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    11.後悔の花

 


「スミレ、遅いぞ!」

「すいません!少し浮かれてしまって」

「なんちゅう言い訳だよ。まぁいい。帰るぞ」



 バスは走り出す。バスの中では話してはいけない。この無言の空間で俺は、窓から見える景色を眺めながら物思いに耽る時間がとても好きだった。


 それにしても、モネは大学以前から出会っていたことは知っていたのだろうか?今では確認する術はないが、まぁ気付いていないだろう。モネは意外にも抜けている所があるしな。



 そう、未来の生活を思い浮かべていたが、俺はこの時代に戻ってきた目的を思い出し、ふと浮き上がっていた気持ちが元へと戻され戦慄する。


 今日の日付は9月3日??


 俺はやってくる時期を間違えた。俺の本当の目的、それは家族の死を防ぐこと。しかし、その日は今日なのだ。


 俺は景色を見ることを忘れ、ただ早くバスが着くことを祈っていた。


 バスはこういう時に限って渋滞に巻き込まれる。


 冷汗が止まらない。もうあの悲しみは味わいたくない。俺たち家族のもう一つの一大事件。交通事故で両親そして、姉のスズを今日失うことになる。


 ポツリ、ポツリと雨が降ってきた。


 なんとしても今日のお出かけを止めなければ、もしくは目的地を変えなければならない。



「それじゃあ解散。気をつけて帰れよ」

「ありがとうございました!!


 悪い方向へと傾いていることを示すように雨が強く降り注ぐ。



 ガチャ、、、家の扉を開く。


 案の定、もう出かけてしまったようだ、、、、。


 ゆっくりと部屋に入り、扉を閉める。俺は気力を失ってしまった。濡れたユニフォーム姿のままリビングに座り込んでしまった。


「父さん。母さん。スズ、、、、、」



 頼む、無事に帰ってきてくれ!これ以上ない程に願った。俺はいてもたってもいられなくなり外に飛び出した。


 何処で事故に遭ったのか。それは記憶がある。忘れもしない。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 その日の朝、俺は両親に新しいズボンが欲しいと頼んでいた。その事をすっかりと忘れていた俺は部屋で呑気にテレビを観ていた。


 数時間後、、


 ピンポーン。


 インターホンが鳴る、、、。


「……………はい」


「スミレ君ですか?私警察のシブヤと申します」

「え?警察が何か用ですか?」

「落ち着いて聞いてください。貴方の両親とご兄弟が交通事故に遭われました」

「………………え?」


「近くの病院に運ばれていますので、一緒に行きましょう」

「………………は、はい」


 病院に着くと、ユウキがいた。


「何が、、あったんですか?」

「雨でスリップした自動車と正面衝突してしまったようです。場所は、、、、、、、」


「!!!」


 俺が買い物を頼んだ店の近くでその事故は起きてしまった。


 泣きだす俺を優しくユウキは抱きしめてくれた。


「ごめん、ユウキ」

「なんでお前が謝るんだよ。どうしようもないだろ。どうしようも、、、」


 俺とユウキ悲しみに明け暮れながら全てを受け入れる。そして、2人の生活が始まった。


 1週間後、、、


 ユウキは大学を辞め、1日中働き始めた。


「ユウキ、俺野球辞めるよ、、、」

「は?ふざけるな!絶対に許さん」

「でも!ユウキが大学も辞めたんなら俺も辞める!」

「やれ!心配される必要なんてない」

「…………でも、、」

「いいから!!」


 俺はユウキに執拗に怒られ部活を続けることになった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 これがユウキとした最後の言い合い。


