表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

第3話【銃器開発Ⅰ】

 

 さて、その日の夜――。

 僕はいつものように工房内の雑用をこなし、夕飯を食べ終えると。三階にある住み込み部屋に戻りました。部屋にあるのは小さな机に箪笥とベッド。物置のような狭さですが、一応は個室です。


 扉柱に掛けてあった角灯(ランタン)に明かりを灯して――、

 僕は、小脇に抱えて大事に持っていた『紙包み』を机の上に置きました。


 包み紐を解けば……そこには漆黒色の鉱物が!

 はい。今朝がた、親方に頼んで購入した【魔鉱石】です。

 うへへ。顔がニヤけちゃいますねぇー。



 今回購入したのは――【黒銀鋼】――という魔鉱石です。

 黒曜石のような光沢ある、前世の『鉄鋼石』と似た性質をもつ謎鉱物です。


 ひと握りの【黒銀鋼】で、重さは約一キログラム。

 お値段は銀貨五十枚。日本円で……およそ五十万円します。とても高価です。


 異世界の庶民は、月に銀貨十五枚(日本円で約十五万円)程度あれば、大人ひとりは普通に生活できると言われています。やっぱり【黒銀鋼】は高価ですね……。



 ちなみに【石工ギルド】で『見習い徒弟』をしている僕ですが――、

 じつは毎月、銀貨五枚の『お小遣い』を貰えています。だから支払えました。


 あっ。本来の徒弟制度であれば、見習いは無給ですよ?

 親方が、見習いに職業訓練を施しながら、その衣食住も世話するからです。

 その代わりに見習いは、親方のもとで、住み込みで丁稚奉公するわけですね。

 貧家からの丁稚であれば、ご飯が食えるだけ『御の字』と言ったところです。


 では、なぜ僕は給金を貰えるかと言えば――僕が【魔術師】だからです。

 僕が構築する【魔術工房(マギクラフト)】は、まだ熟練度が足らず、大物石工はできません。でも小物細工に関しては、親方から『筋がいいぜ』と認定されています。


 そこで【石工ギルド】の工房長が、十五歳未満の子供だけど、半人前の職工として『定額制の小遣い』を支給する――と裁定してくれたのです。太っぱらです。

 まーこの裁定は、僕が陪臣家の出身である事や、貴重な【魔術師】を囲い込む意味合いもありそうですが。



 とにもかくにも。十歳の頃から丁稚奉公に勤め、今年の春で三年目……。

 毎月コツコツと貯金していたので、僕には手元資金が銀貨九十枚ほどあります。

 今回の【黒銀鋼】購入で、開発資金の半分をつぎ込んでしまいましたけど。

 我が貯金に一片の悔いなし、ですね。


 さあ、いよいよ【銃器開発】の始まりです――!!



  ◆◇ ◆◇◆ ◇◆



 と、めいっぱい意気込みはしましたが……。

 僕はまだ半人前の【魔術師】です。僕が構築する【魔術工房(マギクラフト)】では、一度にできる加工量も少ないです。ちなみに、血液中の【魔素(マナ)】を一度に使い過ぎると、酸欠ならぬ『魔力切れ』を起こして倒れてしまうので注意しましょう。


 さらに言いますと……。

 僕の【魔術工房(マギクラフト)】で錬成できる対象物の質量は、約二〇〇グラムまでが限界です。

 まあ、どのみち【銃器】は内部構造が複雑なので。結論として、完成品の【銃器】丸ごとを、いきなり【魔術工房(マギクラフト)】でポンッと造形するのは不可能なのです。

 そこで今回は――【銃器】を部品単位で造形して、組立式にする必要があります。



 そのためにも、まずは『ネジ』を作りましょう。



 『ネジ』とは、別個の部材を締結する固着具です。

 前世では『ねじ構造』の普及により、部材に互換性が生まれ、加工技術が飛躍的に発展しました。産業革命の礎にして『産業の塩』と呼ばれる基幹技術です。

 もちろん組立式の【銃器】にも、必須の部材となります。がんばるぞー。


 僕は、机上に羽根ペンと定規と紙を置くと――まずは『設計図』を書き始めました。対象物の具体的な錬成結果を、図面に書き起こすのは【魔術工房(マギクラフト)】の基本です。



 数十分後、いい感じに『ネジ』の図面を書き終えました。

 それでは次に【魔術工房(マギクラフト)】で造形してみましょう。ワクワクしますね。



 僕は体内の【魔素(マナ)】を練り上げると――【魔術工房(マギクラフト)】の魔法陣を構築します。

 直径二〇センチメートル程の、幾何学模様の円陣が淡く輝きだすと――、

 机上に置かれた【黒銀鋼】から、数グラムが削り取られ……虚空に浮かびます。


 さあ、ここからが重要です……。

 【魔術工房(マギクラフト)】とは、『術者が作業の実現性を確信できる範囲の事象』を再現するものです。つまり脳内で『製造工法』をしっかりイメージする必要があります。


 そして多くの石工職人は、自身が石彫りした経験から『切削』術式を【魔術工房(マギクラフト)】に転用して、ガリガリと削りながら石材を加工します。


 でも……想像してみて下さい。前世で見たあの小さな『ネジ』部品。

 あの綺麗な均一の間隔と深さで刻まれた『螺旋状の溝』を、ちまちま石彫りで再現したくないですよね……。


 そこで僕が今回やりたいのが――『積層造形法』です。

 ずばり、前世で憧れた『3Dプリンター』の製造工法をマネする作戦ですね。

 うまく出来れば『設計図』と術式を転用して、量産体制も作れちゃいますよー。


 僕の構築した【魔術工房(マギクラフト)】の魔法陣内で――、

 粘土状になった【黒銀鋼】が層状に敷き詰められ、立体を象り始めます。


 造形開始から約五分後……。

 最後に組織全体を『結合』術式で硬化させれば……。



 ――――――チャリン。



「わっ。思ったより上手に出来ました!」



 コロコロと机上で転がる――漆黒の金属製ネジ。

 僕はそれを指先で摘まむと、しげしげと眺めてしまいます。にやにや。

 耐久試験として、木槌でドコッと叩きつけて――うん。欠損なし。完璧です!


 その後、嬉しくなって『ネジ』を何本か『複製』しちゃいました。

 あ、頭がふらふらします。もう魔力残量が限界です……。



「うへへ。この調子なら…すぐに【リボルバー銃】も完成しそう…で……すやぁ」



 僕は、のそのそとベッドに潜り込むと――そのまま眠りに落ちるのでした。




  ◆◇ ◆◇◆ ◇◆


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【稼ぎ】

 ・なし

【出費】

 ▲銀貨五十枚(黒銀鋼を購入)

【残金】

 ・銀貨四十枚

【備品】

 ・黒銀鋼(ひと握り)

 ・ネジ(数本)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


■おまけ■

 異世界の貨幣について!

 ・銅貨1枚  (日本円で  100円)

 ・銅板1枚  (日本円で 1000円)

 ・銀貨1枚  (日本円で   1万円)

 ・銀板1枚  (日本円で  10万円)

 ・金貨1枚  (日本円で 100万円)

 ・金板1枚  (日本円で1000万円)

 ・白金貨1枚 (日本円で   1億円)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