第3章 プロ奇術師の判断
第3章 プロ奇術師の判断
さて、大体の登場人物のプロフィールを述べさせてもらったが、このような複雑怪奇な人間模様の中で、今回の凄惨な事件がおきたのだ。
その中でも、中心的な役割を果たしたのは、私の家の隣人の神尾雄一奇術部部長に違いが無い。
ただし、動機の面からみると怪しい人物が上記ように、何人もいるのだ。
まあ、県警が、事故よりも事件のほうに重きをおいて捜査したというのも頷けるだろう。
では、あんたの娘の綾はどうかって?自分の娘が真犯人なら、こんな小説など書きはしまい。それに、最終的に真犯人を発見したのは、名探偵のモデルの曾孫である私の娘の田中綾なのだ。
で、県警は、表向きは事件と事故の両方から操作を開始しているとしながらも、これは殺人事件に違いないとして、関係者の事情聴取や、証拠集めに奔走したのだ。
だから、疑わしい人物は、徹底的に調べられた。特に、上記の人物らは、全員任意とは言え、警察にて、徹底的に取り調べられた事は、間違いが無い。
しかし、当該トリック装置は、ほぼ奇術部全員で作っており、誰か、一人が小細工を行う事は無理だと、分かった。
……このため、結局、何の新たな事実も発見出来なかったのである。
結局、警察の辿り付いた結論とは、「地獄のギロチン」の作成時か、あるいはその後に、何らかの細工がなされたものだろうとの、結論に達したのである。……しかし、この「地獄のギロチン」の作成は、今も言ったように、奇術部の部員、皆で行っており、誰か一人で作っていたものでは無かったのである。つまり、特定の個人は絶対に絞り込め無かったのだ。
しかも、山田実奇術部特別顧問によれば、この「地獄のギロチン」のトリック台自体は、極、世界的に、普通のトリックで使われていると言うのである。
うまい具合に、丁度、隣県のI県に、日本では天才と称されている2人の奇術師が、同じ会場で奇術のコラボ競演を行っていたので、高名な2人の奇術師に、例の「地獄のギロチン」の仕組みを、極秘で見てもらった。
1人は、女性の奇術師の押田天女氏で、主に空中消滅等の大がかりなイリュージョンを得意とし、もう1人は男性のミスター・マジック氏で超能力に似せた奇術を得意とするのだ。
日本で超有名なこの2名の奇術師に、今回の「地獄のギロチン」の仕組みを解析してもらい、そこに何らかの人為的な操作や工作が行われていないか、調べてもらったのである。
しかし、2人ともこの「地獄のギロチン」の仕掛けそのものは、実にオーソドックスなものであり、取り立てて珍しい仕組みではないと、断言したのだ。
つまり、大根等を入れて切ってみせる時は、「地獄のギロチン」の横にある金属ピン2本を押し込まず、そのままギロチンの刃を下まで落下させるから、その刃の重みでスパッと切れるのである。
そして、実際に本物の人間が首を入れた時は、出演者でもある神尾雄一奇術部部長が、そのギロチンの横の金属ピン2本を指で押し込み、ギロチンの刃を途中で止めてしまうのだ。
ただ、これでは観客の目には、ギロチンの刃が途中で止まった事が目で見えて分かってしまうので、このギロチンの刃は上下2枚重ねとなっており、途中で止まった時は、上のほうの銀メッキ製の硬質プラスチック部分がそのまま下の方のほうにずり落ち込ちるような構造となっていて、見た目には、ギロチンの刃が、根本まで落ち込んだように見えるのである。
で、ギロチン台に首を乗せた人間は、飛び散る鮮血に似せた液体が霧のように噴出中に、その鮮血を煙幕替わりに、そのまま体をギロチン台の下に潜りこませ、ほぼ同時に、「玩具の生首」がスプリングで発射される、と、まあ、こんな仕組みであると言うのだ。
結局、2人の高名な奇術師は、ギロチンの横の金属ピン2本が確かに根本まで押し込んであった事を確認し、今回の事件はギロチンの刃を途中で止めるための金属ピンが、「金属疲労」でポキリと折れてしまい、結局、ああいう悲惨な結果を招いたのだと結論づけた。
県警は、更に慎重を期し、その折れたピンを、金属疲労の研究での世界的権威者であるT大学工学部の亀田弘一名誉教授に鑑定依頼し、その話の裏を取る事にした。
1週間後、亀田弘一名誉教授及びその研究グループは、確かにその金属ピン2本には、ヤスリ等での傷等は一切存在せず、「学園祭前に何度も練習した結果の金属疲労」により、当該、金属ピン2本が折れたものと発表したのだ。
これにより、あの地獄の学園祭事件は、故意によって引き越されたものではなくて、単なる事故であったろうと結論付けられたのである。
ここで、このマスコミが騒いだ『地獄の学園祭事件』は、T大学名誉教授の証言により、事件ではなくて、とりあえず事故だった事になったのである。