第6話【弾丸開発】
僕が【魔改造デリンジャー】の開発に成功した翌日――、
えっと、つまり僕が朝寝坊して、親方に怒鳴られた日の夜ですね……。
僕は、昼日中の丁稚奉公を終えて、自分の部屋に戻ると――、
わくわくしながら『弾丸の設計図』を書き上げちゃいました。わーい。
という事で、まずは基本的な『弾丸』の構造を確認してみましょう。
銃の弾丸――正式名称『弾薬筒』は、下記の四つで構成されます。
①弾頭 :射出される弾丸部分。硬質だと貫通力UP、軟質だと殺傷力UP。
②薬莢 :発射薬を収納・保護する容器。頭部に弾丸、底部に雷管が装着される。
③発射薬:爆燃反応によって弾丸を射出する推進用の火薬。雷管で着火される。
④雷管 :薬莢底部に装着される着火装置。撃鉄先端が衝突する事で発火する。
ずばり【弾丸開発】の課題は――『代替素材』を見つける事ですね。
高価な【黒銀鋼】を、使い捨ての『弾頭』や『薬莢』素材にしたくありませんし、原始的な黒色火薬すら発明されていないこの異世界で『発射薬』や『雷管』を製造しなくてはいけません。がんばって調達するぞー。おー。
でも今夜はもう寝ます。寝坊ダメ、絶対。おやすみなさい…すやぁ…。
◆◇ ◆◇◆ ◇◆
「――よしっ。いい感じで『素材』が集まりました!」
あれから三日後。僕の眼前には、机上に置かれた三つの『紙包み』が――、
はい。これが今回の【弾丸開発】のために用意した『素材』たちになります!
まずは『弾頭』の素材として――『銅貨』百枚を用意しました。
【石工ギルド】の帳簿係さんにお願いして、銀貨一枚を両替したものです。
今回、弾頭部分は【魔術工房】で『銅貨』を鋳潰して――【銅弾】――を生成しようかと思います。前世では安価で軟質な【鉛弾】が主流でしたが、今回は狩猟目的なので、野生動物の鉛中毒を考慮して『銅製弾頭』にしようと思います。
次に『薬莢』の素材として、新たな魔鉱石――【黄道鋼】――を購入しました。
これは銅鉱石に【魔素】が蓄積したもので、前世の『真鍮』と似た性質をもつ謎の金ピカ鉱物です。日本の五円硬貨そっくりの素材ですね。
この【黄道鋼】は硬度と靭度のバランスが良く、何より安価です。銀貨五十枚した【黒銀鋼】と同量でも、お値段は銀貨十五枚。【黒銀鋼】の半額以下ですよ。それにやっぱり…金ピカ真鍮製の方が『薬莢』っぽくてカッコイイですよねぇ…えへへ…。
そして最後に『発射薬』及び『雷管』の素材として――、
異世界定番の――【魔石】――を購入しました。あるんですよ。お約束ですよね。
こちらの異世界で流通する【魔石】とは、魔獣の心臓部から剥ぎ取れる『結晶石』の事です。魔獣の血液を巡る【魔素】の供給源とされ、使い捨ての『魔素電池』として【魔術工房】で術式制御すると、いろんな道具の動力源に変換できます。例えば、この部屋にある角灯も『小さなクズ魔石』を燃料に使っています。異世界生活の必需品ですね。未加工の【魔石】は、主に【冒険者ギルド】の販売所で購入できます。
今回は一番安価な【Fランク魔石】を、三十個ほど購入しました。一個あたり銅貨一枚ですね。これを【魔術工房】で術式制御して――【魔石火薬】と【魔石雷管】を製造したいと思います。
ちなみに、今日は丁稚奉公がお休みなので――、
午前は【弾丸製造】、午後は【試し撃ち】の予定です。えいえいおー。
◆◇ ◆◇◆ ◇◆
「――というわけで、さっそく【弾丸製造】を始めましょう!」
僕は腕まくりをして、机の上に『弾丸の設計図』と『素材』を並べると――、
ゆっくりと深呼吸しながら、体内の【魔素】を練り上げていきます。
指先に灯る魔光で、幾何学模様の羅列を紡ぎ、魔法陣を編めば……。
いざ【魔術工房】の時間です――!!
