2.謎のお婆さん
俺は数時間ほどユイナちゃんとの遊びに明け暮れた。
「おじさん!次は伝言ゲームしよ」
「ユイナちゃん、、。そろそろ休憩しない?」
ユイナちゃん元気いっぱいで少し安心だ。
「ユイナでいいよ!それに、おじさん!おじさん!今日は家に泊まっていってよ!」
「分かった。って、えっ!」
どうやら打ち解けてくれたみたいだ。ユイナのその笑顔が溢れていて、俺も嬉しかった。
正直当てもないし、お言葉に甘えたいところだが、昨日今日知り合った少女の家にいきなり居候はしては駄目だろうという最低限のモラルは俺にもある。
「気持ちは有難いけどそれは出来ない。少し話を聞かせてくれ。そしたら出て行くよ」
「何で?!いいじゃん!!」
ユイナは分かりやすく不機嫌になった。俺がしつこく質問すると泣く泣く教えてくれた。
「え?ユイナはヒラギノ財閥の家系なの?」
「そうだよ。言っても誰にも信じてくれないけどね」
意外と早く巡り会えたな。でもこんなに良い子が本当に黒幕と疑われている「ヒラギノ財閥」なのだろうか。
「ユイナ。お兄さんこの付近に初めて来たんだ。ヒラギノ財閥って有名なのかな?」
「おじさん知らないの?何でも「予知能力のある一族」なんだって。いまいちわからないけど」
「へ、へぇ。凄く興味深いね」
予知能力の一族か、、、、。怪しい。ただの直感だが何か裏がありそうだ。
「じゃあユイナもお姉さんも予知能力を?」
「いや。私は持ってないの。それに、お姉ちゃんもこの能力を嫌っていて、持っている事を隠しているんだ」
「そんな!予知能力なんて凄い能力じゃないか!」
ユイナは驚いた様子で俺を見つめる。
「おじさんは凄いって言ってくれるんだ、、、、。おじさんなら全て話しても大丈夫だよね」
沈黙の時間が気まずい。
「で、でも何でユイナが追いかけられていたんだ?」
「それは、、、多分財閥への復讐が目的だと思う」
「ユイナに?何故?」
「わからない。でもね、お姉ちゃんに聞いたんだけど、パパもママも財閥にいるらしいの。それが関係しているかも」
ヒラギノ財閥。一体何をしているのだろうか。
「なる程。恨みを持つ人達が財閥の家族を狙っているのか」
「うん。怖いからこの家に引っ越したのに。私もお姉ちゃんもヒラギノ財閥は嫌いなの」
確かに此処に大金を持っているだろう財閥の家族が住んでいるとは思われまい。ユイナはその決して満足していないだろう環境で全力で生きていた。
辺りは夕日の輝きが薄れ、夜の暗がりを受け入れるように1つまた1つと家が灯りを帯びる。
そろそろ帰ろう。
「ユイナ。今日はありがとう。またお話しを聞いてもいいかな?」
「うん!いいよ!」
「それは良かった。それにしてもユイナの親御さんは遅くまで働いているんだね」
「……………。」
「ユイナ、、ちゃん?」
「パパとママは帰ってこないの。お姉ちゃんと私を残して」
明るかった表情が一変し、目には涙が垣間見える。
「ごめん!ユイナ。思い出さしてしまって、、、」
ユイナは俺に抱きつく。
「おじさん。寂しいの。お姉ちゃんも私のために働いてくれてる。我慢しなくちゃいけないって分かってるの。でも、、、おじさん。一緒にいて、、」
「…………」
そういえば家も財閥家系とは思えないほど狭く年季の入った部屋だ。そして、少女がボロボロだった理由が今分かった。
「ユイナ、、。分かった。もう少しだけ一緒にいよう」
「やった!!」
それからまるで本物の家族のように生活した。心を許してくれているみたいで良かった。
「はい。完成だよ!」
そう言うと2人分の食事を出してくれた。無邪気な笑顔が俺を笑顔にしてくれる。
「ありがとう。お姉さんは帰ってこないのかい?」
「うん。週に2回は帰ってこないの。どうしてか聞いても何も教えてくれないんだ」
「そっか、そっか、、」
両親は何をしているんだと怒りが湧き起こる。怒りという感情が芽生えたのは久しぶりだ。
その後何とか、ユイナに楽しんでもらおうと俺が知っているゲームや面白い話をした。徐々に震えた姿も変わっていった。
「ユイナ。そろそろ帰らせてもらうよ」
「うん」
「ごめんな。俺にはやらないといけないことがあるんだ。またいっぱい面白い話をしよう」
「うん!絶対!絶対だよ!」
「絶対。約束するよ」
「おじさん!またねー!」
ユイナちゃんの盛大なお見送りを後に、俺は夜の街を歩き始める。
「…………………!!!」
