運命の人はいるだろうか
初投稿です。至らぬ点が多いと思いますが、ぜひ読んでいただけると嬉しいです!
1
朝、ぼんやりと目を覚ました。
枕元にある携帯を手に取り、時刻を確認すると10時半。意図せず遅い時間に起きてしまうと、決まってなんだか今日という1日を無駄にしているという現実を目の前に突き詰められているみたいで、自己肯定感が下がる。
LINEを開き、寝ている間に貯まっているメッセージを確認する。
「今日、翔太が夢に出てきたの!笑」
彼女の咲季からのメッセージ。なんだかチクリと胸を刺されたような、何とも言えない気持ちになって、取りあえず既読は付けずにスマホを置いた。それからそそくさと顔を洗い、インスタントコーヒーを作って、2階のベランダに出て、熱いコーヒーをちびちびと飲み始める。今は4月の下旬、少しずつ暑さを帯びてくる季節で、もう11時ともなると暖かいというよりは暑い。この間までわずかに残っていたベランダから見える桜の花は、1欠片もなくなっていて、緑の葉が生い茂っている。生暖かい風に吹かれていると、もう夏なのではないかというような錯覚に陥る。空は小さな雲がちらほら飛んでいるだけで、青く、どこまでも透き通るようだった。こういう空を見ると、幼稚園生や小学生の時にも見ていた同じような空が思い出され、なんだか懐かしい気持ちになる。
―夢を見ていた―
中学の時に付き合っていた葉月夕香が、なぜか同じ大学にいて、偶然取った授業のペアワークで一緒になっていた。お互い、はじめはあっけにとられたが、少しずつ生まれてきた実感と共に、これからまた一緒にいられる時間が増えていくのではないかという、確信にも近い思いが湧いていた。その後、自分には彼女がいるという罪悪感はあったが、2人で大学の図書館に行って、1,2時間ほど再会の余韻に浸りながら会話し、そのまま居酒屋に足を運び、それから連絡先を交換して、別れた。葉月からは「今日会えて、本当に良かった!なんかちょっとかっこ良くなってて、びっくりしちゃった笑」というLINEが来ていて心が弾んだ。その後深夜の2時半くらいまでメッセージのやり取りは続き、眠りに落ちたところで記憶は終わっていた。
夢の余韻に浸りながら、コーヒーをたっぷり十分以上かけて飲み終えると、どこかボーッと夢見心地のまま大学に行く準備を始める。
夢に葉月が出てくるのは珍しいことではなかった。彼女とは高校に進学して2カ月で別れたけれど、大学3年生になる今でも月に2,3度夢に見る。普段から後悔をしていたり、もう1度付き合いたいと思っているわけではないけれど、心の深い部分では彼女の面影を追っているのかもしれない。今でも駅や地元の図書館に行くと、もしかしたら遭遇するのではないかと、その姿を探してしまうことがたまにある。高校の時よりは大分ましになったけれど。
葉月とは中学が同じだった。地元の公立の中学校で、行ったことがないからおよその場所しか分からないが、家も徒歩10~15分程度しか離れていないと思う。中学2年生の時に同じクラスになり、たまたまはじめの席替えで隣になった。当時僕は野球部で、彼女は女子バスケットボール部に所属していて、それなりに主力として活躍していたが、そこまで外交的なわけでもなく、僕たちは精神的にはどこか捻くれている部分があって、相性が良かった。彼女は少し低身長で童顔、容姿は客観的に見てもかなり可愛かったし、しょっちゅう話しかけてくれていたので、元々惚れっぽかった僕が葉月のことを好きになるのにそう時間はかからなかった。僕たちは中学2年生の春過ぎくらいからお互いを意識し始めて、自分は葉月のことが好きなのだと自覚していたし、向こうも好きでいてくれているという確信もあった。それからは、どちらかが教科書を忘れて机をくっつけて1つの教科書を使うときには、ひそひそ声で話したり、教科書の白紙の部分に字を書いて会話したり、たまに肩同士が触れたり、かすかに相手の匂いが伝わってきたり、ドキドキしていた。他にも「一緒に図書委員やらない?」と誘われて、少し周りから囃し立てられながらも、2人で手を挙げた。