2.運命の出来事(1)
夢の中〜生前の記憶〜
「スミレ!早く早く!」
「待ってよー」
「スミレ君頑張って!!」
「よっしゃ、頑張る!」
「スミレ。ここ教えてくれー!」
「任せろい」
「スミレ。スミレ!ありがとう!」
「いいえ、こちらこそ」
此処で過ごした時間はかけがえのない大切な思い出。共に笑ったり楽しんだり。時に喧嘩したり共に悲しんだり。
ヒナの言葉を借りるならば、この生活があったから今の俺がいる。そして、俺の後悔も、、、
キーンコーンカーンコーン…………
先生:「はい、皆さん。さようならの挨拶の前に報告があります。スミレ君が遠方に引っ越すことになり、今日で会うのは最後となります。こんな時期なのですがとても残念ですね」
「……………………ちょ先生」
「え?」
「本当に?」
「……………………。」
先生:「はい、それでは皆さん最後にスミレ君との挨拶を忘れないでね。さようなら」
「さようなら」
「スミレ!本当に引っ越すの?」
「なんで言ってくれなかったんだよ!!」
「ごめん。なかなか言い出せなくて」
「何で、何で話してくれなかったんだよ、、、。俺たちはスミレの辛さだって何でも受け止めるのに」
「俺は皆に迷惑かけたくなくて……」
「迷惑な訳ないだろう。だって友達なんだから」
ヨシとサトと同様、いやそれ以上に仲の良かった友達。チヒロとタクマ。
「そう、、、だよね。ごめん。2人とも」
「それにしてもいきなりすぎだろ。一緒に乗り切ろうって言ったじゃん!………まさかお前、この生活から逃げるの?皆を裏切るの?」
「そうじゃないんだ!」
「そうだろ。絶対。こんな大変な時に引っ越すなんてスミレ、お前はもう裏切り者だ!」
「違う。違うんだ」
「よせよ!スミレだって望んで引っ越すわけじゃないんだ!此処で過ごしたいって言ってたんだよ」
「そ、そうだよ。スミレ君だって悔しい筈だよ。皆のこと大切に思ってくれてるもん。皆と乗り越えたいって言ってたんだよ」
俺を庇ってくれているのは、クラスで俺の事情を知っている友達ヨシとサチ。
「こんな奴の言う事なんて信じるなよ。この裏切り者なんかの事を」
「スミレ君、本当に残念だよ」
「早く出て行っちまえ、この裏切り者!」
「そーだ、そーだ!」
「スミレ君、もう此処には戻ってこないでね」
クラスの皆が同調してくる。
「お前ら、これ以上スミレの悪口を言うな!スミレ、早く帰ろう」
「ごめんな。ヨシ。サト。2人を巻き込んでしまったみたい」
「心配するな。スミレの気持ちは、俺たちには分かってるから」
「そうだよ。こんな形になっちゃったけど、クラスのみんなもスミレ君のことは大事な友達として思ってる筈だから」
「ごめん、本当にごめんな」
「でも、先生も先生だよな。まるでスミレが悪者みたいに言いやがって」
「良いんだ。そう思われても仕方がないよな」
「でも、、、」
「これで良かったんだ。これで。さ、帰ろう」
「うん、、、。分かった」
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「はっ!」
目が覚めた。寒い。どうやら俺が思っている以上に、冷汗をかくほどに心残りとなっているみたいだ。
気遣いは時として「温かみのある行動」となり、気遣いは時として「人を傷つける刃」にもなり得る。全ては気遣う相手の判断だ。理不尽だよな。誰だって相手の事を想ってした事なのに。
それでも気遣いを止める事はないし、「人を傷つける刃」になったのならば自分のせいだと考えてしまう。
俺は皆を傷つけた。裏切ってしまった。
俺は何処かで判断を間違えてしまったようだ。何か伝えたら何か変わっただろうか。悲しんで送り出してくれるのだろうか。
久しぶりに思い出してしまった。あの時は辛かったなぁ。
俺は帰って来れなかったのではない。帰ることが出来なかったのだ。帰ることが許されなかった。
「おはよう」
「おはよう、スミレ。今日が最後だから、皆に挨拶してくるんだよ」
「勿論よ!」
「今日は元気だね」
「お、そんなに気合い入れるところか?」
「あったりめーよ!」
同一化した俺は一段と気合いを入れて学校へと向かった。
俺は登校しながら、何故このような最後になってしまったのか、改めて思い返していた。
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あの日はとても、晴天の空だった。空気は春を迎え入れようとするかのようで、暖かい風が吹いていた。いつも通り友達と仲良く学校生活を送る筈だった。
俺はヨシと授業中にも関わらず、野球で怪我をした傷を保健室のおばちゃん先生に診てもらっていた。その後、教室に帰る途中だった。
パッと眩い光が差し込む。
「な、なんだ!?」
「ふむふむ。中々良い所だ。だがしかし、面白くないな」
聞いたことのない声が頭に響き渡る。清明で、何処か邪慳な声だ。
「そこのお前!私と出会ったこの運命をどう思う?」
「………だ、誰ですか!そんなこと知りません。帰ってください!」
光のその先に誰かいるみたいだ。光で何も見えない。そして誰かが呼び出され、会話をしているようだ。
「はっはっはっは、笑止。尚の事、失格だ。貴様達に試練を与えよう」
その声が頭に入ってきたその瞬間だった。
グラグラグラグラ!!!!
