杯のA
「では、まず思いついた策を披露しようか」
「はい! 女装して潜入する!」
「却下!」
サイラスは少年の策を即時に否定する。
サイラスは隣国を周遊している中で拾った少年を自分の宿泊している宿に連れてきていた。そこで彼と話をする。
彼のかつての主、彼の母が乳母を務めた姫を娼館から助けるべく作戦を考える。
「そんな体格の女子がいるか!」
少年は小柄ながらそれなりに筋肉をつけている。関節を主張するように骨が張って見えて、それが女性らしい丸みとはほど遠かった。
「服を着込んで体の線を消せば……」
「あの娼館の中にいる女性は大体が出自のはっきりした元王侯貴族だろう? そこに飛び込みで働かせてくださいというつもりか? しかも、上半身裸で働かされるというのに、どう体を隠すんだ」
サイラスのツッコミに少年はぐぬぬとなっている。これは駄目だと、サイラスは切り口を変えていこうと思った。
「まずはなぜ失敗したのかを分析しようか。どうやってあの娼館に入って、叩き出されるに至ったんだ?」
「出入りの商人の御用聞きの小僧を殴って気絶させて、そいつに成り代わって中に入った」
「おお……」
サイラスは聞いていて無茶をしたなあ、と思った。もう少し詳しく聞きたかったので、その感想は言わずに留めた。
「そしたら、結構すぐに見つかって……」
「姫がどこにいるのかとか知ってたのか?」
「知らない」
「知らないんじゃなぁ……」
さて色々とツッコミどころを見つけてしまった。
「それをやるには、事前に中の間取りを知ってないとだめだな。素早く見つからずに脱出が理想だ。見つかっても、強引に切り抜けるには腕力が必要だ。それがないから失敗した」
「うう……」
少年は凹んでいくばかりになってしまった。
「だが、素早さと腕力の二つがなくてもどうにかできる手はある」
「?」
「金だ。金の力で黙らせる」
「……そんな金ないよ!」
少年は叫んだ。
「金ならここにある」
ドン! とサイラスが小袋を出して置いた。実に重そうな音が響いた。
「金でまずは出入りの商人を黙らせようか。で、中に入れるように融通してもらおう」
「え、あ……」
「あとは中に入ってどう動くか。探し回るってのも手間だな。自分から出てきてもらえるようにしようか」
「ええ……」
サイラスの思い付きに少年はまだついて行けず、ぱちぱちと目を瞬かせる。
サイラスはそんな少年を見てふふんと笑った。
「金があると、とれる手も増える。覚えとくといい」
「……俺は金なんて持ってないのに」
「自分で持つ必要はない。手っ取り早く金を使うには、金持ちと知り合って気に入られることだ」
「……」
「運よく私と出会えてよかったな。ありがたがってくれていいぞ」
作戦を決め、それを即座に実行する。
「私の下男が、以前垣間見た姫君に分不相応にも惚れ込んでな。仕事の手がつかんのだ。姫君に直接すげなく断られればあきらめもつこうというもの。なので、こ奴と姫を会わせてやりたいのだ」
サイラスは出入りの業者にそんなことを嘯きながら金を積んで黙らせ、協力させた。
二人は出入り業者と同じ格好をして、件の娼館の中に入り込む。
そこで、煙が勢いよく出てくる装置を置いて起動させた。
「火事だ!」
叫び、みんな逃げろと騒ぐ。娼館内は大混乱となり、女達や客が一斉に外にと逃げだす。




