10.巡り合わせ
「ゲームセット!」
試合は接戦したシーソーゲームだったが何とか勝利することができた。
俺は1番センターでスタメン出場。前のチームではベンチだったのに何故レギュラーになっているかって?
それは、コツを掴んだからだ。この頃から投げたいところに投げれるようになり、体の使い方を理解し、ヒットを量産できるようになった。
俺も成長してもう12歳。たくさん練習をして0から1を生み出したのだ。
「しっかり柔軟してから、20分後ミーティングを始めるからな」
「はい!」
「それと、スミレ。新聞社の人からインタビューがあるらしいから、球場前に行ってこい」
「はい!分かりました」
俺はこの日を覚えている。人生で2回目のインタビューだ。1回目は緊張しすぎて覚えていないが、、。
「いいなー。スミレまた新聞に載るな」
「今日は俺のほうが活躍した気がする」
「まぁまぁ、俺のほうが注目選手ってことだな」
ちょっとした慢心と冗談を言いながら俺は球場前へ向かった。
「それにしても相手の応援スタンドの方に凄いお金持ちっぽい人いたよな?」
「そうそれ!俺も思ってた。執事みたいな人もいたし、あそこだけ輝いてたよな」
「俺、その子見たんだよ。めっちゃ可愛いかった。しかも、同級生っぽい」
「良いなー。同じチームメイト。そんな子が応援に来てくれたらやる気出るよな」
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「モネお嬢様。負けてしまいましたね。ささ、兄様に見つかってしまう前に帰りましょうか」
「そうね。シン(執事の名前)。でもその前に話したい人がいるの」
「はて、誰でございましょう?」
シンは私の我儘に何でも察して応えてくれるが、今回は戸惑っている様だ。
「兄のチームと戦っていた相手の8番を連れてきなさい」
「畏まりました。モネお嬢様。さては一目惚れですね」
「うるさい!シン。速く連れてきなさい」
「失敬。今すぐに」
シンは颯爽と飛び出していった。
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俺は球場前に着き案内された部屋に着いた。
「失礼します」
「こんにちは。スミレ君。今日もナイスプレーだったね」
「あ、ありがとうございます」
「どうぞ。腰掛けて。おっと、挨拶がまだだった。私はナツ新聞のユメです。よろしくね」
「宜しくお願いします」
「さぁ、時間も限られているから早速質問しちゃうよ」
インタビューが始まった。
一方その頃、、、。
「おい、見ろよ。さっき話してた執事だ!」
「本当だ。俺たちになんかようかな。もしや、プロのスカウトだったり?」
「さりげなく近づいてみようぜ」
「お、良いな」
「失礼。皆様。私は先程戦ったチームの関係者のシンと申します。皆様のチームメイトで背番号8番様はいらっしゃいますか?」
「なんだ。スカウトじゃないじゃん」
「今、新聞社の人にインタビュー受けてますよ」
「そうでしたか。ちなみに場所はどこで?」
「さっきの球場前です」
「どうもありがとう」
「なぁなぁ、スミレになんかあるんかな」
「スミレに好き放題されて、一言言ってやりたいんだろうよ。それにしてもあの執事。めっちゃ良い匂いしたな」
「流石お金持ちって感じだな。はっはっは」
「じゃあ最後の質問です。今大会のスミレ君の目標を教えてください」
「はい、先ずは、優勝です。そしてたくさん打って走って投げて、チームの勝利に貢献したいです」
「うーん!分かった!これで質問終わり!ありがとね!」
「ありがとうございました!」
終わった。やはり、インタビューを受けてプレーを賞賛されると鼻が高くなってしまう。これ以上にない程上機嫌で部屋を出た。
するとコーチと見知らぬ人が会話をしている。俺が出てきたのを確認したコーチが話しかける。
「お疲れ。もう1人話したい人がいるらしい。バスの時間もあるからなるべく早く帰ってこい」
「はい。それで話したい人って?」
「私です。こんにちは。シンと申します。少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、こんにちは。コーチが言っているのでいいですよ」
「それではささ、行きましょう。どうぞこちらへ」
そう、思い出した。
俺は今からある女の子に告白されるんだった。確かこの頃は恋愛に興味のかけらも無かったんでさっきの新聞社からお借りしてナツって名前で適当にスルーした気がするな。
「そういえばお名前をお聞きしても?」
「え、あ、ナツです」
「ナツ様。実はお話したいのは私ではございません」
「え??」
知ってる。本当は嘘を付かずに答えたい。しかし、過去をもう一度楽しむためにも、此処は場に合わせておこう。
「私ではなく。お嬢様の方でして。さぁもうすぐです」
「は、はぁ」
「モネお嬢様。連れて参りました」
ん??モネ?どこかで聞いたことのある名前だ。でもモネからこんな話聞いたこと、、、、
ある!!!
