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      4.尋ね人

 

 挨拶をしたのは良いが心なしか睨まれているような、何処か試されているような先日とは違うオーラを放っている。



「お嬢さんは今から登校かい?」

「はい。でも今日は天気が良いので少し遠回りして、河川敷の綺麗な景色でも見ようかなと思って」

「そっか。此処の景色とても綺麗だよね」


 辺りは桜が一つまた一つと散っていく。おじさん達が朝早く歩くウォーキングロードは桜の花で鮮やかに装飾されている。


「はい。この景色を見ると元気が出ます」


「………何かあったのかい?」

「いえ。何も、、。何もありません」



「………あ、そうだ。ちょっと手を出して」

「はい?」


「はい。これあげる」

「これは、、、」



「そう。四葉のクローバー。俺はね、昔四葉のクローバーを見つける天才と自負していたんだ。それに就職の面接で「四葉のクローバーの見つけ方という特技があります!」って言ったくらいなんだ」

「…………ふふっ、独特ですね」



「これで気持ちも晴れやかになれるってもんだ。きっと良いことあるさ」

「はい。そうですね」


 疑い深く、何処か気が沈んでいた彼女は静かに微笑んでいた。



「………あの、また来ても良いですか」

「あぁ、もちろん。お嬢さんなら大歓迎だよ」


 彼女は嬉しそうに答える。


「それでは私はこれで」


 一礼すると颯爽と駆け出す。



「気をつけて。学校頑張れよ!」


 真っ直ぐに続く一本道を駆け抜ける彼女の背中と自分の無我夢中で走っていた青春時代を重ね合わせ、あの頃の悩みや想いを懐かしんでいた。


「青春ってやっぱりいいよなぁ」




「そうだよねぇ」

「うわっ!って………誰すか」

「ん?たまたま通りがかった唯のお爺さんだよ」


 「後ろからいきなり声をかけないでください!」と言いたかったが、何せ全く知らないお爺さん。流石に言えない。


「じゃ、ワシはこれで、、、」

「き、気をつけて」


 一体なんなんだ。このお爺さんは。謎すぎる。


 今日は休憩がてら、この世界の俺、友達を探していた。確定ではないが、分かる情報はあのお婆さんくらいの年齢だということ。見た目からして60代後半くらいだろうか。


 確か閻魔大王とレグルスさんがいうには元いた世界のこの「シャッテン」はまるで違うらしい。


 俺は、作業療法士になろうとしていた。そのまるで別物となると、、、


 まさか!?医師じゃね??もしかすると頭がめっちゃ良くなっているんじゃね??


 相当な期待を込めて、色々聞き込みをした。


 そして、ついに、、、見つけた!






 ヒラギノ財閥内


「只今帰りました」



「おぉ我が娘よ。母上のお世話を頼んだぞ。そういうことでしか使えないからな。しっかりと働け」

「……………はい。お父様」

「どうした。早く行かないか。ロボットが、、オッホン、母上が待っているぞ」

「はい」


 私は週に2回お婆ちゃんのADLのお手伝いをしに、この人生で1番嫌いな場所に通っている。けれど、本当に辛い思いをしているのはお婆ちゃんだ。そう思うと私がなんと言われようとも我慢できる。



「お婆ちゃん。今日はお風呂の日だからね。家政婦さんと一緒に入ってね。それとその間少し掃除しちゃおうかな」


「…………………」




 お婆ちゃんは昔よく笑っていた。


「お婆ちゃんはね。お爺ちゃんと運命的な出会いをしたの。お婆ちゃんね、子供の頃。お爺ちゃん姿に一目惚れしちゃったの。その時はそのまま別れたんだけど、また再開したのよ」


 これは何回も話していたお婆ちゃんのお話。その時のお婆ちゃんはいつも嬉しそうだった。


 しかし。今となってはそれは洗脳されていた姿。あの時のお婆ちゃんの表情は忘れもしない。人生の全てに絶望した顔。それもそうだ。何せ数十年、あのクソジジイに洗脳されていたから。


 気がつくと、嫌いな相手との間に性格最悪な子供がおり、さらには孫まで。お婆ちゃんの気持ちを考えたらもう堪らない。


 だから孫の私達も嫌っていることは当たり前だろう。


 だからこそ、私は、私だけでもお婆ちゃんに手を差し伸べたいと思う。


 お婆ちゃんが話していたあの出来事は本当だったのか。それにお婆ちゃんは本当はどのような人なのか、、、。


「今度あの人に話してみよう、、、」




「家政婦さん。よろしくお願いします。お婆ちゃん。いってらっしゃい」

「………………」


「はい。じゃあいきましょう」


 唯一の救いは家政婦さん達が洗脳されていないことだろう。お婆ちゃんに対してもクソジジイ達にバレないように優しく接してくれている。何故かは分からない。



「そろそろ掃除するか」


 私は週2日お婆ちゃんの部屋を掃除するがいつも部屋はぐちゃぐちゃだ。お婆ちゃんはきっと物に当たるしかないんだろう。そう思いながらいつも散らかっているものを元の場所へ戻していた。




