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今日もお手軽、晩ごはん

ハンバーグの作り方

作者: 曲尾 仁庵

 こんにちは。

 『今日もお手軽、晩ごはん』、司会の神楽坂文四郎です。毎日食べる晩ごはんに、いつもと違うささやかなサプライズをお届けいたします。本日もどうぞよろしくお願い致します。


 さて、今日のテーマは『ハンバーグ』。子供が好きなおかず四天王の一角を担う定番メニューですね。しかし、かの有名な清少納言は著書『枕草子』でこう記しています。「ハンバーグは買うものなりけり」。平安を生きた彼女と思いを共有しておられる現代人の方も多いのではないでしょうか? そんな近くて遠いハンバーグのイメージを根底から覆す、お手軽レシピを今日はご紹介いたします。まずはいつものように材料を見てみましょう。今回は少し遠出をしますので、気合を入れてくださいね。




【材料(3~4人前)】

 牛挽き肉 300g

 玉ねぎ(中) 1個

 パン粉 大さじ5

 牛乳 カップ1/4

 卵 1個

 塩 小さじ1/2

 胡椒 少々

 水 カップ1/4

 ケチャップ 大さじ3

 ウスターソース 大さじ1

 世の理不尽への怒り 適量

 宇宙(そら)への憧れ 適量

 仲間との誓い 適量




 それでは実際に、私と一緒に作ってまいりましょう。


 一、ハンバーグのタネを手に入れる


 小さなバッグにパスポートとハンカチとビスケットを詰めて、成田空港から北欧にあるブランドン地方行きの飛行機に乗りましょう。首都の空港に降り立ったら、北西部の都市ベッカーデンを目指します。パスポートの他はハンカチとビスケットしか持っていませんから、当然のように行き倒れましょう。物語の始まりは行き倒れから。大宇宙の法則ですね。

 目を覚ますと粗末なベッドの上に寝かされており、生意気盛りの少年が物珍しそうにあなたを見つめています。身体を起こすと少年は驚いて姉を呼びに行きますので、推移を見守りましょう。少年の背を目のクリクリした仔牛が嬉しそうについていくのを微笑ましく思って癒されてください。


「目を覚まされたのですね」


 少年に連れられて姉が部屋に入ってきます。絶世の美女と言って差し支えない神々しいまでの彼女の美しさは、しかし磨かれる前のダイヤの原石のようにくすんでしまっています。水仕事で手は荒れ、金の髪もくすんで、血色もよくはなく、表情はどこか憂いを帯びていました。その儚さが彼女をより美しく見せているのは皮肉というものでしょう。

 助けてもらったお礼を丁寧に言って、仔牛の頭を撫でてあげましょう。仔牛は嬉しそうに目を細め、姉弟も笑ってくれます。ちなみに会話はすべてオランダ語ですので、事前に習得しておきましょう。ここで会話が通じないと、大使館に案内されて物語が終わります。かなり切ない思いをしますので、事前の準備は抜かりなく行いましょう。


 ぐぅー


 絶妙なタイミングで少年のお腹が鳴り、姉は「ふふっ」と笑いますのでその美しさに見惚れましょう。仔牛があなたに頭突きをしますので、「み、みとれてない!」と説得力のない弁明をしてください。少年が「姉ちゃんに惚れたな?」とからかってきますので顔を真っ赤にしておきましょう。


「お客様もいらしたことだし、今日はハンバーグにしましょう」


 姉は明るい声でそう言って台所に向かいます。少年が「やったー」と小躍りをして喜びを表現しますので、微笑ましく見守ってください。仔牛がビクリと恐怖に身を竦ませますので、「まだお前は食べないよ」と声を掛けてあげましょう。仔牛は「まだ!?」と驚愕の表情を浮かべますが、あいまいに微笑んでやり過ごしてください。

 台所に向かい、「何か手伝いましょうか?」と声を掛けようとして、姉の目尻に光るものが浮かんでいることに気付いてください。涙に気付かれた姉は慌てて笑みを浮かべ、「玉ねぎが目に染みてしまって」と言うので、それ以上の追及は避けましょう。この段階では何か重いものを背負っているのだなと察するだけで十分です。場を和ませるように少年は姉にまとわりつき、「ハンバーグまだ?」と聞くので、それに同調しましょう。「仕方のない子ね」と姉は笑ってハンバーグの仕込みを再開します。互いのことを思いやりながら表面的な幸せを装う姉弟の姿に胸を痛めましょう。


