最終章 良いリンゴは良く糞の上に落ちる
「さぁ、君の全ての旅が終わった。お疲れ様」
「ありがとうございます」
「それで、答えは出たかしら?」
「これこれ、ミカ殿。そう焦らさんでも良いだろう」
「そうだぞ。ミカよ。先ずはスミレ。君の人生、そして、この旅を振り返ってみて何を思った?」
「正直にいうと終わりたくないですね。色々な事があったけど、楽しかった。
当たり前にあった現実はもう来ることは無いけれど、生きるっていいなって。そう思いました」
「そうだよな」
レグルスさんは頷く。すると次は閻魔大王が口を開く。
「スミレの人生は突如終わってしまった。そのことに後悔はないのかい」
「確かに、やり直しの旅をするには少し早すぎた。
でも、俺は楽観的なんです。
これは俺の1つの運命で、そこに不正解の答えなどない。無数の選択があり、そこには無数の正解がある。
このような終わり方だったから、やり直しの旅が出来て、もっと自分が歩んできた人生に誇りが持てました。
今、後悔なんてものはありません」
「スミレはポジティブだな」
「はい!そうやって生きてきましたから」
閻魔大王は、何やら上出来だと言うかのように此方を見ている。それは、レグルスさんやミカ様も同様だった。
「私達はね、誰でもこのような旅をさせる訳では無いのよ。
人間はよくピンチの時に人の本性が現れるというわよね。それと同じで、ピンチの時こそ人からの信頼があるのか、人から愛されているかが分かるの。
サトやスノーの件の様に貴方をどのような形であれ、助けようとする人がいる。スミレ。貴方の生き方は沢山の人に愛されていたのよ。
だからこそ、最後に良い夢を見られるように貴方に旅をしてもらったの」
ミカ様はとうとう俺がこの旅をすることになった本当の理由を話してくれた。まさか、そんなに優しい理由だったなんて、、。
「……………とても嬉しいです」
俺の行いは間違ってなかった。きっと誰かを救う事が出来ていた。笑みが止まらない。
「ありがとう、、ございます」
「スミレ、君が生きた証はきっと、友や家族に記憶として残り続ける。その記憶はきっと、彼らを助けてくれるものになるだろう」
「そう言っていただけるだけで、自信が持てます」
「寧ろ、自信を持つのが遅すぎるくらいだ。我は最初からスミレはそういう良い男だと信じていたぞ」
「レグルスさん。ありがとうございます」
そうか。死ぬことなんて考えたことが無かったが、いざ死ぬ側になるとこういうなんとも言えない感情になるのだろう。
「死にたくないな、、、」
しかし、今までの人生に、そして、未来、過去、別世界と旅した記憶に一区切りする時が来たようだ。
その証拠に今までバラバラな姿勢で寛いでいた3神が、それぞれの定位置へと移動し、姿勢を正している。
閻魔大王が何か呪文のようなものを唱えると3神が座る先の向こう側の壁に扉が現れた。
「それではスミレ。そろそろ君の人生に終止符を打とうと思う。良いかな」
「……………はい」
「スミレ。君はシャッテンで言っていたね。出会いに恵まれていると」
「……はい」
「私はこう考えている。運命の人。運命の場所、運命の時間。それはきっと当たり前のようで当たり前ではない。「命」を「運ぶ」尊い出会い。きっと良くも悪くも、運は人の「才能」なんだ。だから君は、誰しもが決して掴み取る事が出来ない、とてつもない才能を持っているんだよ」
「………!!」
俺の才能?俺は何一つ突出した才能はなかった。どれもが殆ど平均並み。だから、楽しく生活こそしていたが、恥ずかしくも何もない自分を嫌っていた。
「俺にはこんなに素晴らしい才能があったんですね、、、」
「ふっ、自分で言うんじゃないよ。だがその通りだ。勿論。スミレのような慕われる人格ありきの話だ」
閻魔大王は一息つく。そして、スミレとの別れを惜しむかのように、終着点までの人生を労うように語りかける。
「向こうの扉の先に3つの道がある。その分岐点にはそれぞれ象徴するものがあるはずだ。1つを選び道の先にある扉を開けるんだ。そこが君の最後の選択となるだろう」
俺は3神と目が合った。3神はどこか微笑んでいるように思える。
どこか俺を温かく見守ってくれている気がして、不安や緊張も和らいでいく。
俺は大きく頷いた。
「スミレ。胸を張って進むといい」
閻魔大王はそう言うと一瞬にして景色が変わる。物騒な裁判所のような部屋は、明るい光が窓から差し込む、見慣れた部屋へと移り変わった。
「一つはリンゴの花。そこには過去の記憶。スミレのやり直したいという経験があった。そこに宿した気持ちは良くか悪くか。儚く、無情にも長年と大きな印象を抱かせてきた。まさに「後悔の花」である」
それに続き、レグルスさん、ミカ様と続く。