まずは『弾頭』の錬成ですね――。
弾頭重量一〇グラムの設計に対して、銅貨一枚およそ五グラムなので――、
銅貨二枚を【魔術工房】の魔法陣に取り込み、じわりと鋳造していきます。
弾頭の形状は、先端が山なりのドングリ型に造形して――、
弾丸の口径サイズは『9mm弾』で調整します――おぉ~いい感じです。
次は『薬莢』の錬成です――。
硬度と靭度を保てるように【黄道鋼】を圧縮成形しながら、筒状に造形して――、
薬莢サイズは、発砲時の反動を制御しやすい『9×29mm』仕様で調整します。
薬莢底部には、銃弾の固定や、空薬莢の取り出しが容易になるように――、
『抽筒板』という出っ張り部分も再現しておきます。うふふ…かっこいい…。
さて、次は『雷管』の錬成です――。
小指の爪サイズの【Fランク魔石】を一粒、魔法陣に取り込みまして――、
暴発防止付き着火機能『起爆・凹』を術式制御で刻印します……よしよし。
すでに【魔改造デリンジャー】の撃鉄先端は『魔石撃針』に換装済みで――、
その『魔石撃針』には、術式制御で『起爆・凸衝突限定』を刻印してあります。
これで撃針と雷管の衝突時のみ『起爆』術式が発動する【魔石雷管】の完成です。
あとは【魔石雷管】を薬莢底部に装着すれば――これでバッチリです。
さあ…最後に『発射薬』の錬成ですね――。
まずは【Fランク魔石】を、術式制御で丁寧に『爆燃火薬』に性質変化させます。
それを粉粒状にすれば【魔石火薬】の完成ですが……問題は『量』の調節ですね。
薬莢に詰める【魔石火薬】を少量ずつ変えて、【試し撃ち】で確認しましょう。
さて、あとは出来上がった【魔石火薬】を薬莢内部に収納して――、
先ほど錬成した『弾頭』で蓋をすれば――【弾丸】の完成です!!
――――――コトン。
「……わあっ。ちゃんと見た目は【弾丸】ですね!」
僕は錬成された【弾丸】を指先で摘まむと、眼前に掲げて見つめます。
でへへ…かっこいいです…。思わず頬が緩んじゃいますねぇ…にやにや……。
その後は【魔石火薬】を少量ずつ変えた『試作弾丸』を数個製造したところで――
正午を告げる教会の鐘音が聞こえてきました。
あぁ~お腹ぺこぺこです。工房の食堂で昼食を貰いましょう。
そして午後は、いよいよ【試し撃ち】ですよー!!
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【稼ぎ】
・なし
【出費】
▲銀貨一枚 (銅貨百枚に両替後、弾丸素材へ)
▲銀貨十五枚(黄道鋼を購入)
▲銅貨三十枚(Fランク魔石・三十個を購入)
【残金】
・銀貨二十二枚、銅板七枚(日本円で二十二万・七千円)
【備品】
◆魔改造デリンジャー銃(一丁)
・黒銀鋼 (残り半分ほど…)
・魔獣骨 (バネ素材の余り)
・ネジ回し(一本)
◆弾丸 (試作品・四発)
・銅材 (銅貨二十二枚分)
・黄道鋼 (ひと握り)
・魔石 (Fランク。残り二十個ほど…)
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■おまけ■
ちなみに【黒銀鋼】は1kg=50万円なので、
重量10gの弾頭を【黒銀鋼】で製造すると、
「銃弾1発5000円」になります。うひゃー。