「さあ、それじゃ、焼くわよ!」


 気合の声を上げて姉がフライパンを熱し始めたとき、突如玄関が乱暴に開けられ、黒服の男たちが乱入してきます。男たちは姉の手を掴み、外へと連れ出そうとします。フライパンがひっくり返り、焼く前のハンバーグが床に落ちて潰れます。


「待って! まだ時間になっていない!」


 姉はそう叫びますが、男たちは完全に無視しています。明らかに違法ですので男たちを制止しましょう。少年と仔牛も姉を助けようと男たちに立ち向かいます。しかし軍事訓練を受けているであろう黒服たちはあなたたちを殴りつけ、姉をさらって家を出ていきます。自分の無力さに呆然としながら床に座って男たちを見送りましょう。

 男たちと入れ替わりに、今度は泥酔した中年の男が家に入ってきます。少年は男に駆け寄って訴えます。


「お父さん! 姉ちゃんがさらわれた!」


 しかしお父さんと呼ばれたその男はうっとうしそうに少年を振り払い、椅子に座って右手に持っていた酒瓶をあおります。


「あいつはなぁ、今日からお貴族様になるのさ。こんな底辺の生活じゃない、天上の住人になるのさぁ」


 父は左手に持っていた革袋を机に置きます。ガチャリと金属音が響きます。口から中身がこぼれ、無数の金貨が机に散らばります。


「……姉ちゃんを、売ったのか!?」


 少年が火のような双眸で父をにらみつけます。しかし父はにやにやと笑うばかりで少年を見ようともしません。少年の目から涙がこぼれ、彼は家を飛び出します。仔牛が少年の後を追いますので、あなたもそれに従いましょう。


「……エデンの住人に、虫けらの俺たちが逆らうなんて、できるはずねぇんだ」


 血を吐くような父のつぶやきを背に、少年を追ってあなたも家を出ましょう。

 近所の川べりに少年は座り、川面をにらんで涙をこらえています。仔牛は少年の傍らに寄り添っていますので、そっと近づいて声を掛けましょう。少年は固く目をつむり、うつむいてこの町の現実を話し始めます。


「……この町は、エデンの貴族の奴隷なんだ」


 この国は今、衛星軌道上に作られた人工居住地(スペースコロニー)、通称『エデン』に住む王侯貴族と、地上に住む市民とに二分され、市民は王侯貴族の圧政に苦しんでいるようです。市民の権利は蔑ろにされ、法よりも王侯貴族の言葉が優先され、正義は冷笑と共に語られ、道徳は愚者の戯言と同義となっています。美しい娘は領主の館に半ば誘拐と同じように連れていかれることも日常でした。ただで連れていかれるくらいならと子を売る親も腐るほど転がっています。その順番が今日、姉にも回ってきた。ただそれだけのこと。


「悔しいよ、兄ちゃん。おれ、何もできない――」


 膝を抱え、声を殺して泣く少年に仔牛が顔を寄せます。少年の肩に手を置き、


「ならば、戦え」


と力強く言いましょう。少年は顔を上げますので、もう一度はっきりと告げます。


「悔しいのなら、戦え」


 あなたがパチンと指を鳴らすと、遥か上空から古めかしい飛空艇(スペースシップ)が川辺に舞い降ります。少年は驚きに目を見開き、呆然とつぶやきます。


「……戦闘艇(バトルシップ)


 この艇に乗り、賞金稼ぎ(スペースカウボーイ)となって力を蓄え、エデンに君臨する外道どもを地上に引きずりおろしてやれと少年を焚きつけましょう。絶望に染まっていた少年の瞳に決意の光が宿ることに気付くはずです。


