なんか知らんけど悪役令嬢の妹だったらしい。
なにも始まらない続かない、なんかラノベっぽいプロローグ。
全然ネリネリしていない勢いのみの話。
自分が【転生者】だ、と気付いたのはいつだったのだろうか。
物心ついた頃には既に不思議な違和感や周囲とのズレを感じていたのだから、なんとなく感じてはいたのだろう。
明確にそうなのだと認識したのはつい先程の事なのだけど。
私は侯爵家の次女として生まれた。
とある事情だとかで女児の出生率が著しく低下している昨今にしては珍しい女児が2人続いた事でそれなりに名は売れているらしい。
そうでなくとも優秀な魔術師を多く排出している家系として興国時からある由緒正しい家なのだそうだ。
普通ならば女児がいようとも他に男児がいるからと家を継ぐのは男児なのだけど、父侯爵は子は1人いればいいだろうと言ってのけるような女嫌いだった。
そのため、私と姉とは少し年齢差がある。
私は本来生まれてくる予定ではなかったらしい。
女嫌いの父侯爵が嫌々ながらも私という第二子を生ませたのは、侯爵家を継ぐ予定だった姉が当時の王太子の第一子の伴侶にと求められたから。
家を継ぐのは男児の方がいいだろうと父侯爵も納得し、生まれたのが何の因果か私という女児だった。
私の誕生の報告を受けた父侯爵の顔は見ものだったと後に聞いた。
まぁ、そうだろうなと思う。
これが姉と同腹ならば母が女腹だと持て囃されたのだろうが、姉とは異母姉妹だ。
つまり父侯爵が女児を生ませるにふさわしいのではと周囲から期待され、女嫌いに拍車がかかったのだとか。
然もありなんと素直に同情する。
幸い、その頃に他国で頭角を表した異世界からの転移者【落ち人】が、子が生まれるのにそういった因子は関係ないと言ったため、怒濤のように送られてくる釣書や子作り契約書から逃げられたとかなんとか。
父侯爵が【落ち人】に優しくなったのはそれが理由なんだろうと思う。
父侯爵は私が生まれると、侯爵邸には月に一度顔を出すかどうかで滞在することはなくなった。
それ以前も大概だったようだけど、女性や女性を世話しようとする人間を避けるのに職場が最適だったのだろう。
血筋がよく能力も高い色男も大変なんだなと半目になってしまうのも仕方がない。
姉はいずれ王太子となり王位に就く方を支えるために、王都の侯爵邸に住みながらも1日のほとんどを王宮で過ごしていた。
私は侯爵家を継ぐ者として生まれたわけだから、当たり前だが後継として育てられた。
本来ならば王都で高位貴族や重要な貴族の子息子女と顔を繋ぎ、家庭教師から基本的なことを学びつつ父侯爵から仕事を教えてもらうのだが、私は生まれてすぐに領地へ連れていかれ、物心つく前から後継としての教育を受けていた。
正直、覚えてはいないけど。
個人的には精神的に疲れそうな窮屈な王都よりも自然豊かでそれなりに都会らしい侯爵領で育ったことはいいことだったと思う。
侯爵領の主産業は農業で、農地に向かないとされていた土地で採れた土がとてもいい粘土質だったため2年ほど前から職人を住ませ、この短い期間に焼き物の町として定着してきた。今は領内で採れるもので良い釉薬になるものはないか研究中だ。
最近では農家から廃棄される野菜のクズを使った肥料や玉ねぎの皮を使った染め物など地域が活性化して未来は明るい、と笑顔の耐えない領地になっていた。
それも、姉が生まれる前に来てから一度も領地に足を運ぶことがなく領地に興味も持たなかった侯爵ではなく、誰がどう見ても子供である次女の私が領地を回って地元の人や侯爵家の事務方とどうにかこうにか相談して進めてきた結果だと自負する。
うん、わたし頑張った。
そんな風に頑張ってきた事が無に帰すことになったのは、とある【落ち人】の少女を父侯爵が養女に迎えたことから始まった。