 俺は雨の中、全力で5km以上先の店へ自転車を漕ぐ。


「頼む!間に合ってくれ!」


 20分程だろう経っただろうか。店の前に着いた。家族が乗っている車は、、、、


 ない。急いで事故現場へと向かう。その時、信号を待つ車に身に覚えを感じる。あの車は、確か、、、、。


 自転車を再度全力で漕ぎ始める。


 3信号先に見える車に身に覚えがある。そう。あの車は家族が乗る車と正面衝突した車だ。



 当時は理由を知らないまま、その車のことを恨んでいた。


 事故現場に着いた。どちらの車よりも早く。


 少し此処で休憩出来るだろうと思った矢先に、その瞬間は訪れる。



「ゴッン!!!」


 辺りに鈍い音が響きわたる。


 当たったのはスリップした車。そして、両親、スズが乗っている車ではない。俺だ。



 一瞬の出来事だった。何故スリップを起こしたのか。それは不注意でも、俺を殺した飲酒運転でも何でもない。道路の端から子供が飛び出してきたのだ。


 無意識に俺の体は反応し、子供を歩道へ投げ、代わりにぶつかる。その衝撃で、家族が乗っている車との衝突は起こらなかった。




 意識が遠のいて行く。動悸はするが、これは死にゆく前の動悸ではない。きっと戻るんだろう。


 冷たい雨が今は心地いい。


 そうか、スリップしてしまったのはこの子供を守る為だったのか。俺の家族、そしてスリップを起こした人。どちらにも非は無かったんだ。


「どうすれば良かったんだ。もう少し早い時期に来るべきだったのか」


 全てを察し、俺はもう一度悲しみを噛み締めた。もう少し、家族全員でのひと時を楽しみたかった。


 そしてこの頃の生活に想いを馳せていた。


 現実では、家族が居なくなってから約1ヶ月間、此処で出会った友達の親御さんや先生たちからたくさん手助けをしてくれた。夜ご飯をお裾分けしてくれたり、旅行へ連れて行ってくれたり。


 沢山の人にお世話になった事を改めて思い出した。


 俺はこんな優しい人達にお礼一つ伝えることが出来ていただろうか?


 口に出して感謝を伝えることと伝えない事では雲泥の差がある。現実の俺も、今頃そう考えるようになったんだろう。きっと、俺の周りにいる人達のお陰で1人の人間として成長し、磨きをかけてこれたのだろう。