「やるよ、おれ」


 少年は涙を拭って立ち上がります。


「必ず姉ちゃんを、取り戻す」


 夕日が少し大人になった少年の横顔を照らします。その決意に同調するように仔牛がブモーと鳴きます。少年の手をしっかりと握り、大きくうなずきましょう。

 ちなみに戦闘艇は中古でも700億円くらいしますので、このタイミングでかっこよく登場させることができるようあらかじめ十分な資金を準備しておきましょう。通常の方法で賄うことができる額ではありませんので、メジャーリーガーのトップ選手になるか、株式投資などでどうにかしてください。この場面で戦闘艇が用意できていないとただのヘタレで終わってしまいますよ。


 ――そして舞台は、宇宙(そら)


 二世代前の旧式戦闘艇を駆る少年、という特異な境遇で周囲の耳目を集め、賞金稼ぎとしてのキャリアを着実に積んでいきましょう。エデンの住人は地上民を『富を生み出す機械』程度にしか認識していませんので、治安は極めて悪く、世は暴力が支配しています。そんな世界だからこそ賞金首が尽きることはなく、賞金稼ぎが活躍する余地も大きいのです。『マッハのテツ』や『門松のマサ』といった有名な賞金首を捕え、名声と金を手にしましょう。やがて仔牛が立派な成牛となるほどに時間が流れたときには、少年は一介の戦闘艇乗りではなく、総旗艦『ラーズグリーズ』の艦長(キャプテン)になっているはずです。少年の右には戦艦『ミノタウロス』を指揮する牛が少年を支えます。あなたもまた、戦艦『レッドクリフ』の指揮官として少年を補佐してください。他にも犬や猫、大ヨークシャーやアルパカなど、少年を慕って集まった心強い仲間がここに集っています。


「時は来た」


 一個艦隊を率いる少年は満を持して皆に告げます。


「今こそ天空に浮かぶ偽りの楽園を滅ぼし、清浄なる空を取り戻さん!」


 少年の言葉を合図に戦艦の主砲が火を噴き、いよいよエデンの擁する大艦隊との戦いが始まります。敵戦力はこちらの十倍、こちらが敵に勝るのは決意と勇気だけです。己を奮い立たせて戦場を生き抜きましょう。敵であるエデンの貴族たちは有り余る金を使って最新鋭の艦艇を惜しげもなく投入してきますが、しかし装備がいくら強力でも使い手が無能なら恐るるに足りません。負けたふりをして中央の部隊を後退させ、調子に乗って追撃してきた敵を半包囲してクロスファイアポイントに誘い込み、一気に殲滅しましょう。敗北を悟った貴族の子弟が総旗艦『ラーズグリーズ』に艦対艦の一騎打ちを申し込んできますが、そのような戯言に耳を貸す必要はありません。遠慮なく撃墜しましょう。

 敗色が濃厚になるにつれ、貴族たちの艦隊は内部で不和を起こして自壊を始めます。情報工作を駆使して終わりの時を早めてあげましょう。やがて少年の姉を連れ去った領主の周りには誰もいなくなっているはずです。領主に仕える側近すらも領主を見限って投降してきますので、裸の王様となった領主の前に堂々と姿を見せましょう。


「き、貴様ら! 自分たちが何をしているかわかっているのか!」


 領主は唾を飛ばして少年たちを詰ってきますが、ただ哀れな瞳でじっと見てあげましょう。自らの権益が当然の、未来永劫続くと信じて疑わなかった哀れな男の最後です。無言ですべての戯言を聞いた後、ただ一言、


「連れていけ」


 と冷酷に告げましょう。

 戦いは終わりました。最も高い場所にある椅子に少年を座らせ、我々の勝利を高らかに宣言しましょう。空の自由を取り戻し、誇らしげな少年の姿に目を細めてください。少年は姉を探してほしいと頼んできますので、捕らえたり投降してきた貴族たちを尋問して速やかに居場所を特定するよう手配してください。

 戦争が終われば論功行賞が待っています。活躍した味方はもちろん、調略に応じた敵方の将兵にも相応の待遇を与えなければなりません。媚びるように頭を下げる元貴族たちに辟易しながら処遇を決めていきましょう。その中には元領主の側近であった宿将の姿もあります。