図書委員は昼や放課後の決まった日に仕事があったのだが、当番が楽しみだった。図書館のカウンターに2人で座って話す30分くらいの時間が好きだった。時には少し長引いて、一緒にちょっと遅れて授業に参加したこともあって、周りからからかわれたが、悪い気はしなかった。また、たまにお互いが部活をしている姿を見たくて、練習を隅の方からこっそり眺めていたりもした。こういう付き合うか、付き合わないかの楽しい期間は2年生の冬まで続き、その間僕は朝起きて、学校に行くことが楽しみでしょうがなかった。その後、2月にあった京都での修学旅行の2日目の夜に、葉月に呼び出されて、告白された。泊まっていた宿は京都駅の近くで、その日は夕食後に2時間、班ごとに自由時間が与えられていたが、その直前に2人で出かけられないかと言われ、班員にはちょっと約束があるからと言って抜け出した。京都駅から少し離れたベンチに座り、はらはらと舞う雪がオレンジ色の街灯に照らされて、どこか幻想的な雰囲気がする中で、告白をされ、OKをした。お互い「寒いね」とはにかみながら自然と手を繋いだ。その時の高揚感やドキドキを上回ることは、この先の長い人生で1度も無いのではないかと本気でそう思った。
中学3年生になり、お互いの志望校は自然と同じになっていた。元々頭が良い方だった僕たちは都立の有名な進学校を第1志望にした。お互い塾に行く時間が多かったし、勉強にも真剣に向き合っていたので、一緒にデートする回数はそこまで多いわけではなかったが、それでもはじめの頃は週に1回、受験が近づいてきてからは2週間に1回くらいのペースで会った。学校帰りに近くの公園までふらふら歩くだけのこともあったし、休日に鯛焼きを食べて回ったり、一緒に服を買いに行ったりもした。キスは1回だけした。受験が近づいてきていた冬に、近くの公園で、した。キスはその1回だけだったが、それは心の距離が縮まらなかったからとかいう理由ではなく、単にお互いが臆病だったからだったと思う。そのキスは、相手の唇がなんだかとても甘く感じたし、こんなに柔らかいものがこの世に存在するのかと心の底から思った。今思い出せる中でも心臓は人生で最もバクバクしていたし、顔も燃え上がるように熱かったが、今まで経験したことのない幸福感を感じたことははっきりと覚えている。
その後葉月は第1志望の高校には受かることが出来ず、高校は別々になった。それでもはじめの期間はお互いなんとか時間を作っていたが、少しずつ会う頻度は減り、最後は向こうから他に好きな人が出来たからと言われ、振られた。その後2,3ヶ月は落ち込んだ。
高校では恋愛をする気は全く起こらず、彼女は出来なかった。また別れたタイミングでLINEの友達からお互い削除してしまっていたし、彼女は高校に上がった時にクラスのLINEからも抜けていたので、何度か連絡したいと思ったことはあったが、叶わなかった。別れてからもよく葉月は夢に出てきたし、どこかに出かける度に、もしかしたらという淡い期待を抱いていた。
大学に入ってからは、経験のためと思って彼女を作った。ダイビングサークルの同期で、名前は咲季という。そのダイビングサークルでは夏には1ヶ月くらい合宿があって、お互いあまり泳ぎがうまくなくて一緒にいる時間が多くなり、自然と仲良くなった。彼女はしっかり者で、真面目で、少し地味な人だった。顔もとても可愛いと言うよりは、恐らく普通くらいだったと思う。咲季は中高女子校だったこともあって、少し惚れやすい部分が会ったのだと思う。1年生の夏が終わるくらいのタイミングで告白された。僕ははじめ、断ろうと思って「一旦保留にしていい?」と言ったが、「うまくいかなかったら、別れればいいし、試しに付き合ってみない?」と押されて、「まあ確かに」とどこか納得してしまい、付き合った。付き合って翌週の、次のデートでキスをした。中学生の時に感じた、心臓が飛び出そうなドキドキや高揚感を感じることはなく、こんなものだったっけと思った。その夜、はじめて女の人と寝た。人の体温を全身で感じることや、エッチの快感は気持ちが良かった。それから約1年半、デートで会う度によくホテルに行った。咲季が他の男の人と仲良くしている姿を見て嫉妬をしたし、誕生日やクリスマスにはプレゼントを贈りあったし、歩くときは毎回手を繋いだし、喧嘩をすることもあった。