姉と同い年だけど姉が長女、【落ち人】が次女、私は知らないうちに三女になっていた。別に何番目でもいいけど他家の人から聞くのはどうかと思う。
まぁ、姉妹とは言っても私は会ったことはないんだけどね。この先会うこともないし。
父侯爵から顔合わせのために王都へ来いと指示書が来たけど、直前にあった水害の対応だとか他家からの訪問者への対応だとか色々と忙しくて難しいというか無理だった。
こういう状況だっていうのはちゃんと知らせているはずだったんだけどね。
子供なんだから関わっていないだろうと思われていたんだとわかるけど、睡眠時間を削ってバタバタしている時期だったからさすがにキレそうだった。
家臣団はキレてたけど。
侯爵領内の貴族はもちろん寄り子の周辺貴族までぶちギレていてちょっと待てと焦った。
アレがあんたらのトップですよと逆に冷静になれたのもいい思い出。
そんなドタバタを経て、やっと領内や周辺の領地も落ち着いたかと思ったら飛び込んできた《王太子殿下が侯爵令嬢と婚約破棄》《王太子殿下が養子の侯爵令嬢と婚約》という訳のわからない情報。
噂ではなくちゃんとした筋からの情報だった。
慌てて王都に真偽を聞いてみたら是。
意味がわからない。
どうしてそうなったかの流れを聞いても意味がわからなかった。
そうして私の周囲も慌ただしくしている間にやって来た父侯爵の手の者に拘束され、またしても訳もわからないまま馬車で運ばれた。
侯爵領の運営をするために側近のように動いていた家臣団は各地へ行って傍におらず、とりあえず傍においていた護衛は父侯爵の意を汲んだ者だった。
わからないながらも御者と私の監視役の騎士に知っていることだけでいいからと情報提供を促せば、意気揚々と語られ罵られ、結局訳はわからないままどんどんと馬車は進んでいった。
彼らが言うには王太子殿下と【落ち人】養女は一目合ったその時にフォーリンラブして、だけど政略で決められた姉という婚約者が王太子にはいて。
秘めた恋、惹かれ合う2人、愛し合う2人に立ちはだかる悪の令嬢。
始まりは誰もが否定的だったけど、王太子と【落ち人】養女の想いに心打たれ密かに応援する周囲。
そんなときに【落ち人】養女が悪漢に襲われるという事件が発生。しかしそこに現れる我らが小さき太陽、王太子。
もう止められない2人の愛のメロディー。
悪漢を差し向けた悪の令嬢は裁かれ、2人の深い愛に心打たれた人々は国を挙げて祝福した。
しかし最後に小さくも恐ろしく穢らわしい悪が残っていると、彼らが正義の使者として侯爵領にやって来た。
彼らが言うには私は領地の者達をたぶらかして甘い汁を吸いまくっている小さな悪魔なのだそう。
…ね、意味がわからないでしょう?
同じ言語を使っているのに言葉が通じないって本当にストレス。
甘い汁どころか食事をする時間さえも捻出できずに書類をさばきながら果物を口に運ばれて過ごしたことさえあるってーの!と言いたい。絶賛成長期なのに。
自分に酔っているとしか思えない騎士達を気持ち悪く思っていたら突然馬車が止まった。
そして自分は正義の騎士だと信じて疑わない騎士が馬車から降りたかと思うと、馬車は崖からゆっくりと落ちていった。
私ごと。
「過去の己を悔いて死ね」
そう言われたからかは判らないけれど、落ちていく間に、この世に生まれるよりも前の自分を思い出していた。
イマココ。
たぶんきっとこのあとは森でスローライフしたり、助けてくれた町人か冒険者に連れられて町で料理無双したりして、転移系ヒロインだろう義姉の化けの皮を剥がしたり遠隔で無自覚ざまぁしたり、国外追放されて途方に暮れてる実姉と再会(という名の初対面)して姉妹仲良くするんじゃないかな?
