6.過ち
「はぁ、真夏だけど夜は、肌寒いわね」
私はコンビニに風邪薬を買いに行っている。
「風邪薬、風邪薬っと。あった。ついでにヒナの好きなキャベツ次郎とのるのるのるのを買ってあげよう。」
「有り難うございましたー」
このコンビニのアルバイトの学生は元気で、こちらも気分が良くなる。
????:「おっどこかで見た顔だと思えば、モネじゃん」
最悪だ。人生で2度出会いたくない人に出会ってしまった。
「おいおい。無視しないでくれよ。久しぶりに会えたんだからさ」
「………どうも、娘が待っているので。それじゃあ」
「まぁ待って。話でもしよう」
「あなたと話す事は何ひとつとしてありません」
「そうかい、、」
パシャ、、、、嫌な音が聞こえたが無視して早足で家に向かった。後ろから付けられていない事が分かり安堵したが、先程までの良い気分は興ざめしてしまった。
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あれは思い出したくない。私の過ちだ。
あの男の名はカリ。就職先の3つ上の先輩だった。
ある日の仕事終わり、職場で仲の良い人達と忘年会を行っていた。あの頃は頼もしい先輩だった。その日、解散してから後の記憶がない。
その日の翌日から異変が起きた。何故か皆から避けられるようになった。なぜいきなりこんなに避けられているのか。疑問に思い、あの男に聞いた。すると、とんでもない返事が返ってきた。
「それはね、僕と君が付き合ったからだよ」
「………はぁ?」
何を言っているんだコイツは。言ってる意味が分からない。
「すみません。私には大切な彼氏がいるので、変な冗談やめてもらっていいですか」
「あぁ、確かスミレ君だったかな。昨日話したよ。とても君を大切に想っていたようだね。でも安心して。僕がそれ以上に想っているから」
昨日何が起きたのか掴めない。急に怖くなり、私はその場から逃げた。
仕事終わり一緒に行った女の子も知らないと言われて避けるように帰っていく。
「モネちゃん、何でスミレ君と別れてカリさんに乗り替えたの?」
職場の同僚で大学のクラスメイト、そしてスミレ君の親友のショウくんが声をかけてきた。
「え?何の話?私はスミレ君の彼女でカリさんの彼女じゃないけど」
「そうなの?でも昨日色々あったって。別れたって言ってたよ」
「え?別れた?実は忘年会の途中から記憶が無くて、、、昨日のこと詳しく教えて!」
何でこんなことになっているのか。頭の整理が追いつかない。
「昨日の事は彼氏である僕が話そう」
「………ショウ君お願い!!」
「いや、これは2人の問題だから」
そう言い残してショウ君は去ってしまった。嫌われてしまっているかの様にショウ君の目が冷たかった。なるべく話したくないが何があったのかは知らなければならない。
「手短にお願いします」
「仕方ない。けどデートは明日だからね?」
「………早く、話して下さい」
「分かったよ、けど君は立場が分かっていないようだ」
その日の出来事はこうだ。
私は酔っぱらってしまっていたのかは分からない。いや、そこまで飲んでない筈だから記憶を無くすほど酔い潰れることはない。解散後、カリに手を握られ帰宅の途にいた。私は歩きながら寝ていたらしい。その時、大学の友達と名乗る2人が話しかけてきて、私の話になった。そして、私との関係を聞いたらしい。それにこの男は彼氏、彼女の関係と答え、キスをする素振りを見せた。
するとその2人は、冷静にキスをするのを止めに入り、少し待っててほしいと言って、誰かに連絡をとっていた。
数分後、この人と話をしてほしいと言われて、その相手がスミレ君だった。スミレ君は自分が身を引く条件として、その日の夜は何もせずに家に帰らせる。ということだったらしい。
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次の日、スミレ君と話した内容は鮮明に憶えている。私はその言葉を一生忘れないだろう。
はぁ嫌な記憶が蘇ってしまった。
「ただいま」
「おかえり!ママ!」
「ヒナ、、、、」
「ママ?」
ヒナに抱きついていた。怖かった。また、この幸せな家庭が崩されてしまうと思うと。
「…………ママ、悪い誰かはパパが必ず退治してくれるよ」
「そうだね。そうだよね」
8歳の娘に諭されてしまった。記憶を消していた自分の過ちが鮮明に蘇ってしまった。もう寝てしまおう。睡眠と同時に消えてしまえばいいのに。
翌朝
ジリリリリリ、アラームで目を覚ます。過去の過ちは消えてはくれなかった。
「早くスミレくん、帰ってきて、、、」
そう願うばかりだった。
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ジリリリリリ、アラームが鳴る。よし後5分寝よう。
「はーい、みんなおはよう。朝風呂へレッツゴー」
ショウとサルが残りの4人を起こしにかかる。あぁ、俺の幸せタイムが、。。
朝風呂、朝食を終えひと段落ついていると、
「ごめん、ちょっと急用出来たから先に帰るわ」
スノーが慌てて、帰り自宅の準備をしている。俺もヒナから早く帰ってこいって言われてるしな。スノーだけ帰るのもちょっと寂しいだろうな。
「俺ももうちょっと楽しんでから先に帰ろうかなと思ってたけど、スノーと一緒に帰ろうかな」
「いや気を使わんでいいよ。俺の分まで楽しんでよ」
「そっか、、、。分かった」
「じゃお先に」
スノーは帰って行った。
「こりゃ彼女ですな、顔がにやけてたぜ。」
「だよね。でも足になってしまっている可能性大だな」
「辛いけど否めないわ、、ハハッ」
「ふっ、よし、俺たちも準備するか」
俺から見ると笑ってないように見えた。こう見えて俺は人の行動、表情から感情を読み取れるという特技がある。ズバリ彼女ではないな。さて、俺は昼過ぎには家に着くようにしないとな。
「ふぅ、やっぱり最高でしたな」
何をしているかって?もちろん温泉に入りにきた。俺が思うには3日間温泉に入り続けることも出来る。温泉最高!っとそろそろ帰る時間だ。
「みんな、最後に写真撮ろう」
そう本当に最後だ。もう会うことは出来ない、だろう。大学からずっと一緒にいた。沢山の事があった。沢山喧嘩したし、助け合ってきた。
「はい、チーズ」
良い笑顔だ。スノーが居ないのは心許ないが仕方ない。
「みんな、、、、有り難うな、、、、」
「ん、なんて?」
「………俺は今日で居なくなるかもしれない。それでも俺は皆と一緒に生きていきたい」
「なんだよそれ、安心しな。ずっと一緒だ」
フジがそう言うと、皆も頷く。
「俺は幸せだった、皆がいたから」
喪失感が急に迫ってきて伝えたいことが伝えられない。これが親友達に送る最後の感謝の言葉。
「じゃ、俺帰るね。また」
「スミレ、またな」
振り返ってまたねと言いたい。けど、、言えない。笑顔なのに涙が止まらない。
薄気味悪い顔をなるべく隠し、そのまま帰宅の路を歩むのだった。
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