達の選考が進んでいっている。フーゴは誰が来ても一緒だと改めて思い直し、気を引き締め直す。
先ほどから一番に発言をしているのは、エフェドラ。第一王妃の息子で、王にとっても第一子に当たる。王家の始祖と同じ茶髪に茶目の男だ。大変な美男子で、頑健そうな体格と、誰もがうらやむ容姿をしているが、彼は自身の平凡な髪色と瞳の色がコンプレックスであると噂されている。そのコンプレックスを隠すために、態度は殊更に尊大なのだ、と。始祖と同じ色なのにそれを恥と思うとは人間とは不思議なものだと思わされるが、所詮噂なので真偽のほどはわからない。
「じゃあ、僕はーニームにしようかな」
エフェドラの次に発言が多く、エフェドラに軽口を投げかけることも多いのが、カイエンだ。第二王妃の子で父王にも先代王妃にもかわいがられているという。どこか愛嬌のある顔立ちをしていて、声も柔らかく、かわいがられるのも納得がいく子犬のような存在感の王子であった。だが、頭は切れるらしく、彼を侮った者の末路がそれは恐ろしいことになったと語られている。これもまた、ただの噂である。
「私は……では、ヒースにしようか」
彼らのやり取りを冷めた目で見つつ口を挟むのがバレリアンだ。彼は、第三王妃の息子だ。第一王妃と第三王妃は実の姉妹であり、彼女達の仲は良好なことから、バレリアンはエフェドラと対立しないのではないかと評されている。だが、それも後になってみなければわからないことである。
フーゴは残る一人となった。知らず、フーゴは顔を上げる。そして、目の前にいる彼と目を合わせようとした。
残る一人。マートル。第六妾妃の息子で、繰り上がりで継承者となったフーゴの幼馴染。彼のことを幸運を得た者と評す者もいる一方で、気の毒がる者もいる。
そのマートルが口を開きかけた時、エフェドラが「待て!」と声を上げた。
「お前、フーゴ! お前は確か、ダンジョンの経験者だろう! 俺は、やはりお前にするぞ!」
「ちょっと、ここに来てひっくり返すのやめてくれる⁉」
エフェドラの発言にカイエンが噛みつく。
「別にいいだろう。なあ、マートル。いいよなあ?」
エフェドラの強めの問いかけに、それまで黙っていたマートルは微笑みを返しながらうなずく。
「私は、誰でも」
マートルの言葉に場がまとまる。反故にされて捨てられた形のカシアはケッと小さく口をついたが、それは見逃された。




