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    8.大切なもの



「ヒナ、あなただけは信じてほしい。パパとヒナ。あなたたちが誰よりも大切だったことを、、」


「ママ、行かないで」

 ヒナが足にしがみつく。私は振り向くと、ヒナを抱きしめた。


「ママはちょっと遠くの場所に行っちゃうけど、いつでもヒナ。あなたを見守っているから」


 ヒナを後ろに引かせた。家を後にして、車に乗り込んだ。もう、1人ではどうしようも出来ない。

 もし、スミレ君がいたなら、、、いや、もうやめよう。


 車内では喪失感とこれから待つ絶望を阻止するためにある計画を立てていた。


「やっと僕の彼女になる決意が出来たみたいだね」

「死んでもお断りよ」


 そう、死んでも、ね。


「ところで、2人に何かしたの?」

「別に、ちょっと修正した動画を見せただけさ。見事に引っかかってくれたよ」

「そう、もうどうでもいいけど」


 どうやら、顔や声を私に修正して、いかにもデートしている雰囲気を出したらしい。


「そうそう、それに君の大切な人はもう時期いなくなるよ」

「どういうこと?」

「子供は僕との子供しか要らないっていうことさ」


 ヒナが危ない!!扉を開けて脱出を図るも、阻止される。


「無駄さ。行かせはしない。それに、君の友達2人は言うことを聞いてもらえるようにしているからね」

「まさか、あの2人に、、、」

「そうさ。君に試した、心を掌握出来る薬を使ったよ」

「??!」

「今頃、ヒナちゃんだったっけ?君の大切な人を奪っている頃だろう」


 とことん私のことを追い詰めたいようだ。絶望をとうに超えてしまっていた私は無情にも笑うことしか出来ない。


「何故そこまでして私を?」

「知らないとでも言うのかい?君が世界有数の会社、ヒラギノ財閥の令嬢であることを」

「そう、知っているのね。でも、その肩書きは25年前にはもう捨てたけど」


「捨てたとしてもその地位は変わりないさ。これでこの僕がヒラギノ財閥を取り込み、更に上へ登り詰める時が来た。はっはっはっは」


 甲高く笑うその声は無情にも懐かしく感じた。まるで昔の私を見ているよう。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そう、あれは、25年も前。私の、もう1人の運命の人との出会い。確か名前は、、、


 私が名家の令嬢を自慢気に見せびらかしてきた頃のある日、私は兄の野球の応援に来ていた。


「この人、いいな」


 私は相手チームの選手1人に一目惚れした。顔はイケメンではなかったが、プレーで他を圧倒していた。何より人柄の良さが滲み出ていた。


 兄のチームは試合は負けた。でも一目惚れした相手の笑顔が見れて、私の気持ちは高鳴っていた。


「モネお嬢様。負けてしまいましたね。ささ、兄様に見つかる前に帰りましょうか」


 兄は名家の出身と思われることを何故か嫌い、執事もつけずチームに参加していた。私が応援に来ることも拒んでいた。正直何故嫌っているのかは分からなかった。


「そうね。シン(執事の名前)。でもその前に話したい人がいるの」

「はて、誰でございましょう?」


 シンは私の我儘に何でも察して応えてくれるが、今回は戸惑っている様だ。


「兄のチームと戦っていた相手の8番を連れてきなさい」

「畏まりました。モネお嬢様。さては一目惚れですね」

「うるさい!シン。速く連れてきなさい」

「失敬。今すぐに」


 シンは執事だがどこか友達の様に接してくれている。その関係性は好きだった。何故ならこの様な我儘は御令嬢に本当の友達など出来なかったから。


「モネお嬢様。連れて参りました」

「君がモネちゃん?僕に何か様かな?」

「ええっと初めまして。試合お疲れ様。とてもカッコよかったわよ」

「あ、あぁありがとう。嬉しいよ」


「あの、それでね、、、、」


 後ろでシンがクスクス笑っている。私は告白をしようとしているのに!


「私があなたの婚約者になってあげる!!感謝しなさい!!」


 沈黙の間が流れる。シンも笑うのをやめて、ぽかんとした表情をしていた。


「ごめん。これは告白ってやつなのかな?俺こんなこと初めてだから」

「そうよ。これは命令よ。私と付き合いなさい。私はヒラギノ財閥の令嬢よ。貴方も鼻が高いでしょう」


 その男の子は一瞬考える。そして、


「ごめん。今はその申し出は断らせてほしい」  


「……な!何でよ。今はってどういうことよ!」


 私は頭が真っ白になった。気がつけば、高貴な服に涙が落ちている。初めての恋。そして失恋だ。


「はっきり言うよ。君は可愛い。でも、君のその上からくる感じは好きじゃないな。君のお父さんの会社なんてどうでもいい。俺は君という人を見て判断したんだ。僕は誰だって、いや特別な人ほど、同じ目線で、お互い支え合っていきたいから、、、。だから、君が、周りの人を蔑まなくなって、支え合うことが出来る様になったらもう一度思いを伝えてほしいな。伝えてくれてありがとう」


 あの頃の私には深く響いた言葉だった。学校にいても何も楽しく無かった。クラスの子と話している時もそうだ。もしかしたら、ただクラスの子を普通の子と蔑んでいただけなのかもしれない。相手側も嫌われないようにと接するものだから、それは友情など芽生えないわけだ。