「一つはリンゴの木。そこは未来の記憶。スミレの輝かしい人生があった。家族や友に信頼され、常に誰かの支えとなっていた。これまでの経験を全て栄養として蓄えられた木は堂々と聳え立っている。まさに「名誉の木」である」
「一つはリンゴの実。そこは別世界の記憶。スミレに託された世界があった。「洗脳」という脅威に耐え、戦い、友を救った。友の幸せを勝ち取った。その先に有る大きな闇をひた隠すように生き生きとした立派な実が成っている。まさに「誘惑の実」である」
俺は三神の放つオーラとその言葉に圧倒し、瞬きすら出来なかった。
「さぁスミレ。進む道は決まったかしら?」
「………はい。もう決まってます」
「そう。なら進みなさい。残念だけど私達とは此処でお別れよ」
そうか。この人たちともお別れか。とても長く感じた。最初は怯えていたけど、なんだかんだで良い神様達だったな。
「なんだかんだとはどういう事だ?スミレ」
そうだった。心を読まれるんだった。
「冗談ですよ。皆さん。………本当にお世話になりました。スミレとして性を受け、生きることが出来たこと。そして3神の皆さんの力を借り、人生を見直すことが出来たこと。今はとても誇らしい気持ちで一杯です」
その言葉を聞いて3神が強く、そして優しい光を纏う中、閻魔大王が最後に口を開く。
「スミレ。22年という人生。そしてやり直しの旅。ご苦労だった。
これからの未来を支える1人となったであろうスミレが、亡くなってしまうということは実に残念だ。「良いリンゴは良く糞の上に落ちる」ということはまさにこのことだろう。しかし、君という存在が残したものはきっと無くならない。これまでのその姿、実に見事だったよ」
「ありがとうございます」
俺は深く一礼した。
「さぁスミレよ。最後の選択だ。行ってこい」
俺は扉を開く。まるで俺が住んでいた家を飛び出るみたいだ。
「……………はい!それでは行ってきます!」
「あぁ、行ってこい!さらばだ」
3神の纏った光は、扉を閉めきる前には無くなっていた。きっと、それぞれ何処かへ行ったのだろう。知らないけどね。
部屋の先に続く道を歩き始める。
進むにつれ、何も無かった景色が青空に、地面は草木が生え、鮮やかな世界へと移り変わる。
3つの道へ分かれる分岐点へと辿り着いた。3神に言われた通り、右の道には綺麗に咲く花。真ん中にはより気高い木。左の道には大きく成っている実が幾つもある。
実はリンゴの実だと分かるが、リンゴの花や、リンゴの木は初めて見たな。
分かれた先には、それぞれ目に見える距離に扉がある。
俺は少し分岐点に佇むことにした。進む道はもう決まっている。
最後に全ての記憶に浸りたいから。
俺の全て。楽しかった。色々な人との記憶が、そこにあった物語が蘇る。
未来のモネ、ヒナ。スノーら大学の親友達。兄貴。
サト。ヨシキ。チヒロ、ユウタ。ワカちゃん。
シャッテンのモネ、ヒナ。そしてユイナ。
皆、、、、忘れてしまうけど、絶対忘れない。
「……………………よし。行くか!」
俺は再び歩き出す。俺は迷う事なく1つの道を選び進む。
そして、俺は扉を開いた。
「さようなら、俺、、、、」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.
「ガッシャン!!!」
物騒な音が響き渡る。
「スミレ君!スミレ君!」
聞いた事のある声が聞こえる。
「………モネ、ちゃん?」
「スミレ君。大丈夫?!今、救急車呼んでるからね」
「モネちゃん。俺は、、もうダメだ」
「そんなこと言わないでよ!きっと何とかなるから、、、」
あぁ、俺は死ぬんだな。
曖昧な君の記憶。間違いないのはひとつ。
出会い、惹かれ、願い重ね、愛されたこと。
「モネちゃん。ありがとう、楽しかった。でも、叶うなら、、君と過ごす未来をもっと過ごしたかった。もっと味わいたかった、、、」
「スミレ君?何を言って、、。スミレ君!」
これから段々と君の僕は消えていく。皆もそうだ。
けれども、俺の人生は。俺の運命はとても僥倖だった。かけがえのないものだった。
「スミレ君!起きてよ!お願いだよ、、、、スミレ君!!!」
〜15年後〜
「ママー!早く行こーよー」
「はいはい。今行くわ」
モネ専用のクローゼットにある箱は家族すら空けることを許されていない。
そこには2つの手紙が入っている。
「行ってくるね。ナツ君、、、ううん、スミレ君。君がいたから私は、今こんなにも幸せなんだよ、、、。………それにしても、最後の言葉は何だったんだろう」
「ママー!早く!!」
「はいはい」
「さぁ行くぞー。動物園!」
「おー!」
(完)
良いリンゴはよく糞の上に落ちる~木か実か花か~完結です。
拙い文章ばかりで理解出来ない所も多々あったと思いますが、半年間ご愛読していただきありがとうございました!!