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過去編 1.懐かしい景色

過去編スタートです。

 


 ふう、やはりあの3神を前に話をするのは疲れる。


 俺は未来のヒナと話した記憶を辿っていた。どうも先程の閻魔大王の言葉が気にかかる。


「もしかしたら他に何かを伝えたかったのかもしれないね」


 ヒナの目的はもう一つあったのかな。ヒナの言動を思い出そうとするが、どうにも分からない。


 まぁいいか。考えだって仕方ない。とりあえず自分の過去について色々思い出してみよう。 


 子供の頃は楽しかった。運動もそこそこ出来て、足も速かった。だから結構モテた。つくづく足が速くて良かったと思う。いきなり知らない人から告白された事もあった。足が速いって最早最強だよね。


 後悔は沢山ある。初恋の思い出や、進路の決定。親との関係など諸々だ。悩む。どれも変えたいものばかりだ。


「パパ、ありがとう。いつも言ってるよね。感謝は口に出せって。だからいっぱいいっぱいありがとう!!」


 ヒナ(元の方)が俺に言ってくれた最後の言葉が頭をよぎる。未来の俺は口癖があったらしい。感謝は口に出せか、、、。全く出せていなかった奴がよく言ったものだ。いや、だからこそ、、、か。




 よし、決めた。俺は決心をつけ、扉を開ける。


「あら、早かったわね」

「次は10年前頃に行くと決めました」


「そうかそうか。楽しみだな。何をするのかは敢えて聞かないでおこう」

「レグルスにしては良い案ね。そっちの方が楽しめそうだわ」

「にしてはとはなんだ。ミカよ。まぁ、良い。スミレよ。次の旅も期待しておるぞ」



「はい。頑張ります」


 この人たち完全に楽しんでいる。まるで、新しいゲーム機を買ってもらう子供みたいだ。


「スミレ。過去は未来以上に思い出が詰まっているだろう。何をするかは決まっているみたいだが、もし、まだやり遂げていなくて戻ってきそうになった場合には、これを使うと良い」


 またカードを渡された。


「カードですか」

「そうだよ。また渡されたって顔してるね」

「実は未来へ行く際にもレグルスさんからもらいまして、、、」


「なんと!レグルス殿も渡されていたとは!」

「奇遇だな。閻魔よ。これはいい勝負になりそうだな」


 今回は何も仕組んでいない様だ。それにしても勝負???なんのことだろうか。


「じゃあ僕はこれで。行ってきます」

「いってらっしゃい。スミレ。せめて、後悔の1つや2つ払拭してこい」

「ありがとうございます。それでは」



 俺は願った。10年前のあの頃へ、、、。そう、俺の人生に「ありがとう」を伝える旅へ、、、。




「行けー、スミレー」

「狙ってけよー!」

「頑張れー」


「ストライク!バッターアウト!」


 そう、今俺(過去の)は野球をしている。


 最後に見た夢と同じように良いところで活躍出来ていない小学生の自分を上から見下ろして、懐かしい気持ちで溢れかえっていた。


 この頃はプロ野球選手になることが夢だった。野球しか考えない生活、一度でいいから味わってみたかった。


「スミレ今までありがとう!これはプレゼント。遠くに行っても頑張れよ」

「ありがとう、みんな」

「元気でな。また、会おうね」

「うん、勿論!まだ、学校で何日か会うけどね」

「そうだった」



 思い出した。これは引っ越す前の最後の試合だった。次の週に遠方へと引っ越すため、俺は普段しない、もうすることがない4番ピッチャーで特別に試合に出ていた。


「はーい、じゃあ写真撮るよー!」


「スミレが中心ね」


「俺スミレの隣がいい」


「俺も俺もー」


 故郷の皆は元気かな。そうそう帰れる距離ではないから、生きている頃には一回も帰れなかった。明日から、同一化する前に故郷を回ってみよう。 



「まずは小学校だよね!」


 俺の母校には3mを超える滑り台があった。名付けて「ジャンボ滑り台」いや、そのままやないかい!っていうツッコミは名付けた人に言ってほしい。

 数日後に俺は勇気を出して初めての告白をこの場所でしたのはいい思い出だ。滑り台のように気持ちのベクトルが急降下したのだけれどもね。初恋は誰でも甘酸っぱいものだろう。懐かしいね。

