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      3.家族の存在

 


 此処は随一の財政力、そして言動力を持つヒラギノ財閥。



「遅すぎる!何をしていたんだ!」


 平手打ちがお婆ちゃんの顔に直撃する。


「………………」


 お婆ちゃんは此処にいる時、いつも喋らない。表情も変えない。この財閥のトップであるお爺ちゃんはお婆ちゃんを植物人間状態になっていると思っている。


「おい!」


 私に鋭い視線を向けられると同時に怒鳴られる。


「はい。お爺様」


 バチん!ビンタが私にも降りかかる。


「どこで何をしていた?要らんことはしていないだろうな?」

「も、もちろんです」


「良いか。貴様達はただの道具だ。道具らしく我々の言うことばかり聞けば良いのだ!」

「はい。分かっております」


「なら良い。早くそこの出来損ないを部屋に運び、学校に行け」

「はい」


「やだなーお父様。そんなに母様と我が娘を罵倒しないでいただきたい」


「そうですわよ」


「なんだと?」


 目の前にいるのが私達の両親。そしてお婆ちゃんの子供。


「母様は植物状態。娘たちも能力を持たない出来損ない。可哀想じゃありませんか」


「そうですわよ。それに母は洗脳が解けるまでは溺愛していただいたもの。感謝しているんですよ。私達、夫婦のための道具になってくれて」


「お前達も悪よのう」


「はっはっは。お父様には到底及びませんよ」




「行こう。お婆ちゃん」


「……………………」


 私は更に胸糞の悪い話を聞く前に部屋を出る。


「行ったか。あのロボットどもは」

「はい。それよりもお父様。例の計画についてです」

「この市民を洗脳させ、行政に進出。そして国を牛耳る作戦か。どうだ。計画は進んでいるか」

「はい。集団に対しての洗脳効果を持つマイクが現在、検証段階へと入っています。お父様の演説の際までには間に合うかと」


「そうか。そうか。流石は我が子供達だ」

「ありがとうございます」

「だが油断はするな。何処から情報が漏れるか分からない。引き続きあのロボットどもの監視は続けておくように」

「了解しました。全てはお父様のために」




 俺は今ヒラギノ財閥の豪邸の前にいる。それは何故か、。お婆さんとお孫さんになんとなくついていくと、なんとびっくり2人が入っていくではありませんか。


 数十分経つと顔の片頬が赤く腫れたお孫さんが出てきた。



 今回来た目的はあくまで調査だ。だが洗脳という言葉は俺は好きじゃない。見過ごして帰るというわけにはいかなかった。


「此処がヒラギノ財閥か。どういう闇があるのか」



「おい。そこのお前!財閥の関係者か?」


 振り返ると鉄パイプを持った男が数名立っている。


「いや、違います。僕は最近此処らへんに来たんです。散歩してたらすごい豪華な家だなと思って、眺めてたんです」


「本当か?まぁ確かに、その服装はアイツらとは関係なさそうだな」


 殺気立った雰囲気は少しばかり落ち着きを見せる。


 この人たちどこかで、、、。そうだ。河川敷でユイナを追いかけてきた奴らだ。


「少しお聞きしたいんですけど。この財閥に恨みでもあるんですか?」


 俺は思い切って質問をしてみた。すると一度和んだ雰囲気が再び緊張感を持つ。


「あぁそうだ。お前さんも気をつけた方がいいぞ」

「一体どんなことを、、」


「人の良心を踏み躙る奴らさ。一度脳をコントロールされたらもう引き返せない。俺は女房と息子をやられたよ。女房はある時期から別人のように変わってしまった。思考もそして心まで奪われたかのように。そして息子も。2人と過ごすのはもう、、辛すぎる」