 改めて、それを思い出した。死んで幽霊になっても学ぶことは沢山あるな。


 天気は大雨。しかし、心には綺麗な虹が架かっている。


 変えることが出来た過去、思うようには変えられない過去。これもまた一興だ。


 この果てしなく輝いている思い出の景色達ともお別れだ。そして、ついに人生やり直しの旅に終わりを告げる。


「あぁ、楽しかった」




「スミレ!おい!スミレ!」


 何かスズの叫ぶ声が聞こえるが、何も応えることが出来ない。


 未来との別れとは正反対に、誰にも告げず、そして優しく包まれるように意識が薄れ無くなっていった。






 あっという間に目が覚める。目の前には懐かしい世界が広がっているが、すぐさま異変に気づく。


 色のない透き通った世界が、酷く澱んでいる。閻魔大王達に何かあったのだろうか。



「やっと、戻ってきたのね。スミレ」

「この声は、、、ミカ様」

「待っていたわ。早くあの部屋へ来てちょうだい」


 とてもミカ様は疲弊しているように感じた。察することは天才級なので間違いない。


「レグルスさんの期待に応えることが出来なかったな」


 心がボロボロになるまで怒られる事を悟りながら重い足を進めていく。


 ガチャ、、、、


 扉を開けたその先は1番初めに訪れたときとは異様な風景となっていた。


「ふざけるな!」


 怒号が響き、地が揺れる。いかにもレグルスさんと閻魔大王がぶつかりそうだ。


「そこまでにして。それにスミレが帰ってきたわよ」


 ミカ様が2神を宥める。


 2神はピタリと落ち着き、いつものポジションへ戻って行く。


「おぉ来たか。スミレよ」


 いや、そんなに早く切り替えられても、、、。なんて言い出したらいいのか分からない。


「レグルスさん。閻魔大王。本当にすみませんでした。期待に応える事が出来ず」


「ふむ。しかし、もう一度事故に遭って終わってしまうとは。誰かが時を飛ばす軸を間違えたからではないか?」

「ほう。レグルス殿。それは私のせいだと言いたいのかな?」

「それ以外に何がある」


「それは全部僕のせいです。なので喧嘩はやめてください!」


 咄嗟に口から出てしまった。2神はキョトンとしている。


「やるじゃない。スミレ」


 小声でミカ様が呟く。


「ウッホン。すまない。スミレ。見苦しいところをみせてしまった」

「いえ、こちらこそです」

「実はな。スミレがやっていた「花札」というものをやっていたのだが、どうにも勝てなくてな。イライラしていたんだ」

「えっ??」


 咄嗟に口から出てしまった。


「俺の旅が不甲斐なくて怒っていたんじゃないんですか?」

「はっはっは。そんなわけなかろう。十分に面白い旅を見ることが出来ているからな」


 閻魔大王の方を観てみると、頷いている。まさか花札の対決で部屋を半壊するまでの喧嘩をしていたなんて。


「あのー。変な質問になるんですけど、ちゃんと最後まで見てました?僕の旅」

「ギクッ!あ、当たり前だとも。実に初々しいくて、見てられ、、ッホン。感動したぞ」


 絶対見てられないって言おうとしたなこの人。でもその気持ちは俺も感じていた。自分の気持ちに正直に生きられなかったからな。大人の心をもった自分でさえもことごとく緊張していたくらいだ。


 結果として、俺が望んだ全ての後悔は変えることが出来なかった。



「スミレよ。寧ろ我々が怒られる方の立場にある」


「え。それはどういう?」


「実は、スミレの地元に現れたレジングという神は私とレグルス。他の黄道十二宮との言い争いで解放されてしまったんだ。レジングがスミレ達に酷いことをしてしまった。本当に申し訳ない」


「スミレよ。すまぬ。此処は我と閻魔に免じて許してほしい」


 閻魔大王とレグルスさんの煌びやかな視線が下へ下へと降り、二神のつむじが明らかになる。


「…………顔を上げてください。僕の為ではなく。辛い経験をした全ての人達の為に」


 気がつけば言葉が出ていた。その言葉は二神に対しても、あの場にいた全ての人々に対しても最大限の厚情を込めて。


「スミレ。ありがとう」


 閻魔大王とレグルスさんは少し肩の荷が落ちたみたいだ。俺も二神がいつもの調子に戻ってくれないと何故か狂うじゃないか。


「ふふっ。それでこそ私の自慢のパパだよね」


 物陰から嬉しそうな明るい声が聞こえる。


「ヒナなのか!?」

「パパ。久しぶり。こっちの世界では初めましてだね。どう?大人になった私は」


 そこには、聞き慣れた声とは裏腹に見た事の無い様な清廉な女性が立っている。


「あぁ、綺麗だ。とても、とっても綺麗だよ」


「やった!ありがとう。パパ」


 またその純粋無垢の笑顔が見られた。正直に言おう。もう十分だ。もう幸せだ。


 まるで、何日もの、何年もの努力が報われた日に見上げる満点の夜空の様に、何処か心の足枷が外れていく。


「どうしたの?パパ」

「何でもない。また会えて嬉しいよ。ヒナ」

「私もだよ。でもすぐお別れしないといけないんだ。だから、これ」

「これは、、」

「パパやママと出会えた事を何か形に残したくて。作ったんだ。ミサンガ」

「凄いな。ヒナ。凄い上手だ」

「子供扱いはやめて欲しいんですけど。こう見えてもう28歳なんです!」

「ごめん。ごめん。つい懐かしくて」


 すぐさま綺麗な茶色と黄色、オレンジ色の混じったミサンガを足首につける。


「ありがとう。ヒナ。大事にするよ」

「うん。バッチリだね。パパがミサンガが似合うなんて凄いよ」

「お、そうか?おう」


 何だろう。凄く聞き慣れたことがある返事が返ってきた。全く、、何処か適当な所は母親譲りか?良くも悪くも似ているな。


「じゃあ、パパ。これで本当にお別れ。あ、あの時渡した手紙、ちゃんと読んでね!」

「あぁ、必ず読むよ。ヒナ。今までお疲れ様」

「ありがとう。じゃあね。また会おうね」

「あぁ、必ず」


 ヒナはゆっくりと歩き出す。


 閻魔大王に何かを言われて、深々とお辞儀をした。その目には潤んだ瞳、その顔には雲ひとつない晴れた笑顔が見えた。


「ヒナ。見事に私達の特命を遂行し、成し遂げた。此処に感謝の意をもって君を天国へと導こう」

「ありがとうございます」


 閻魔大王がガベルを振り、甲高い音が響きわたる。ヒナは光と共に消えていった。



 俺の旅も遂に終わるのだろうか。


 目の前の光景を見ながら、これまで過ごした人生の記憶が脳裏に蘇っていた。




あと1週間したら、活動をどんどん再開します!もう少し、スミレの旅にお付き合いお願いします!!

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