「恐れながら、閣下にお願いがございます」


 宿将は平伏して少年に告げます。少年は「言ってみろ」と促します。宿将は顔を上げ、憎しみのこもった目で少年を射抜きました。


「閣下のお命を頂きたい!」


 宿将の左目が火を噴き、熱線が少年を襲います。それを阻んだのは、少年の傍らに常に控えていた、牛でした。牛は自らの身を挺して少年をかばい、その胸を熱線に貫かれたのです。すぐさま護衛兵の熱線銃が宿将の身体を打ち抜き、宿将は床に崩れ落ちます。


「……小僧を討ち果たすことはかなわなかったが、その片翼、もぎ取ってやったぞ――!」


 満足そうに息絶える宿将に構わず、少年は牛を抱きかかえて叫びます。


「死ぬな! 僕を、独りにしないで――」


 牛は薄く目を開き、穏やかに少年に告げます。


「ぶもー」


 牛の目がゆっくりと閉じ、前足が力なく床を打ちます。少年の絶叫だけが広間に響き渡りますので、為すすべもなくそれを見つめてください。あなたにできることはありません。そして少年は、独りで乗り越えなければなりません。




 打ちひしがれる少年に、もう一つの悲報が届きます。なんと、少年の姉はこのエデンにはいないというのです。領主は姉を連れ去ったのち、宇宙帝国の皇帝にそのまま献上したのです。虚ろだった少年の瞳に怒りの炎が宿ります。


「献上、だと? 姉さんを、まるで物のように!」


 怒りによって気力を取り戻した少年に、戦いはまだ終わっていないことを告げましょう。エデンはこの地球を支配する地方領主の棲み処に過ぎないのです。領主の上には銀河を支配する者がおり、さらには宇宙を支配する宇宙帝国の皇帝がいるのです。皇帝を打ち滅ぼし、その暗黒の支配から世界の解き放たなければ、同じ悲劇は何度も繰り返されるのです。


「わんわん」

「にゃー」

「ふごっふごっ」


 頼れる仲間たちも少年を励まします。今、この宇宙で宇宙皇帝に対抗しうるのは少年しかいないのです。


「わかった。俺は、宇宙を手に入れよう」


 二度と涙は流さぬと固く誓い、少年は立ち上がります。まだ幼さの残るその背を見つめ、必ず守り抜く決意を新たにしましょう。命を捨てて少年を守った牛の代わりに。

 エデンに蓄えられていた財と最新鋭の兵器を接収して準備を整えたら、いよいよ宇宙帝国との対決です。


『蒼天已に死す!

 黄天当に立つべし!』


の檄文を天下に発し、堂々と宇宙帝国に反旗を翻しましょう。少年の言葉は宇宙帝国の圧政に苦しむ人々の希望となり、少年の侵攻と呼応して各地で反乱や暴動が頻発します。たった三人で始めた姉を取り戻す戦いは、もはや全宇宙の人々の自由と尊厳を取り戻す戦いへと形を変えたのです。

 銀河を支配する公爵を打倒し、いよいよ外宇宙へと飛び出した少年たちは、ついに宇宙帝国の首都星に迫ります。後がない宇宙帝国はすべての戦力を首都星の周囲に集め、少年たちを迎え撃ちます。最終決戦の舞台が今、整いました。


「これが最後の戦いだ! 血統や出自によって人生が決まる、そんな理不尽を滅ぼし、自由と尊厳を我らの手に!」


 少年の鼓舞に咆哮で応え、前線の艦隊が主砲を放ちます。戦いが、始まりました。


 少年は前線中央で総旗艦『ラーズグリーズ』から直接指揮を執り、右翼を戦艦『フェンリル』に搭乗する犬が固めます。あなたは『レッドクリフ』に乗って左翼を任されますので、思う存分その采配を振るいましょう。腐敗した宇宙帝国の艦隊とはいえ、名将とよばれる老練の提督も、天才と呼ばれる気鋭の将校もいます。忠誠も野心も打ち砕き、少年を宇宙の覇者とするために奮闘してください。

 左翼の戦闘は熾烈を極め、あなたは率いる艦隊の五分の三を失う損害を受けながらついに敵陣を突破します。左翼の敵は潰走し、このまま時計回りに敵本陣を突けば、中央本隊と連携して包囲殲滅が可能です。しかし右翼の犬は老獪な敵将の攻撃に翻弄されて身動きが取れず、中央本隊にいる少年は数的に不利な状況に陥っていました。あなたは艦長に告げます。


