表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小癪な公爵令嬢は、ポケットの中に小さくて大きな秘密を隠している  作者: 有理守
第四章 灰色の王と銀鏡の妃と小さくて大きな幸福
30/38

その四 宿屋の食堂にて

 ハーマン先生の魔法は、考えていたよりもずっと簡単でさりげないものだった。

 先生は、右手を手袋に左手を化粧箱に置き、目を閉じて呪文を唱えた。

 先生の手から流れ出した何かが、それぞれの内に溜まり、やがて手袋と化粧箱は眩しく発光した。

 その光が弱まり消えると、ハーマン先生は瞼を開け静かに言った。


「これで、二つの品は繋がりました。どこに運ぼうと、それぞれが出入り口となり、手袋と化粧箱の間を、誰でも移動することができます。

ただし、エーベル王国内でこれを使うのは、今は危険な気がします。王妃様の闇色の魔法が、どのような影響を与えるかわかりませんので――」

「ヨッヘムをエーベル王国へ直接飛ばせないのは、そのためですか?」

「ええ。エーベル王国の魔法は、白色も黒色もエーベル王国の繁栄と安全を目的として遣われるものです。だから、王国を離れてしまうと、遣い手の魔力は弱まると考えられています。

ご存じのように、灰色は個人的な目的で遣われる特殊な魔法ですから、エーベル王国を離れることで、魔力が弱まる恐れはありません。

しかし、闇色は、まだ魔法の正体がはっきりしません。どこまでどんな力を及ぼすことができるのか――、残念ながら、わたしにもよくわからないのです」


 話を続けながら先生は、布鞄から取り出した、小さな布袋に手袋を入れた。

 そして、布袋の口に通してある細い革紐を、ヨッヘムの首に掛けた。


「あとは、公爵様の書状を入れれば準備は整います。明日の夜明けまでには、ヨッヘムは、ニーランデル島に到着できるでしょう。おおっ! ようやくライナルト様がお目覚めになったようだ!」


 ピンクッションにもたれかかっていたライナルト王子が、小さな呻き声を漏らして、ゆっくりと目を開いた。

 王子は、わたしの部屋に戻ってきていたことがわからず、一瞬戸惑った顔をしたが、怪鳥になってしまったヨッヘムに気づくと、勢いよく起き上がり叫んだ。


「ヨッヘム……、お、おまえ、どうしてその姿に?!」


 先生が、わたしたちの計画について話すと、ライナルト王子は、ヨッヘムに乗って自分もニーランデル島へ渡りたいと言い出した。

 先生は、すぐさまライナルト王子の申し出を断った。


「お気持ちはわかりますが、ライナルト様を同行するというのは危険過ぎます。夜の飛行になりますし、かなりの速さで移動しますので――。どうかこちらのお邸で、おとなしくヨッヘムからの連絡をお待ちになってください」


 ライナルト王子は、何か言いたそうに口を動かしていたが、しばらくするとあきらめがついたのか、悔しそうにハーマン先生に言った。


「残念ですが、確かに先生がおっしゃるとおりです……。ついに、この小さな体が役立つときが来たかと思ったのですが……」

「ライナルト様がいくら小さくても、乗せて飛ぶとなれば、この大きさのヨッヘムには、けっこうな負担になります。人目に付かぬように素早く飛んでいくためには、少しでも身軽な方が良いのです」


 そうです、そうです、と言うように、ヨッヘムが何度も首を縦に振った。

 やがて、ノックの音がして、書状を手にしたお父様が、モーリッツを連れて戻ってきた。

 ちょっと気味悪そうにしながら、モーリッツは、ヨッヘムの首から下がった布袋に折りたたんだ書状を入れた。


「それでは、ヨッヘム、頼んだよ! ニーランデル島に着いたら、人の姿になって公爵様の別邸を訪ね書状を届けるのだ。あとは、あちらの家令殿の指示に従えばよい。わかったな?」

「ゲウオォォォ―ッ!」


 先生の問いかけに、奇声を上げて答えると、モーリッツが開け放った窓から、ヨッヘムは勢いよく飛び立っていった。

 小さな黒い鳥影は、あっという間に点になり、暮れ始めた空の彼方に消えてしまった。


 お父様は、モーリッツに命じて、化粧箱を逗留客用の部屋へ運ばせた。

 そして、ハーマン先生とライナルト王子にも、その部屋を使って欲しいと言った。

 どんなに小さくても、男の人を娘の部屋に泊まらせるわけにはいかないってことね。

 まあ、すでにライナルト王子は、わたしの寝室に何泊かしているのだけど、訊かれないから、それは秘密!

 

 どうやら、お父様は、本気でエーベル王国の問題に首を突っ込むことにしたらしい。

 大王国の公爵としての矜持は、寛容でおおらかなお父様にもないわけではない。

 ハーマン先生の魔法の出入り口を知って、商売に利用できそうだとでも考えたのかしら? それも、否定できないけれどね――。


「さあ、では、まずは晩餐です。食事の前に家臣たちを集めて、わたしからお二人のことを紹介しましょう。妻も家臣たちも飲み込みが早いので、ライナルト様や先生に必要なことを思いついて、すぐにも動き出すでしょう。何も心配はいりません」


 お父様の言葉を受けて、モーリッツは、挨拶をして(そこらへんは、急いでいてもおろそかにしないのよね!)、慌ただしく部屋を出ると、家臣を集めに行った。


 そして、邸にいた全ての家臣と、お母様や妹たちが晩餐室に集められ、我が家の賓客として、ライナルト王子とハーマン先生が、お父様から紹介された。

 もちろん、彼らがここにいることになったいきさつも簡単に説明された。

 初めて彼らを見た者は、絶対に驚いていると思うのだけど、誰も声を上げない。

 モーリッツに睨まれて、摘まみ出されたくはないものね――。


 こうして、わたしのポケットの中の秘密は、ダンドロ公爵家全体の秘密になった。

 そして、わたしたちは、ヨッヘムからの連絡を待って眠れない一夜を過ごした……。


 * * *


 今、わたしは、再びポケットの中にライナルト王子を隠し、ハーマン先生やフレッド達と一緒に、大陸からの観光客を装い、ニーランデル島の宿屋の食堂にいる。


 今朝方、手袋を使って、別邸の若い下僕が、化粧箱から飛び出してきた。

 ヨッヘムが無事に別邸に到着し、お父様の書状が、家令のジョエルの手に渡ったことを伝えに来たのだった。

 わたしたちは、下僕と一緒に化粧箱を使って、急いで島の別邸にやって来た。


 書状を読んだジョエルは、船着き場の案内所兼口入れ屋で所長を務めるマルセル(もちろん、うちの家臣!)に、最近エーベル王国からの船で島へ来た人物で、気になる者がいないか問い合わせてくれたそうだ。

 マルセルには、思い当たる人物がいたようで、その人物を連れてヨッヘムと一緒に、この食堂に来ることになっている。


 みんなで朝食をとりながら、マルセル達が来るのを待っていると、食堂の扉をきしませて三人連れの男達が入ってきた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

やっぱり、「ファンタジー」だったなあ、これは――と思う今日この頃です。

どこまでいっても、恋愛風味は薄味です……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