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    3.運命の出来事(2)

過去編の登場人物の名前をサチ→サトに変更しました

 


 次の日家族で分担し必要な物資を少し離れたスーパーへ買い出しに出かけていた。


 俺はユウキと食べ物担当だった。


「ユウキ、後何分したら買えるの?」

「そうだな。ざっと5時間くらいかな」

「えー、5時間も待てないよ」

 待っていたのは、見たこともない大行列。まだスーパーすら見えないところまで行列は続いている。


 俺はまだ小学校中学年。到底気の遠くなるような時間を耐え切れる訳がなかった。



 数時間後、、、、


「あら、若いのに偉いね。どうぞ。先に並びなさいな」


 前にいた知らないおばさんが譲ってくれる。


「いいえ。大丈夫です」


 ユウキはキッパリと断りを入れる。


「なんで断ったの?」


 途方もない待ち時間にイライラしていた俺は尋ねる。


「いいか、スミレ。前に並んでいる人達も、俺たちの後ろに並んでいる人達も皆辛い思いをしているんだ」

「でも、、、、譲ってくれたじゃん」


「スミレ、人の気持ちを考えることができるようになれ。皆辛い思いをしている。だからこそみんなで助け合っていかないといけないんだ。俺達だけ特別じゃない。俺達もみんなと支え合うんだ」


 ユウキの力強い言葉を聞いていた前後の見知らぬ大人達は、その言葉を聞いて笑顔で頷いていた。


「……………うん。分かったよ」


 結局スーパーに入れたのは6時間後だった。とても辛かった。でもこの時間は俺の何かを変えてくれた。とても有意義で、言葉にはできない程に何かを感じた瞬間だった。


「ただいま!」

「あれ?誰もいない。スミレ。とりあえず休憩しようか」

「うん」


 辺りは薄暗くなってきた頃ようやく全員揃った。


「さぁ、今夜は鍋だよ。今夜まスミレ。一杯食べれるね」

「……………うん」


 何故か昨日の言葉が恥ずかしく感じていた。今なら、夜ご飯がお菓子だけでも我慢することが出来ているのではないかと思う。


 1週間が経った。ライフラインはようやく復旧し、テレビが見れるようになった。ここで、改めてことの甚大さに気づく。どうやら俺の家族はまだ被害は少なかったようだ。テレビに映る亡くなった方の人数の想像以上の多さに俺は思考が止まった。



 俺たちは今生きていることを幸せに思うばかりだった。



 それからさらに3日後、学校が再開した。


「久しぶり!」


「やった!学校始まった!」


 小学生らしい会話がヒビの入ったボロボロの校舎に響き渡る。友達との再会は何よりも嬉しかった。


「スミレ!久しぶり!元気だった?」

「ヨシ!元気だったよ。また、会えてよかった」


「良かった。でも聞いてくれよ。サトの様子が少し変なんだ。聞いてもなんでもないって言うけど」


 しかし、嬉しい現実ばかりではなかった。クラスの子の中には更に辛い思いをしている子もいた。きっと無理をして来ている。周りを見ることができるようになったからこそ気づくことができた。