 先頭に立っている中年の男性は涙を流しながら語ってくれる。


「そんなことが、、可能なんですか」

「あぁ。一度あの沼に入れられてしまうと、あそこに地下に潜む監禁部屋で仕込まれるからだ」



「監禁ですか、、、」


 背中に寒気が走る。ただの調査のはずがとんでもなく大事になりそうな気がする。




 ヒラギノ財閥内社長室


「今日も外が慌ただしいな。折角こんな素晴らしい天気だと言うのに。どうしようもない者達ばかりだ。また私が救ってやらねばね。クックックッ」


 どれどれ、、ん??あの若僧どこかで、、、、。





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 キーンコーンカーンコーン、、、



「はぁ。今日はバイトもあのクソみたいな場所にも行かなくていい。やっと家に帰れるな」


「ねぇねぇ。近くのカフェに一緒に行かない?」

「ごめん。今日は妹の面倒を見ないといけないんだ」

「あ、そうなんだ」

「ごめん。また違う日にでも誘って」

「うん。また今度ね」




「また今度って言ってもう何回目になるの」

「そう言わないの。バイトもして、妹の世話もして大変なんだから」

「どうかな。格下の私達とは遊びたくないんじゃない」

「それはそうかも」


 そんなヒソヒソ話を横耳に教室から出る。


「はぁ、人生ってなんでこんなに不平等なんだろう。なんで私は普通に生きられないの、、、なんで私達は普通の家族じゃないの」




 しぶしぶ家の扉を開ける。


「ただいま、、、」


「おかえり!!お姉ちゃん!」


 妹のユイナが抱きついてくる。久しぶりに誰かの笑顔が目の前にある。


「ユイナ。元気にしてた?ちゃんとご飯は食べている?」

「うん!バッチリだよ!それに聞いてほしい事があるの!」


 妹の元気は私に活力を与えてくれる。私の唯一の家族。この子を一人前に成長させること幸せにする事が私の生きる意味。


「じゃあご飯を食べながらね」


 家の安心感ほど心が落ち着く場所はない。


「いただきまーす」


「それでユイナ。聞いてほしいことって?」

「それはね。友達が出来たの」

「へー。それは良かったね」

「うん。おじさんはね、優しいんだよ。一緒に遊んだり、知らないゲームも教えてくれるんだよ」


「ちょっと待ちなさい」


 うん、聞き間違いだ。きっと聞き間違いだ。10歳の妹がおじさんと友達になるわけないじゃない。やっぱり私、疲れてるのかも。


「もう一回聞くね。誰が友達って?」

「えーとね。あ!そうだ!おじさんの名前聞いてない!」


 ある意味疲れが吹っ飛んだ。アドレナリンがどばどば出てますよ。


「そ、そうなんだ。ところでそのおじさんとは何処で出会ったの?」

「トラスト橋の近くの河川敷だよ。最近此処らへんに来たらしいんだ」


「へー」


「おじさんはとっても良い人だよ。それにどっかで見たことある気がするんだよね」



 それなら私も少し心当たりがある。今日の朝、河川敷で出会った男性だろう。何処かで見たことかがある気がする。でもそこまでおじさんではなかったが、、、、。


「また家に遊びに来てくれるって約束してくれたんだ」


 嬉しそうにユイナは微笑んでいる。


「そう。私がいる時に来てほしいものね。良い人なのか見極めないと」

「お姉ちゃん。大丈夫だよ。あと、やる事があるからしばらく来れないって言ってた」

「そう、なんだ。なら河川敷に行ったら会えるかもね」


「あっ!ていう顔をしないのユイナ。あなたはダメ。危ないから」


「えー!なんで。お姉ちゃんのケチ」


 ユイナは機嫌を損ねて風呂に行ってしまった。


 やらないといけない事か、、。何をするんだろう。それに最近来たってことは何かありそう。それにユイナと絡んでいるなんて早急に正体を暴かないと。それに、、


「うーん。何処かで見た。思い出せー、私」



「お姉ちゃん。お風呂あがったよ。ってなんで考える人ポーズしてるの?」

「このポーズしてたら、何故か思い出せそうでしょ」


「お姉ちゃーん。そういうことするからモテないんだよー」


 笑顔で酷いことを浴びる私の気持ちになってほしいものだ。


「こーら。ユイナ。私はそんな酷いことを言う子に育てた覚えはないぞー!」

「痛てててて。ごめんって。お姉ちゃん」



「お姉ちゃん。私思い出した。おじさん財閥のどっかで見たことあるんだよね。それにおじさんから財閥のことを聞かれたし」


 背筋がゾッとした。きっと偶然ではないんだろう。何かそのお兄さんが現実を変えてくれるのではないかという少しの希望と、また1人犠牲者が出てしまうという恐怖が入り混じった、なんとも言えない感情になる。



「そっか。ならお婆ちゃんにも聞いてみようかな。いいユイナ。おじさんのことは誰にも話してはダメよ」

「うん。分かってる。お婆ちゃん、教えてくれるかな?」

「分からない。けど何か知っているかも、、」


「さぁ今日はもう寝よっか」

「うん!」



「おやすみ、ユイナ」


「おやすみなさい。お姉ちゃん」





「んー。おはよう。お姉ちゃん。あれ?お姉ちゃん?あ!もうこんな時間だ。遅刻しちゃう」




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「はぁ。これからどうしたものかな」


 あの後おじさん達に無限に財閥に対しての恨み、愚痴を散々聞かされた。ユイナの両親はともかく、俺はただの調査だけだし、そこまで介入しようとは思っていないんだが。


 河川敷で寝て起きるのはもう慣れたな。気候もちょうど良いし、俺は何処でも寝れる体質だからなと呑気なことを考えながら背伸びをしていると。



「おはようございます」


 後ろから透き通った声が聞こえる。


「君は、、、先日のお孫さん」

「どうも」


「おはよう。奇遇だね」

「そうですね、、、」



 この時俺は知らなかった。この再開は奇遇ではなく、紛れもない必然であることを。




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