「我が艦隊はこのまま単独で敵本陣に突っ込み、総大将を討ち取る」


 艦長は無表情に答えます。


「承知しました」


 動きを察知した敵艦が一斉にその砲塔をこちらに向けます。不敵な笑みを浮かべ、大声で各艦に命じましょう。


「突撃!」


 無数の砲火を潜り抜け、最大戦速で敵の総旗艦に向かいましょう。


「戦艦『スケグル』撃沈! キムリック提督、生死不明!」

「戦艦『ゲンドゥル』大破! サフォーク中将、脱出確認できず!」


 次々と入る通信を乗り越え、無数の犠牲の上に、ついに敵総旗艦『タイラント』がその姿を現します。『レッドクリフ』は幾度も敵の砲撃を受けてボロボロ、バリアのエネルギーすら尽きかけていますが、ここが正念場です。できる限り敵艦に近付き、回避不能の一撃で宇宙の藻屑にしてあげましょう。


 ――ズゥン


 突如『レッドクリフ』の船体が揺れ、レッドアラートが鳴り響きます。敵艦の主砲が直撃したのです。


「第八ブロック隔壁封鎖! すぐに切り離せ!」

「居住ブロックで火災発生! 隣接ブロックに延焼しています!」


 悲鳴のような報告が飛び交う中、艦長はあなたに冷静に告げます。


「行ってください」


 その言葉にすべてを察し、すぐに戦闘艇の格納ブロックへと走ってください。あなたが行ったことを見届けると、艦長は艦内の頼れる部下たちに告げます。


「ミサイル、レーザー、指向性地雷、あらゆる兵器を撃ち尽くしたのち、総員退艦せよ! 本艦はこれより、敵旗艦に体当たり(チークダンス)を仕掛ける!」


 レッドクリフからまるで花火のように無数のレーザー、ミサイルが放たれていきます。戦略も戦術もなく撃たれるそれらは容易に敵艦のバリアに弾かれ、避けられてしまいます。敵からは錯乱したと思われるであろうその攻撃はしかし、敵の目を晦ます陽動です。その光に紛れてレッドクリフを飛び出したのは、あなたの乗る旧式の戦闘艇――


「全速前進!」


 艦長の命令に応えて満身創痍のレッドクリフが敵総旗艦『タイラント』に向けて突っ込みます。敵艦の集中砲火を浴びて船体を砕かれながらも、その加速した質量はタイラントに到達しました。タイラントのバリアとレッドクリフの残骸がぶつかり、バチバチと青白い光を散らせます。レッドクリフの残骸が崩壊し完全なスペースデブリと化したとき、ついにタイラントのバリアシステムは過負荷によって動きを停止しました。無防備となったタイラントの艦橋、その正面に旧式の戦闘艇が姿を現します。その砲身が敵の総大将を捉えました。


「終わりだ!」


 万感の思いを込めて、戦闘艇の主砲の引き金を引きましょう。艦橋を吹き飛ばした一撃は次々に誘爆を引き起こし、巨大な船体は引き裂かれるように分解していきます。崩壊に巻き込まれぬよう急いで離脱し、敵味方を含めた全軍に宣言しましょう。


「タイラントは沈んだ! 我々の勝利だ!」


 総大将の死と、宇宙帝国の暴虐の象徴であった総旗艦『タイラント』の撃沈は敵の士気を挫き、敵艦は次々に白旗を上げて降伏します。戦況は決しました。あなたの宣言通りに、我々は勝ったのです。

 エネルギーが尽きて宇宙を漂うあなたの戦闘艇に、一隻の救助艇が近付きます。救助艇の中に見知った顔を見つけあなたは目を丸くします。そこにいたのは、レッドクリフの艦長でした。


「死んで終わり、などという格好のいいことは似合いませんな。お互いに」


 表情も変えずにそんなことを言う艦長に飛びつき、力いっぱい抱きしめましょう。迷惑そうな艦長の様子に構わず、盛大に泣いてください。生きて再会した、大人が泣くのにそれ以上の理由は必要ないのですから。