「サト。何か…………あったんだろ?俺に話してくれないかな」

「…………ばれちゃったか。実はママが、、。皆に会えたら、、辛さも取れるかなって思ったけど、、ダメだ、、」


 サチは顔を埋める。


 俺は咄嗟にサチを庇い、ヨシはこの状況を見られないようにしてくれている。


「サト。ごめん。辛いことを聞いちゃって。でも、頑張ろう。決して代わりになることはできないけど、それに見合うくらい俺が支えるからさ」


「俺もだぜ。サト。一緒に頑張ろう」

「……………ありがとう。ありがとう。スミレ。ヨシ。約束だよ」 

「うん。約束!」


 3人で抱き合った。俺とヨシはサトの涙をただひたすらに受け入れた。


 きっとクラスの皆もこの様子を見守ってくれていたのだろう。


 そして、1つに纏まるように全員分の辛さをクラス全員が受け止めた。 




 ………キーンコーンカーンコーン……………


「皆さん。お久しぶりです。大変な想いをしたと思います。皆さん。頑張りましょう。此処から立ち上がっていきましょう」


 いつにも無く響く言葉だった。このままでは終わらない。俺はもっと成長してみせると心に決めた。



 一人一人が色々な経験をした。挫けそうになった。目を逸らしたくなった。でも、俺たちなら頑張れる。皆とだから頑張れる。そう思った。




 生活は安定してきたがまだまだこれまでの生活とは程遠い。水の使用制限や、食料の調達制限など弊害はあったが、俺たちはその生活に順応しようとしていた。



 その日の夜、、、


「ユウキ。スズ。スミレ。話があるんだ」


 父親が座椅子に腰掛けると同時に話しかける。


「どうしたの。父さん」

「3人とも2週間後に引っ越すことになった」


「えっ、ほんと?」

「実は転勤することは決まってたんだけど、どこに行くかが今日分かってね」

「そうなんだ。少し寂しいけど仕方ないよね」


 ユウキとスズは寂しがりながらも納得した。俺は、頭が真っ白になった。これではヨシとサトとの、クラスの皆との約束が果たせなくなる。


「スミレはいいか?」

「…………うん。パパの転勤だから仕方ないよね、、、」


 こればかりはどうしようもできない。



「俺はまだ皆と一緒にいたかった。別れたくない」


 そう思うと、涙が出てきた。更に子供の頃からヨシとサトとは一緒にいる。辛いことも楽しいことも一緒に乗り越えてきた。そして、これからもそのはずだった。


 ヨシとサトに何と言えばいいのか。その事を考えていると、いつの間にか朝日が昇ってきた。


「ユウキ。スズ。友達になんて伝えるの?」


 夜中にずっと考えていたけれど結局俺の答えは出なかった。


「そうだな。父さんの転勤が決まったって普通に言うかな」

「スミレ、私もそう伝えるつもりだよ」


「そっか。そっか」


「スミレ。言いたい事はちゃんとお前の言葉で伝えてこいよ。拙くても良いんだ。自分の気持ちを伝えてこい」


 後ろから父親が頭を啜りながら言った。そっか。自分の言葉で良いのか。


「分かった」


 俺たちは家を後にした。


 結局クラスの皆には伝えずに最終日を迎え、あのような出来事となってしまったわけだ。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 色んなイレギュラーがあった。その経験が俺を成長させてくれたのかもしれない。


 その後、現実でヨシとサトには何と伝えたのか覚えていない。けどまた、会いに行くという約束は覚えていた。



 さぁ、過去の後悔を変えていくことにしよう。



 キーンコーンカーンコーン、、、


「皆さん今日もお疲れ様。気をつけて帰ってね。また明日も元気に会いましょう」

「先生さようなら!」

「はい、さようなら」



「ヨシ!サト!ちょっと良いかな」

「どうしたの。スミレ」

「ちょっと場所を変えてからでいい?」

「別に良いけど」



「………実はさ。俺転校することになっちゃったんだ」


「えっ、、、、」


 ヨシは驚きを隠せず、サトは無理に平穏を保っている。


「本当にごめん!約束を破って。俺も昨日聞いてまだ混乱しているんだ」


 2人は数秒間目を合わせ、頷き合う。


「良いよ。決まっていた事なんでしょう?それなら仕方ないよ。ね、ヨシ」

「うん。残念だけど仕方ないよ。でも、すぐ帰ってきてよ!絶対だよ!」


「うん。絶対!ありがとう2人とも。すぐに会いに行く。ずっとずっと約束を忘れないから」



「それとさ、ヨシ、サト。この事はクラスの皆には最終日まで伝えないようにしてくれないかな」


「えっなんで?」


 ヨシは不思議そうに俺を見ている。


「俺考えたんだ。俺より皆の方が辛い想いをしている。大変な生活をしている。それなのに俺は転校だなんて、そんなこと許されないと思うんだ。皆と頑張ろう。乗り切ろうって決めたのに。それならせめて、最後の最後で感謝を伝えて、此処を去ろうかなって」


「そんな事したら逃げたみたいになっちゃうじゃん」

「どっちにしろ、そう思われることには変わりないからさ。皆には本当にありがとうって思っているし、最高の友達だと思っている。だからこの大変な時期に俺なんかのことで時間を使わないで欲しい」


「そっか。分かった。スミレが居なくなってから皆に聞かれたら伝えておくよ」


「ありがとう」


「じゃあ。寂しい話はこれくらいにして帰ろうか」

「だね」


 俺は未来も然り友達に恵まれている。ヨシとサトが友達になってくれて良かったと心から思った。


「現実では、最終日クラスからの罵声を浴び、俺はヨシとサトとの約束を更に破ってしまってしまうんだけどね」


 帰り際にぼそっとそんなことを口走ってしまい、ヨシとサトに俺が死んで過去に来たこと、どのような事が起こったのかを話すしか無くなってしまった。



「そんなことがあったの?皆は何を考えているんだか!」


 ヨシは最後の日の庇ってくれた時以上に怒っている。


「………………!!!」


 サトは無言だが驚きを隠せていない。まぁそれは死んで過去の後悔を変えに来たなんて言われたら驚くよね。


「じゃあ俺こっちだから。じゃあね」

「じゃあね。スミレ。明日楽しもうな!」

「だな!」


「スミレ。またね」

「じゃあまた」





 クラスの皆はどう変わったのかな。俺が転校した後、ヨシとサトは元気にやっていただろうか。敢えて2人には聞かなかった。いや、俺には聞く資格がないと思った。


 別れてからどのような人生を歩んだのか、連絡手段がなかった俺たちは知る由もなく俺は死んでしまったしね。



「はぁ」



 俺は最後の告白のタイムリミットが迫るなか、少しばかりの緊張感とヨシ、サトへの悔恨の思いでいっぱいだった。



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