 私は兄が何故隠そうとしていたのかが分かった気がする。


「じゃあ、僕は行くね」

「教えてくれてありがとう。せめて、名前だけでも、、」

「僕はナツ。じゃあまたね」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 彼に出会わなければ、私は今の私にはなれなかった、、、。彼に告白したから沢山の友達、大切な家族に会える自分になれた。結局ナツ君にはあれから会えなかったけど、また会えたらいいな。そして感謝を伝えたいな。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「それにしてもそんな薬を使っていたなんて。クズね」

「あんまり褒めないでくれ。君には数時間ほどしか効果はなかったけどね。機嫌がいいからもう一つ教えてあげよう。薬を使った人が今どのように考えているのかが、このモニターにってあれ??」


 ずっと最後に見るであろう街を見ていて気にもしなかったが、モニターには何も写っていないみたいだ。ヒナ、、、、。無事でいて。


「あれ、おっかしいな、、」


 機械を弄り始めた。私はチャンスを見計らい、車から飛び出した。



「よし、治った!ってあれ。モネがいない??おい、ドライバー!引き返せ!!」


 今ではスミレ君が甘やかすから少し太ってしまったが、こう見えても元陸上部。あっという間に車を巻いて、海に来ていた。


 海の漣が気持ちいい。絶望に満ちたこの心を受け止めてくれるみたいだ。


「あの男にさえ会わなければ、幸せな人生だったな。それもまた運命ってことかしら。

 スミレ君、13年前のあの日、君に手紙を渡そうと思っていたんだ。告白の手紙を。目の前で君が事故に遭って、とても悲しかった。でも驚いたよ。君の最後の言葉、、、、。スミレ君、、、、私を助けに来て、、、。」


 綺麗な夕陽が海に反射して幻想的な世界が広がっている。





「最後まで私の声は誰にも聞こえない。スミレ君、ヒナ、大好き。」



 ドボンッ………


 私は海に飛び込んだ。海は無音だから心地が良い。このまま海の底へ行くのだろう。思ったよりも苦しくない。このまま天国に行けたら良いなとそっと目を閉じた。





 ……ザッブーン、誰かが飛び込んだ音がする。



 沈むはずだった私の身体は誰かによって浮き上げられていく。


「プハッッ、大丈夫か!モネ!」

「こ、この声は。」

「君の声は俺に届いてる。いつも君が救ってくれた。今度は俺が助ける番だ。」

「バカッ、カナヅチの癖に、、」

「うん、だからモネ。助けて」

「ふふっ嫌だ」


 この人はいつも締まらない。何でこんな人を惚れたのかな。でもそういうところ。嫌いじゃないよ。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 俺たちは何とか砂浜の方に移動することが出来た。そして、俺がいない間モネに何が起こったのか全部聞いた。


「モネ、大丈夫?寒くない?」

「大丈夫だよ。それにしても何でここって分かったの」

「それはだな、もう1人の救世主が教えてくれたんだ。まぁ言われなくても、モネはここに居ると思ったよ、俺も」


 この人は変なところで負けず嫌いなんだよなー。っていう顔をモネがしている。


「見つけたぞ!モネ!」


 かっちょごっつい車の中から因縁の相手が叫んでいる。コイツがモネの人生を狂わせた男。

 一発お見舞いしてやりたいがそうもいかない。早く帰ってヒナの無事の確認をしないといけないからだ。


「走れるか?モネ」

「バカにしないで。これでも元陸上部よ」

「俺の方が速いからね!ついてきてよ!」


 あっまた変なところで負けず嫌いなんだよな顔をしてる。


「馬鹿、車に勝てるかよ!」


 男の言う通り徐々に追い詰められていく。


「どうしよう!スミレ君」

「うーん。どうしよう」


 どうしたものか。逃げながら考える。


「おーい!スミレ!モネちゃん!」


 車から聞いたことのある声が聞こえる。


「スノー、それにユウ!」


「聞いたぜ。スミレ、モネちゃん。大変だったな。さぁ乗りな。あとは俺たちに任せろ」


 ユウさんかっこええです。見事にあのかっちょごっつい車を巻いて行く。


「警察も呼んであるからもう大丈夫だ」

「ありがとう、ユウ」

「モネちゃん。ごめん!さっきは信じてあげげられなくて本当にごめん!」

「いいよー、スノー。でも今度から信じてよ?」

「もちろん!」

「良くないよ、モネ!!おい、スノー。モネを見くびるなよ。俺の妻だぞ!」

「本当ごめんて」


 スノーに言いたい事言ってやった。


「ちなみにユリはモネちゃんのこと信じてたって」

「ユリめちゃくちゃ疑ってたぞ!?!」


「どうする、スミレ君?許さないでおく?」

「いや、ユリは信じてたなら許す」

「ちょいちょい、俺はー?」

「許さん。今度焼肉だー!」


 何がともあれモネを救えて良かった。それにモネも安堵しているようだ。


「スミレ君。それで救世主って?」

「あぁ、それは帰りながらゆっくり話そう」


 そうして俺たちは家に向かうのだった。



未来編第8話突破!!

この小説を見ていただきありがとうございます!!!


何故8話でこのような話をするのかというと、私の人生において切っても切れない数字が8だからです。気にしたこともない方もいらっしゃると思いますが、皆様も思い思いの数字があるのでは?言うなれば、運命の数字なのかもしれませんね。


その話は置いといて、再度見ていただきありがとうございます




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