 ちなみにユウキはこのジャンボ滑り台から落下して、大事な所を手術したらしいけど、俺は全く記憶がない。



 次は公園だな。少し高台にある遊具一つないこの殺風景の公園。


 こんな公園だけど俺の家族の思い出の一つ。此処では親父とユウキと朝から夕方までご飯を忘れるほどよく遊んだ。ユウキはサッカー、俺は野球。両方を相手にしていた親父を今になってみるとすごいと思う。


 それにしても懐かしいな。またこの景色を見れるなんて、、こんな何処にでもありそうな公園なのに。


「早く早く!」

「おーい、ゆっくりなー、転ぶぞ」


 懐かしい声が聞こえる。俺と親父だ。この公園での最後のキャッチボールをしにきたのだろう。

 数十分のキャッチボールから親父を座らせ、ピッチング練習、そして親父にフライを上げてもらいそれを取る。かれこれ2時間ほどやっただろうか。俺は過去の俺の真後ろに聳え立ち、遊んでいる感覚を味わっていた。


「ところでスミレ、学校の先生には伝えてるのか?」

「うん。伝えたよ」

「そっか。お世話になった友達にもちゃんと感謝を伝えてこいよ」

「………分かってるよ」


 俺はこの時を覚えている。その頃はなかなか別れを友達に伝えれなかった。それは、状況が状況だったから。誰かが俺の立場でも皆には伝えないだろう。


 伝えたのは同じ野球チームの友達だけ。


 だから、「ありがとう」を言えずにこの地を去ってしまった。ほんの些細なことだけど、ずっと心に残っていた。


「そろそろ帰ろうか」

「うん、疲れた。キャベツ次郎が食べたい!それかアイス!」

「どこかで買って帰ろう」


 そういえば、俺も子供の頃キャベツ次郎が大好きだった。あの味の濃さ。堪らんよね。やっぱりヒナは俺たちの子供だな。


「そうだね。やっぱりパパの子供だね」


 頭の中に直接ヒナの声が入ってきた気がした。


「ヒナ!ヒナなのか?」

「うん。預かっていたものを渡しそびれていて。パパが帰ってくるまで、パパの過去の冒険を閻魔さん達と一緒に観れることになったんだ」

「そ、そうなんだ。ちょっと恥ずかしいな」

「パパの子供時代、楽しみにしてるよ」

「そんなプレッシャーをかけないでくれよ」

「ふふっ、あっもう時間みたい。がんばってね、パパ」


 ヒナの声が途切れた。閻魔大王達、ヒナには少し寛容じゃないか?まぁ、何百人もの人達の不幸を救ったんだ。当たり前の対応か。俺もやる事を全うしよう。



「ただいまー」

「パパ、スミレ。お帰り。夜ご飯の準備出来てるよ」

「もうお腹ぺこぺこだよ」


「今日は私も手伝ったんだよ!」

「おー、スズも作ってくれたのか!偉い!」

「えへへ」


 俺の2つ上の姉、スズ。男勝りの一面があり、ユウキとスズはよく喧嘩していた。その度に俺がよく止めていた。


 末っ子が上2人の喧嘩を止める家庭はそうそう無いのではなかろうか?



「いただきまーす」

「どうスミレ、美味しい?」

「うん、美味しい」


 母親の料理を食べるのも久しぶりだ。家族5人でのご飯はより美味しく感じる。俺は懐かしい家族全員の雰囲気を数日間満喫した。



 いよいよ明日最後の学校だ。


 俺は同一化し、生前言えなかった先生、皆に感謝を伝えるため、時間をとってもらうように先生にもう一度お願いしようと思う。しっかりと原稿も考えた。クラスの皆にはどう伝わるかわからないが、後悔のないように「ありがとう」を伝えようと思う。



 俺は、生前の思い出を思い出しながら、眠りについた。



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