何か鋭い視線を向けられたような気がするが、俺はこれからどうするべきか考えることに全ての労力を使っていたので気にしなかった。
俺は目の覚ました河川敷へと来ていた。
「さて、どうしたものか」
ユイナちゃんの寂しさを減らすためには。俺だって時間は有限だ。俺がユイナちゃんと一緒にい続けても何も解決にはならない。
俺はベンチに寝そべって夜空を見上げていた。
「何を考えているのかしら」
突然声が入ってくる。
「その声はミカ様。何か御用ですか」
「何も知らない状態だろうから、少しばかり手伝ってあげようと思ってね」
「良いんですか?ありがとうございます」
「ええ。それで何を悩んでいるのかしら?」
「それはヒラギノ財閥の家系は予知能力を持っているらしいので、調査をしようにもすぐバレてしまうのではないか、と」
「あぁ、そのこと。それなら心配要らないわ」
「え?何故ですか?」
「それはね、、ヒラギノ財閥が嘘をついているからよ」
「え!本当ですか!」
「えぇ。本当。今から貴方に尋ねてくる子がいるわ。詳しくはその子に聞きなさい」
「は、はい」
「それと、その子にも、ユイナっていう子にもスミレの事情を話してはダメよ。誰にもスミレと知られないようにすること。この世界のスミレは何処かで暮らしているはずだからね」
「この世界の俺か。会ってみたいですね」
「まぁ良いんじゃないかしら。それじゃ私はこれで」
「はい。ありがとうございました」
再び夜空見上げる。季節は春。涼しい風が俺の副交感神経を刺激する。
「誰も来ないじゃないか、、、」
数十分我慢していたが、いつの間にか眠りについていた。
「あら、おはよう」
「おはようございます?」
寝ぼけていた俺を透き通った声が目覚めを促す。目の前には知らないお婆さん。
「こんな所で寝ていたら風邪を引いてしまうわよ」
お婆さんは心配しているような。そして、何故か再会したかのような明るい口調で続ける。
「すいません。でもたまにはいいかなーって」
「なんが、たまにはよ。相変わらず面白いね」
お婆さんは笑みを浮かべてくる。それに、誰かと勘違いしているようだ。
「あんた。こんな歳になってまた会えるなんて嬉しい限りだよ。元気だったかい?」
こういう時はどういう反応が正解なのか。話を合わせるのか。否定をするのか。
「元気ですよ。でも誰かと見間違いではないですか?」
「見間違えるわけないじゃないか。だって私が好きになった人なんだから」
お婆さんは照れながら答える。その姿は青春の1ページのように尊い。
?マークが頭に思い浮かぶ。確か俺は、同学年の女子より、親御さんからの方が人気は高かったが、見知らぬお婆さんまでも俺は惚れさせていたのか?
「お婆さん。少し聞きたいことがあるんですけど。ヒラギノ財閥について教えてくれませんか」
「ヒラギノ財閥か、、。昔ヒラギノ財閥は私のせいで乗っ取られてしまった。今はもう他者を洗脳し、駒のように動かす邪悪な組織に成り下がってしまった」
「洗脳ですか」
「あぁ、予知能力という表向きの公表は大嘘だ。私は洗脳にやられ人生を失った。生きる意味がなくなったのさ。あんたも気をつけてくれ」
「あ!お婆ちゃん!見つけた!」
お孫さんかな。制服の着た女子高生が駆け付けてくる。
「お婆ちゃん。大丈夫。怪我はない」
「あぁ。大丈夫」
お婆さんは俺と話している時の笑顔とは対極のように真顔でお孫さんに反応する。
「すいません。いきなりお婆ちゃんが。少し認知症でして」
「いえいえ。お気になさらず。お婆さんと少しですが会話してて、楽しかったですよ」
「・・・・・・」
お婆さんは微笑みを浮かべている。お孫さんはそれを見て驚いた表情を見せる。
「そうですか。すみません。それでは私達は此処で」
「はい。気をつけて」
お孫さんは一礼するとお婆さんと共に去っていった。
「お婆ちゃん。あの人は?」
「・・・・・・・・。さぁね」
「お婆ちゃん、、、」
行ってしまった。流石にあのお婆さんがミカ様が言っていた尋ねている子ではないだろう。
お婆さんはこの世界の俺のことを知っている人だったのだろう。ということは、この世界の俺は年寄りのお爺さんってことか?
まぁ良い。それよりもあのお婆さん。とても悲しい目をしていた。
俺はカードを取り出す。
「ミカ様。聞こえますか」
「えぇ。聞こえるわよ」
「少しご相談したい事がありまして」
「なるほど。やってみるわ。こっちは任せなさい」
「お願いします。それでは」
俺はもっとヒラギノ財閥について知る必要がありそうだ。