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剣のA2

 彼らがいたのは件の元王族の姫達がいる高級娼館がある、すぐそばの通りに面した店である。そこで、軽食をとって雑談をしていた。

 その店は望めば件の娼館への口利きをしてくれるのだという。口利きだけで、娼館の中に入れるか否かはわからない。この娼館は厳しく管理されていて、入れる人間は限られているのだ。

 現王家に忠誠を誓う高級官吏、王家が使う品を扱う商人、王家が接待したいと思わせる他国の人間など……身分を明かさずにこの国に滞在している彼らが娼館に入るには相当な困難が待っていた。

「まあ、どうしても入りたいわけではないがな」

 彼、メディナ王サイラスは噂の真偽を確かめたくて興味本位でここまで来たのだが、それを実際に目にすることは叶わない。


 実際に見てしまえば胸糞悪いと思うだけだろう。


 彼は内心でそう思う。女達を助けてやれるわけでもない。彼はここでは何もすることがない、と判じて店を出た。

「さて、どこへ行くかな」

 彼らは一本隣の裏路地に入った。その道を通ったのは、ただなんとなくであった。その道は件の娼館の裏口に面している。特に理由はないが、通り過ぎ様に裏を見てやろうとそこを歩いたのだ。


「このクソガキが!」

 そんな彼らの行く手に、怒号が響き渡る。その娼館の裏口から一人の人間が叩き出される瞬間を彼らは目撃したのであった。

「こんなとこに入り込んで来やがって、このドブネズミが!」

 叩き出されたのはサイラスと歳が変わらない、あるいはサイラスよりも幼い、そんな見た目の少年であった。


「なんだ? 物騒だな」

 サイラスは野次馬根性で足を止めてその様子を見守る。従者はもう行きましょうと彼を急かすが、サイラスは完全に足を止めてしまった。

「よう、一体何があったんだ?」

 彼は気さくに少年に暴行をしている男に話しかけてしまう。

「なんだお前は!」

 男は結構な剣幕でサイラスを怒鳴りつけてきたが、彼がにこにこと笑っていることと彼の身なりがきれいで位が高そうなことから、勢いを落とした。


「あなた様のお耳を汚すことでは……」

「まあ、そう言わずに教えてくれよ。暇なんだ」

 口籠る男にサイラスは小金を渡した。

「この小僧が娼館内に忍び込んで女を連れ出そうとしたんです」

「へえ。随分無謀なことを」

 サイラスが無謀と言うと、その殴られていた少年が顔を上げた。ぼってりと膨れた目蓋の下から覗く目がサイラスを強く睨む。想像よりずっと鋭い視線にサイラスは知らず口角をつり上げた。腫れ上がりボロボロになった顔に浮かぶ表情は勝気そのものだ。


「こいつどうすんの」

 サイラスは少年を指差す。叩き出してそれでお終いか? と男に尋ねる。

「また繰り返されても困りますし……」

 男はどうにかして少年の心を折りたいと考えているようだ。だが、サイラスはここで折れて欲しくなかった。


「よし! ならば、私がこいつを買おう!」

「え⁉」

 サイラスの言葉に男は面食らい、少年が怪訝そうな視線を寄こし、従者は慌てる。彼らの戸惑いを余所に、サイラスは男に金を渡すと少年の腕をつかんで立たせた。


「これでこいつは私の所有となった。私が監督するゆえ、不埒な真似はさせんと約束しよう」

 サイラスはそう言って歩き出す。男はその背にありがとうございますと大声で礼を言った。



「なんだお前は!」

「いい態度だな。私はお前の主だぞ」

「お前が勝手にやったことだろ!」

 噛みついてくる少年をサイラスは笑って受け流す。

「助けてやったんだぞ。ありがたがってくれ」

「だから~~~!」

「さあ、なんでそんな無謀なことをしたのか話してくれ! 聞かれてまずいようなら、どこかの店にでも入ろうか!」

 サイラスはからからと笑いながら少年を引っ張っていく。


 少年が語ることには、彼が助け出そうとしたのは彼の母が乳母をしていた姫。

「姫はまだ15かそこらなのに……」

「おまえはいくつなんだ?」

「13……」

 本当に幼い。まだ背が伸びるのもこれからだろう。


「作戦を考えないか」

 サイラスは少年に持ち掛けた。

「こういうのは、やみくもに突っ込んでいっても駄目なんだ。姫を助けるための作戦をまず練ろう」

 サイラスの言葉に、少年の瞳が輝く。



 これが最後のメディナ王サイラスと後の初代プラウド王との出会いであった。


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