 宇宙帝国艦隊を退けたら、敵の首都星に降下し、少年と共に皇帝を名乗る傲慢な愚者の許へと赴きます。皇帝は今の自分の立場を理解することなく「不敬であるぞ!」「誰かこの無法者を捕えよ!」と喚いていますので、最大の敬意と礼節を以て地下牢へとぶち込みましょう。宇宙の頂点に立つとされた男の、これが最後の姿です。しかしこれは、品位と他者への敬意を忘れた未来の自分の末路なのかもしれません。自戒を心に刻み、愚者の叫びがこだまするかび臭い石造りの地下牢を後にしてください。

 地下牢から戻るあなたは、ちょうど後宮から救出された姉と少年の再会の場面に出くわします。子供のように姉の胸に縋る少年を見守り、そっと目尻を拭ってください。過酷な運命に晒されたにも関わらず、姉の美しさは未だ神々しさを保っています。歴史を変えたこの姉弟を感慨深く見つめ、心中で牛に呼びかけましょう。「お前が守った命は、宇宙を救ったぞ」と。

 戦いが終わり、敵総大将を討ち取ったあなたは戦功第一と認められ、戦勝の式典で少年から直々に褒美を与えられる栄誉に預かります。世界が注目する中、玉座に座る少年はあなたに告げます。


「卿の活躍と献身は長く宇宙に語り継がれることとなろう。その功に報い、いかなる願いも叶えよう。どうか言ってほしい。卿の望みを」

「もし叶うならば、どうか――」


 少年の前に傅き、あなたははっきりと願いを口にします。


「陛下の姉君が作ったハンバーグのタネを賜りますよう」


 あなたが最初に姉弟に出会ったときからずっと、あなたの目的はハンバーグです。そのことを忘れてはいけません。少年はぽかんと口を開け、隣に座る姉は思わず吹き出します。しばしの沈黙ののち、少年は呆れたような顔で言います。


「そういうことは、式典の後でプライベートで言ってくれ」




 少年の姉にハンバーグのタネを作ってもらったら、クール宅急便で自宅へと送り、少年たちに故郷へ帰ることを伝えましょう。少年は宇宙艦隊司令長官の地位をあなたに提示し、姉は顔を赤らめて「私は、あなたのことを――」と告げますが、それらをすべて振り切って宇宙港へと向かってください。早く帰らないと自宅でクール宅急便を受け取れません。名残惜しそうに手を振る姉弟の姿を窓から見ながら、思いのほか長くなった宇宙の旅を振り返りましょう。ずいぶんと遠くへ来てしまいました。ハンバーグのために。


 宇宙港から成田空港に着いたら、急いで自宅に戻ってクール宅急便を受け取りましょう。鉄のフライパンを熱したら、さあ、あとは焼くだけです。


 二、ハンバーグを焼く


 焼き加減は、ほら、オート調理とかで。




 ほら、あっという間にできあがり。簡単ですね。




 『今日もお手軽、晩ごはん』、本日はハンバーグに挑戦しましたが、いかがでしたでしょうか? ハンバーグを作るためには壮大な宇宙の歴史の積み重ねが必要なのだということがお判りいただけたと思います。今日からはハンバーグを食べる前に、満天の星空を眺めて数億光年の彼方に思いをはせてみようかな、なんて思っていただければ幸いです。


 明日の『今日もお手軽、晩ごはん』は、大人から子供まで、万人を虜にする憎いあんちきしょうと名高い、オムライスをお送りします。大空を自由に翔ける黄金の鶏の謎、ケチャップが示す伝説の都の在り処、世界の裏で暗躍する秘密結社の正体とは――手に汗握る冒険譚を是非、ごらんください。

 それでは明日もこの時間にお目に掛かりましょう。さようなら。


ハンバーグが一つ作られるたび、宇宙のどこかで一つの帝国が打倒される。

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[良い点] 早いっ!? 早いよ、ニアンさん!?wwwwww  前作での予告に嘘が無い内容で大草原不可避ですた♪wwwwwwwwwwww  〆にもTERRAワロス  [気になる点] ジャンルは【…
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