1年半付き合って、僕はこのままこの人とずっと付き合っていて良いのだろうかと思うことがあった。相手は僕のことをずっと好きだと言ってくれて、自分の居場所を与えてくれているような安心感はある。ただ、本当にこのまま結婚までいってしまうのだろうか、もっと相性の良い人がいるのではないかと、そう思ってしまうことがよくあった。
しばらくコーヒーを飲みながら、ぼんやりと空を眺めて、咲季の「今日、悠大が夢に出てきたの!笑」というLINEに「よかったね笑」とだけ返して、大学に行くため、家を出た。
2
それから約3ヶ月が経ち、7月も中旬を迎え、ようやく梅雨が明けた頃、僕は葉月に再会した。
7時半にセットしたアラームで目を覚まし、そそくさと出かける準備を始める。今日は土曜日で、ダイビングサ―クルの同期と後輩と、浅草に行く。
僕は高校では友達も多くなく、部活にも入らず、たまに数人の友人と学校帰りにファミレスに寄ったりするくらいの友好関係しか築けず、あまり楽しい学校生活を送ってはいなかった。それでも当時の僕は、部活に時間を費やすよりは勉強を頑張った方が将来のためになっていると強く思っていたので、少し寂しいような、惨めなような気持ちはあったが、何度高校生活をやり直しても同じようなことを繰り返したのではないかとも思う。
大学に入ってからは意図的に人と関わる機会は増やしたし、心理的な壁を感じることであっても色々経験してみようと思って行動した。何よりダイビングサークルに入ったことは自分の人間的な成長の面でも大きかったと思う。夏の期間は1ヶ月以上大人数で共同生活をし、オフシーズンにも先輩から何度も旅行や飲みに誘ってもらい、後輩が出来てからは、頻繁に後輩を誘った。多くの人と関わることが大事だということは、実際に経験してみて分かった。色々な考えや価値観を持っている人と接する中で、良いなと思った部分は自然と吸収されていくものだし、周りの人達をより尊重出来るようになる。また大勢の中にあっても、人に不快感を与えず、好意的に思ってもらえるような発言や立ち振る舞いが染みつき、社会的に見て望ましい人間になっていくのが、自分でも感じ取れた。それと同時に、自分に自信が持てるようになっていくのを感じた。
浅草駅を出て少し歩いた川沿いの公園が集合場所だった。今日は咲季はいない。僕が着いた時にはまだ後輩が1人だけで、
「翔太さんって、今年も夏レンタルショップで働くんですか?」
1年生の後輩から、そう聞かれて、
「お、興味あるの?うーん、1週間くらいだけ行こうかな」
「やっぱ大変ですか?」
「オーナーの人がちょっと海の人って感じだけど、そんなに仕事量も多くなし、全然大丈夫だと思うよ」
ここで言うレンタルショップというのは、ダイビングやサーフィンなどをする人のためのレンタルショップだ。住み込みで働きながら、ダイビングが出来て、1,2先生の時は先輩から誘われて2週間ずつ泊まった。そんな会話をするうちに全員が揃った。
その後は、行きたい場所の計画を練って、早めのお昼を食べた。そしてまず仲店通りに向かい、ちょっと買い食いをしたり、暑いのでソフトクリームなどを食べながら、人混みに流されて、浅草寺に着き、おみくじを引いて、凶だった。そうして階段を降りようとして瞬間…
「葉月―!行くよー!」
と、後ろから女の人の声が聞こえて、心臓が大きく跳ねた。葉月というのはそうそうある名字ではないし、もしかして…と思って振り返った。
振り返って、人混みの中に目を凝らすと、水色のワンピースを着た女の人と目が合った。その瞬間、少し背が伸びて160センチほどになってはいるけれど、少し胸が大きくなっているけれど、化粧もしていてあの頃よりも少し綺麗になっているけれど、確かに葉月だと思った。けれども、同期や後輩達の手前というのもあるし、何より臆病が勝って、声はかけられなかった。それからしばらく心臓はドキドキうるさかったし、梅雨が明けて夏になり、その日は32度くらいあったけれど、きっとそのせいではなく、変な汗止まらなかった。