いやいや!!そんな筈はない。忘れてしまっていた俺が何故だか申し訳なってくる。
「君がモネちゃん?僕に何か様かな?」
「ええっと初めまして。試合お疲れ様。とてもカッコよかったわよ」
「あ、あぁありがとう。嬉しいよ」
うん。モネだ!間違いなく。大人のモネと比べて少しふっくらとした顔つきだが、この愛嬌のある目つきは見間違えるはずがない。
何故だろう。凄く嬉しい。俺とモネは大学生よりもずっと前から出会ってたんだな。この出会いは紛れもない運命なのだろう。
「あの、それでね、、、、」
「私があなたの婚約者になってあげる!!感謝しなさい!!」
「えっ?」
沈黙の間が流れる。後ろにいる執事のシンさんも笑うのをやめて、ぽかんとした表情をしていた。
「ごめん。これは告白ってやつなのかな?俺こんなこと初めてだから」
「そうよ。これは命令よ。私と付き合いなさい。私はヒラギノ財閥の令嬢よ。貴方も鼻が高いでしょう」
俺は一瞬考える。そして、モネが未来で言っていたこと。そして俺の記憶。その2つの全てが一致した。
正直、此処でこれから起こる未来を話したら、とても面白いことになるかもしれない。でも、やめておこう。
「ごめん。今はその申し出は断らせてほしい」
「な、何でよ。今はってどういうことよ!」
モネは、涙を流し始めた。気がつけば、高貴な服に涙が落ちている。
「はっきり言うよ。君は可愛い。でも、君のその上からくる感じは好きじゃないな。君のお父さんの会社なんてどうでもいい。俺は君という人を見て判断したんだ。僕は誰だって、いや特別な人ほど、同じ目線で、お互い支え合っていきたいから、、、。だから、君が、周りの人を蔑まなくなって、支え合うことが出来る様になったらもう一度思いを伝えてほしいな。伝えてくれてありがとう」
言ってやった。これがきっかけでモネは俺の知るモネになったんだと思うと不思議な気持ちだ。
「ふふっ」
モネとの生活を思い浮かべると不意に笑みが溢れる。
「なんで笑っているのよ」
「君みたいな可愛い子に出会えて良かったなって。じゃあ、僕は行くね」
「まって!せめて、名前だけでも、、」
「僕は、、、、ナツ。じゃあまたね」
ガチャ、、、、、
「モネお嬢様、、、、」
「シン!私、兄様のこと少し分かった気がする。ナツ君が言っていたことも。だから、私、変われるかな、、、?」
「モネお嬢様。正直に申し上げます。人は変わろうと思った時にしか変われないものです。どんな境遇であれ、どんな小さな出来事であれ、「変わろう」というその思考こそ芽生えたのなら、どこまでも。どんな自分にだってなれるものです。そして、最後に一つ、ナツ様はとても素晴らしい考えを持ったお方ということは間違いありません」
「うん、、私、頑張るから」
「私もサポートいたします」
「宜しくね!シン!」
「畏まりました」
扉越しに聞いていた俺はその場を後にした。
もう一度言うがこれは偶然ではない。モネと俺は出会う運命だったんだろう。そんな気がする。
次の話の投稿は時間を取らせていただきます。まだ終わりません笑。