地震だ!!それも立っていられない程の大きな地震だ。
「きゃーー!!」
「先生!助けて!」
「落ち着いて!早く机の下に隠れて!!!」
先生の声を掻き消すほどに悲鳴が絶えない。
「ヨシ。これはヤバいやつだよね」
「そうだね。俺達どうしよう。教室に戻った方がいいのかな」
すぐ一階上の俺たちのクラスへ向かおうとするが揺れが強すぎて、動けない。
「そこの2人!しゃがんで頭を隠しなさい!!」
すぐ横のクラスの先生が必死に声を掛ける。俺たちはそれに従った。
「こんなものかな。また会おう」
1分半ほど続いただろうか。謎の光と凄まじい揺れが収まった。
揺れが収まると校舎を離れ、グラウンドに向かい、クラスに合流した。
「スミレ、ヨシ!良かった!此処でとりあえず待機。動くなよ」
クラスの担任の先生が必死に探したと言わんばかりに息を整えながら話しかける。
「分かった!先生。避難訓練やってて良かったね」
「そうだね。本当によかったよ」
正直何が起こっているのかわからなかった。このような経験をした事がなかったから。先生達はバタバタと忙しそうだったが子供の俺達からしたら暇な時間だった。
これから大変な生活を強いられる事になるとは気づかない子供の俺たちは呑気にグラウンドで話していた。
だが、若く知識のない俺でも徐々に事の重大さに気づくこととなる。
親が学生を迎えにくる。夕方になり涼しくなると体育館に移動し、親の迎えを待っていた。
「スミレ!お待たせ!」
気がつけばもう学生の10分の1くらいになっただろうか。母親が迎えに来てくれた。
「さぁ帰ろう。スミレ、スズ取り敢えず無事で良かった」
学校を出て帰宅の路を歩んでいた時の光景は衝撃だった。木造の家は崩壊し、電柱はなぎ倒されているものもあれば、折れているのもあった。
そんな異様な光景を間に当たりにした俺は人生で初めて初めて絶句した。
家に着いた。朝出た景色とは似ても似つかない。まだ崩れていないだけマシだろう。家を灯す灯りは懐中電灯の一つだけ。ライフラインは全て断絶されていた。
「ねぇママ、何が起こったの?」
「大丈夫だよ。スミレ。何も心配する事はないよ」
その日の晩飯は家にあったお菓子。
「お腹すいた」
気の利かない我儘な子供の俺は、ただ空腹に飢えていた。
「今日はこれで我慢してね」
「えー」
優しい発言とは裏腹に明らかに母親の顔は笑っておらず、真剣な眼差しだった。
無事だった一室に家族が集結し、家族会議が行われた。明らかに違う様子で話し合う他の家族を見た末っ子の俺は、話の内容は入ってこず、ただ不安に煽られるだけだった。
俺はこの時、初めて「死んじゃうのではないか」と死を意識した。俺の心は無意識に不安と焦りが積もる。
一室で家族5人で寝るには流石に狭すぎた。父親は仕事場を見に行くと出かけて行き、ユウキは車で寝ることを自ら促し、車へ向かった。
ユウキを見送る際に少し外に出た。
「ユウキ。何かあったら連絡するんだよ」
「分かってる。母さん。それじゃおやすみ」
「お兄ちゃん!おやすみ」
「あぁ、スミレ。おやすみ。俺がいなくて泣くなよ」
「うん」
ふと、空を見上げた。
「これからどうなるんだろう」
初めて明日からの生活が不安になった。これからどうしたらいいのか分からず、これからの生活を考えるだけで胸がすごく締め付けられる。
「ほら、スミレ空を見てごらん」
「……………………すごい」
普段は見れない満点の星空が広がっている。それもそうだ。こんなに光が灯っていない夜は初めてだから。この時、人生2度目の絶句だった。
「きっとお星さん達が見守ってくれているんだろうね」
「……………………うん」
綺麗だった。不安な心を照らしてくれそうなあの夜空は、忘れる事はないだろう。
時々分からなくなる。果たしてこの作品はヒューマンドラマなのか。それともローファンタジーなのか。