「どうかしました?」
そう後輩から声をかけられ、ふと我に返ると
「いや、なんか中学の時の知り合いを見た気がして」
と言って、その後は務めて冷静になり、普段通りを演じた。
そうして17時には一通り観光し終わり、
「この後どこ飲み行こっか!」
と言いながら次の予定を立てようとしていたが、なんだかそういう気分になれずに、
「ごめん、今日家族で外食する予定で」と流れるように嘘をついて、1人でそそくさと駅に向かった。浅草駅の渋谷に向かう銀座線のホームで
「坂野君?」と小さな声で呼ばれて、横を見るとそこには葉月夕香がいた。
「電車待ってたら、むこうから歩いてくる姿を見て、もしかしてと思ってさ!今日浅草寺のおみくじのあたりでも会わなかった?」
僕は突然のことに、大げさではなく言葉を失い、3,4秒何も言うことが出来なかったし、心臓が激しく鳴る音と、顔に籠もる熱を強く感じた。
「うわあ、びっくりしたあ!え、葉月だよね?そうだよね、浅草寺のあたりであれ?とは思ったんだけど、人違いだったら嫌だしなと思って」
「あ~、やっぱり!声かけてくれれば良かったのに!」
そんなやりとりをして電車に乗り込んだ。2人ともまだ実家に住んでいるので、最寄り駅が一緒で、駅に着くまでの1時間半お互いの近況だったり、高校生活の話だったり色々話した。
「えー、慶應に通ってるんだ!私早稲田と慶應で最後までどっち行こうかなって悩んでたのに!もし慶應選んでたら授業とか一緒だったかもね」
「でも学部も違かっただろうし、なんならお互い気づかないままの可能性の方が高そうだけどね」
とそんな会話をしながらも、僕はなんだか現実ではないような気がして、人生で始めて自分の頬をつねった。
最寄り駅について、お互い特に予定もなかったので、居酒屋に入った。住宅街なので、チェーン店などもなく、入ったことがないような居酒屋だったが、まあいいかと顔を見合わせて入った。僕はなんだか咲季に悪い気がしたが、それでも葉月からの誘いを断れなかった。そこでは色々話した。別れてからはどんな恋愛をしたのかや、大学で所属しているサークルでの話、バイトの愚痴や、就活の話など。その後も2軒目に行き、結局5時間くらい飲んだ。席について対面していると、久しぶりに見たけど本当に可愛くてタイプだとか、会えて嬉しいなとか色々な感情がこみ上げてきて、抑えるのに必死だったし、もう1年くらい恋人がいないという話を聞いたときは、正直言って嬉しかった。その後12時過ぎにお店を出て、本当はお互いの家には15分くらいで着くのに、2人で小1時間くらい話しながら遠回りをして、最後に連絡先を交換して別れた。その日は朝方までLINEをして、途中で寝落ちしてしまった。その日の夢に葉月が出てきて、思わず「夢に葉月出てきた笑」とLINEした。「やった笑 何してた?夢で」「あんまりはっきり覚えてないけど海行ってた笑」「えー、海行きたいね笑」といった具合にやり取りは続いた。
それから1ヶ月で2回、夕香とは会った。彼女がいるので、自分からは誘えなかったが、向こうからの誘いを断れなかった。
2人で新宿御苑に行った。新宿駅からの道で、たこ焼きとドーナツを買って、ブルーシートを広げて食べた。もう八月で、果てしなく大きな青空に巨大な入道雲が浮いていて、木々には緑の葉がびっしりと生い茂っていて、
「なんだかこういう景色見てると、世界って神秘的だな思わない?」
そう冗談半分に話しかけた。それを聞いて彼女は「何言ってるの」とケラケラ笑っていた。僕は何か自然という大きくて手に負えないものを目の当たりにして、再びこうして出会えたことがすごい確率なのかもしれないとか、運命なのかもしれないとか思っていた。