「ん??これは」


 普段は絶対に机の上に置かれている写真立てが、今日は床に倒れている。


 飾られているのは、私達姉妹とお婆ちゃんが写っているの写真。


 きっと、お婆ちゃんは無言ながら私達の成長を見守ってくれている。お婆ちゃんはきっとお爺ちゃんや両親とは違う。


「この写真しか、お婆ちゃんが笑顔で写ってないんだよな」


 確かこの時はお婆ちゃんが手首を骨折して、迎えにいったんだよな。


「!??」


 その記憶が鍵になり、モヤモヤしていた記憶がいきなり呼び起こされる。


「そうだ!確かこの写真の裏にお婆ちゃんはある写真を隠していたはず!」



 その写真を見て、納得した。ここで見ていたんだと。慌てて写真をカメラに収めていく。



「只今戻りました。お嬢様」

「ありがとう」


「お嬢様。あまり片付いていないようですが、体調がよろしくないのですか?よろしけれは私が続きをしましょうか?」

「あ、うん。そうしてもらおうかな。ごめんなさい」

「畏まりました」



「……………気をつけてな」

「ありがとう。お婆ちゃん。じゃあまた来るね」


 足早にお婆ちゃんの部屋を後にした。





「必ず週ごとにお婆様に会いに来てくれるなんて良いお孫さんですね」


「…………。あぁ、あの子達が私の希望さ」

「それならもっと素直になればよろしいのでは?」

「良いんだ。これもアイツらに悟らせない為さ。……あの2人だけは私が絶対に守る」




「いよいよですね。お父様」

「あぁ。我が息子達よ。ヒラギノ財閥。基「スレイ族」が更に力を得る時が来た。最終テストとして。そうだな。我が孫達を実験体としてみせよ」


「畏まりました」

「一応聞こう。君たちにとっては愛する家族だ。構わぬか」

「要らぬ質問です。私達にとって娘達は唯の道具。使い捨てだったのが、リサイクル出来るのですから親として嬉しい限りです」

「はっはっは。そうかそうか。では、明日にでも始めるとしよう」






 ふぅ。もうすっかり夕日も沈んでくる時間だ。


「今日も目立った動きは無し、、か」


 俺はバレないようにヒラギノ財閥を監視したり、聞き込みをしたりとしているがなかなか素性を掴めない。



「ふぅ。まさか今日いきなり絡んできたお爺さんが俺なんて、、、」


 容姿はあまりに違いすぎて、ちょっとショックだ。絶対に太らない自信だけは持っていたのに、、、。



「ミカ様が少し濁していた理由はこれか、、きっと今のような感情にならないよう察してくれていたのか」



 そんなことを熟考しながら、河川敷のいつものポジションに横たわる。


 最初はこの河川敷で寝転ぶのに抵抗があったが今は全く抵抗がない。逆にひと調査終え、この河川敷の景色を見ながら、子供達の元気な声を聞くことが、最近のブームである。






「まだ此処にいらっしゃったんですか?」


 目の前の輝いている景色に影がかかる。上から覗かれるようにして彼女と視線が重なる。


「あ!君は。」



「こんばんわ。少しお話しませんか?」


 彼女は朝の雰囲気とは少し違う。何かが吹っ切れたような。そんな気がする。



「うん。良いよ」



「それでは、早速。「ヒラギノ財閥」を知っていますか?」



 その時、俺はミカ様の言葉を思い出した。


「今から貴方に尋ねてくる子がいるわ。詳しくはその子に聞きなさい」


 絶対この子だ!流石にあのお婆ちゃんではないと思っていたが、やっぱりな。




「その質問に答える前に、お名前を教えてくれないかな?ちなみに俺の名前は、、」


 その時またミカ様の言葉を思い出す。


「スミレの事情を話してはダメよ。誰にもスミレと知られないようにすること。この世界のスミレは何処かで暮らしているはずだからね」




「……………??どうしたんですか??」


 彼女が不思議そうに見つめている


「ごめん。俺の名前は教えられないんだ。それでも信じて欲しい。俺は悪い人ではないんだ」

「……………………」


 そうなるよな。名前教えて欲しいけど、自分の名前は教えないなんて悪い奴に決まってる。嘘でももっとまともに出来たはず。何故バカ正直に言ってしまったんだ。



「はい。信じます」



「えっ!?」


 予想外すぎて声が出てしまう。


「貴方の事はもう信用しています」

「いやいや、どういうこと?」

「そうゆう事です。それよりも名前をお伝えしていなかったですね。私の名はヒナと申します」


 へー。ヒナちゃんか。うん。良い名前だ。うん。



「えーーーー!!」


 外れていた宝くじが実は5億円当たっていたときのような声量で驚き、思わず叫んでしまった。


「なんですか。名前を言ったくらいで。お兄さんはやっぱり変わってますね」


「えぇ。だって。えぇ!」





「……………………」



 驚愕の出会いと再会を果たす中、2人に潜む闇の影に俺達は気がつく由もなかった。




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