知らん町でテンプレ町なか無双して権力者に一目置かれて、侯爵家の家臣団とか手に職あったり能力の高い領民が追いかけてきてわちゃわちゃするってなんとなく想像というか予想できちゃう時点で書く気になれない。そんな文章力もない。あと名付けのセンスもない。
主人公:追放時10才。元日本の成人女性転生者。記憶はないが影響は受けており、自身の状況に一定の理解を示しつつ領主教育を受ける。父に思うところはあるが会ったこともないし前世感覚で「まだ若いしね」と正直どうでもいい。無意識に前世の記憶がしゃしゃり出て地味に内政無双する。
崖から落とされるときに前世を思い出し、「やべぇタイプの転生ヒロインかよ」と死の恐怖よりドン引きが勝ったお陰でトラウマを回避した。
淡々として堂々としているように見えるが頭の中は忙しいし口が悪い。性格もいい方ではないし自覚もあるが、そんな自分も嫌いじゃない。
実姉に「こんな(純粋な)やつおる?」と引きつつも健やかであれと親目線でサポートする。気分はおばあちゃん。
実姉:侯爵令嬢。追放時18才。物心つく前から第一王子の婚約者で厳しく育てられた。生来素直で真面目で努力家なことが悪い方向に働いて謎の断罪からの国外追放でパニック。
気がついたら存在だけしか知らない実妹に保護されていて、周りに大事にされているうちに自分というものを持つようになり、気がついたら領主の嫡男といちゃこらしてた。幸せ。
たぶんヒロインざまぁ悪役令嬢ものの天然愛され主人公。そのままであれ。
ヒロイン:わかりやすい異世界転移系ヒロイン。ラノベとか読んでるのに何でざまぁされるヒロインの言動踏襲してるの?って言いたくなる人。
転移時に若返っているため16才だけど元は40代半ば。そのためすり寄り方が時代を思わせる。が、誰も知らないためツッコミなし。なけなしの知識であひる口とかやっちゃう。
最終的に遠隔無自覚ざまぁでボロを出して優良物件から総スカンをくらうけど、元お局社会人の実力を遺憾なく発揮して商業ギルド長にまでなる。女性が少ない世界(本編では死に設定)のため結婚はできる模様。
特に悪い人間ではなかったが、現実に嫌気がさして疲れきっていたところに大好きな乙女ゲームっぽい世界にヒロインとして転移したことでヒャッハーしてしまった本来常識人。冷静になった後に後悔(悶絶)して関係者各位に謝罪した。
元々は仕事のできるバリキャリ。仕事は海外インテリアを扱っていたため商業ギルドは天職かもしれない。
仕事できる可愛い系美人だからモテてたけど気づけない残念美人。意外と面倒見がいいため部下からも慕われてたけど疎まれてると思ってた残念美人。そんなところも好かれてた。
父侯爵:女嫌い、というか怖い。子作りも薬を飲んでお酒も飲んで朦朧とした状態でほぼ相手任せだった。割と命がけ。
仕事はできる。めっちゃできる。だけど領地はこの女性の少ない世界で何故か女性の方が多いため怖くて帰れない。
天然へたれ。ひそかに王城の癒し。
落ち人の少女を養女にしたのは過去の落ち人に感謝していることもあるが王命。
いつも通り仕事で王城に籠っていたら、気がつけば長女は変な言いがかりで国外追放になってるし、次女は部下が勝手に動いて消されてるし領地の家臣団や領民から抗議やら他国への移住願いやら来ててわけがわからない。
結果、パニックになって頭がパーンとなって、お外怖いと侯爵位を親戚に譲って王城に籠ってひたすら仕事に打ち込んだ。ある意味かわいそう。
姉はどう見ても父似。
母:契約母のためわからないが、父侯爵のことを理解しているとてもできた人。諸々の騒動も関われないため静観していたけど割と正確に把握していた。
父侯爵の今後はこの人にかかっている。たぶん。きっと。
主人公は前世のことを抜きにしても確実に母似。
もしやあとがきの方が長いのでは?と思いつつまぁいいかと肯定的に諦める。
ここまで読んでくださってありがとうございました。ほんとに。いやほんとに。
お疲れさまでした。