8月の下旬に咲季と別れた。僕から振った。夕香と出会って、また好きになってしまったというのもあるし、こうやって偶然夕香と出会ったことで、本当にこの人で良いのだろうか、もっと相性が良かったり、運命的な人がいるのではないかという思いが強くなってしまい、歯止めがきかなかったというのもある。思えばどこかに運命の人がいるのではないかという漠然とした想いは、こうして夕香との再開を待ち望んでいたことで生まれていたのではないかとも思った。ただ別れるときはちゃんと苦しいもので、写真やLINEのトークを見返すと辛かったし、泣かないだろうと思っていたが涙も出た。
咲季と別れた後、すぐに葉月から告白され、付き合った。9月と10月は、週に2回は葉月と会った。この期間の思い出は、今でも本当に宝石のように輝いている。まず2人で熱海に1泊2日で旅行に行った。部屋は1部屋しか取らず、軽く観光街を済ませて早めにチェックインをして、それからしばらく体を重ねた。今までに無い興奮と、葉月に触れられることの幸せを強く観じた。2日目は海水浴に言った。葉月の水着姿は雲1つ無い空の下で、本当にまぶしく、今でも鮮明に思い出せる。夕方には綺麗な海辺を見ながら、どちらからともなくキスをした。その後も、何度か旅行に行ったし、渋谷で集まって映画を見たり、ご飯を食べに行ったりした。なんだか夢のような時間だったと思う。
3
冬が近づくと就活が本格化した。それに応じて少しずつ会える頻度は減っていった。彼女は早期選考で行きたかった企業から内定をもらったが、十中八九はじめは地方になると話していた。僕は大学の残り1年と少しを一緒に過ごして、その後3,4年を遠距離恋愛で過ごすのは現実的ではないと思ったし、何より高校に上がって別れた時と状況が似ていると思った。より相手のことを好きになって、結局物理的な距離が離れて別れざるを得なくなった際に、自分はとんでもなく多くのことを引きずり、その後まともに恋愛が出来なくなるのではないかという危惧さえした。
大学4年生になって、僕が都内の企業に内定が決まったタイミングで、葉月の方から
「社会人になったら遠距離恋愛になっちゃうし、多分続かないと思う。苦しいけどそれなら今分かれちゃった方が良いと思う」と言われ、僕は何も言い返せずに、4月の下旬に別れた。
不思議と涙は出なかった。居住地が離れてしまうのであれば仕方がないという思いもあったし、何より過去の記憶に囚われすぎていたのかもしれないと思った。高校のはじめに別れてから、ずっと忘れられなかった葉月と付き合えて、はじめはデートの度に心が躍ったし、相手のことが好きでしょうがなかったが、少しずつ落ち着いてきて普通のカップルのようになっていった気がしていたし、葉月でないといけない理由はなく、他の人と付き合っても幸せになれるという自信が湧いていた。
その後僕は4年生の夏に、サークルの1個下の後輩に告白されて、付き合い始めた。綺麗でスタイルが良く、気の強い活発な子だった。「ここ行きたい!あそこ行きたい!」と年下ながら振り回してくる彼女と一緒にいるのは楽しかった。元々慇懃無礼に突っ込んできたり、いじってくる子で、そういう所も愛おしく思えたし、元々内向的な性質だけれども人と関わりたいし、色々なもことを経験してみたいとも思っていたあまのじゃくな自分と、活発で活動的な彼女の相性は良く、どんどん惹かれていった。いたずらっぽく笑う顔や、頻繁に自分のことを好きだと伝えてくれるところ、人前でも構わず甘えたがるところなど、付き合っている期間が増えたり、新しい側面を知る度に、より好きになっていった。
そのまま2年半付き合って、同棲を始めた。心から相手のことを幸せにしてあげたいと思っているし、一緒にいられて幸せだと思っている。大学4年の秋頃から夕香の夢を見ることも、駅や図書館で面影を探すことも無くなっていた。今では小さい頃の恋愛の記憶が美化されて追い求めていたのかもしれないと思うことがあるし、自分でも随分と長いこと執着していたなと思うが、それでも中学2年生の時に恋をしてから、たくさんの思い出をくれたし、僕の人生を彩ってくれていたと思う。今では葉月がどこに住んでいるのかも分からないが、彼女にも幸せになって欲しいと、素直にそう思えている。
読んでいただきありがとうございました!
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