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小癪な公爵令嬢は、ポケットの中に小さくて大きな秘密を隠している  作者: 有理守
第三章 魔法王国と大陸一の大王国と伝説の王国
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その九 化粧箱の加護

閲覧ありがとうございます。

いつもより、ちょっと早いのですが更新します。

 えっ?! わ、わたしが、『銀鏡の乙女』――って……?!

 ハーマン先生ったら、急に何を言い出すのかしら?!

 だ、だって、そ、それは、わたしが、ライナルト王子の婚約者だってことよね?! 


「やはり、そうだったのですか……。わたしに呪いがかけられた日、西の塔に来ていたエグモントが言ったのです。『銀鏡の乙女』を見つけたと――。詳しく話を聞こうとしたところに、母上がやって来て――。

もしこんなことにならなければ、わたしは、歓びの中でエグモントから、『銀鏡の乙女』であるジェルヴェーズの名前を聞けたのですね……」


 ライナルト王子は、悲しげな微笑みを浮かべて、わたしの顔を見た。

 そんな、すまなそうな顔をしないでください……。わたしは、「銀鏡の乙女」であろうがなかろうが、必ずあなたの呪いを解くお手伝いをしますから!


「先に『銀鏡の乙女』を見つけたのは、王妃様でした。エグモント様は、ずっと王妃様を見張っておられたので、そのことに気づいたと仰っていました。今から、二か月ほど前のことです。

それまでずっと、何らかの力が、『銀鏡の乙女』を魔力による捜索から守っていたようです。その力が、何かの事情で失われるという事態が生じたのでしょう。

ジェルヴェーズ様、身近で、何かそれらしい出来事は起こりませんでしたか?」


 えっ? わたしをずっと魔力による捜索から守っていた力?

 そう言われても、わたしはマイヤール大王国の人間だから、これまで魔法とは無縁だったし……。

 二か月前頃か……何もかもその頃はじまっているのよね。何かあったかしら?


「あ、あのう……、もしかしたら……と、思うことがあるのですが……」


 小さな声でおずおずと話し始めたのは、アリーだった。

 アリーが、わたしの方をちらりと見たので、発言に許可を与える意味で、わたしは小さくうなずいた。アリーは軽く頭を下げ、話を続けた。


「ふた月ほど前、奥様から、ジェルヴェーズお嬢様がまもなく十五歳になるので、先代の奥方様から託された化粧箱をそろそろ引き継がせたいと言われました。

昔、エーベル王国に嫁がれたアンジェリア様から贈られた、螺鈿細工のたいへん美しい化粧箱です。それを収蔵庫から出して奥様のお部屋へ運ぶ途中、ディアドリーお嬢様に見つかってしまいまして――」


 気の毒に! アリーったら、運が悪かったわね――。

 ディアは、最近、装身具や化粧に並々ならぬ関心を寄せている。

 まあ、そういうお年頃なのだけど――。

 ディアがあの化粧箱を見たら、そりゃあ放っておいてはくれないでしょうね!


「箱の中をご覧に入れたとき、ディアドリーお嬢様が、取り出した引き出しを落とされて、飾りの真珠が一粒外れてしまったのです。二人で急いで真珠を探し、イニャスさんにこっそり直してもらったのですが――」


 まあ! あの箱がわたしの手元に届く前に、そんなことがあったの?!

 チェルシーとフレッドが、厳しい顔つきになってアリーを見ていた。

 イニャスというのは、屋敷で雇っている金工職人だ。

 どうやら、珍しくアリーは、この失敗談を二人には話さず、勝手にイニャスに修理を頼んでしまったらしい。


「アンジェリア様から贈られた化粧箱、ですか……。おそらくそれは、『銀鏡の乙女』であったアンジェリア様が、何らかの加護の力を授けた品なのでしょう。その力が、ジェルヴェーズ様の存在を魔力から隠していたのに違いありません」


 ハーマン先生が、小さくうなずきながら、いかにも納得したという顔で言った。


「飾りの真珠が外れてしまったとき、加護の力に一瞬綻びが生じたのです。その隙に、ジェルヴェーズ様のことが王妃様に知られてしまったのでしょうね」


 ハーマン先生の話を聞いて、チェルシーとフレッドの目つきはさらに険しくなり、見つめられているアリーは、ますます縮こまった。


「ライナルト様、王妃様があなたに呪いをかけたとき、黒い石の玉を手にしていらっしゃいませんでしたか?」

「ええ、先生。確かに母上は、黒い石の玉に何か語りかけたり、手でこすったりして、魔法を操っていました。あの石の玉は、いったい何なのですか?」

「あれは、呪石というものです。呪詛と予見を得意とし、この世界に災厄を招くといわれるいにしえの魔法――闇色の魔法の依代よりしろになるものです。

王妃様は、この五年間、呪石に念じて『銀鏡の乙女』を探していたようです。加護の綻びに乗じて、呪石が、ジェルヴェーズ様の居所を掴んだのでしょう」



 今はわたしの部屋にあるあの化粧箱が、良からぬ魔法の依代となる呪石の力からわたしを守っていたなんて――、魔法って、本当に不思議なものなのね。

 ライナルト王子の魔法を見て、無邪気に喜んでいる場合ではなかったのだわ。

 それにしても――。


「先生、なぜ王妃様は、ライナルト様とわたしの結婚を邪魔しようとしたのでしょうか? ライナルト様に代わって、実の子であるエグモント様を王太子に据え、いにしえの闇色の魔法の力をもって、この世界を裏切りと戦いが続く暗黒の時代へと導く――、という彼女の野望と『銀鏡の乙女』は、どう関わっているのですか?」


 わたしの問いかけにすぐには答えず、ハーマン先生は、書棚の前に向かった。

 そして、とても古びた皮表紙の本を一冊、書棚から取り出して戻ってきた。

 エーベル王国の古地図が描かれたページを開くと、先生は言った。


「これは、エーベル王国の建国にまつわる物語をまとめた本です。建国は、二千年以上前のできごとですから、この本に書かれていることは、事実というより伝説として語られていることがほとんどです。しかし、ある程度の真実は含まれているとわたしは考えています」


 エーベル王国の大まかな歴史は、わたしも本を読んで知っている。

 大陸から海を渡って島に上陸した部族が、最初の国を興したと伝えられている。


「この本を読めば、闇色の魔法や『銀鏡の乙女』が、エーベル王国の建国に大いに関わっていたことがわかります。この本自体が非常に古く稀少なもので、わたしも師であるリフタジーク先生に連れられてここに来るまで、一度も目にしたことはありませんでした。もしかすると、焚書に処せられた時代があった本なのかもしれません。

少し長くなりますが、この本に書かれていることを簡単にお話しましょう。そうすれば、今、どんなことが起ころうとしているか、きっと、わかっていただけると思います」


 ハーマン先生はそう言うと、一度、部屋全体をゆっくり見回した。

 全ての音が消え、この部屋が世界から切り離された場所になった気がした。

 心なしか室内が暗くなり、わたしたちは自然と先生の話に聞き入ることになった。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

都合により次話は、木曜夜に投稿します。

次話で、ようやく第三章が終わります。よろしくお願いいたします。

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