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小癪な公爵令嬢は、ポケットの中に小さくて大きな秘密を隠している  作者: 有理守
第三章 魔法王国と大陸一の大王国と伝説の王国
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その八 思わぬ来訪者

「さあ、お茶が入りましたよ! 噂に聞くメルセンヌ地方産の高級茶には叶わないかもしれませんが、これはこれで大変珍しく美味なものです。どうぞ召し上がれ!」


 ヨッヘムが運んできた青色のお茶は、心が安らぐような甘く優しい香りがした。

 一口飲むと、体の中にあった憂いや疲れが、すぅっと溶かされていく気がした。


「美味しい……。色も香りも少し変わっているけれど、のどごしは悪くないし、薬効のようなものも感じるわ。これは、どのようなものを煎じたお茶なのですか?」

「気に入っていただけて良かったです。茶の材料は、まあ、そのうちにお教えするということで――、ねぇ、先生?」

「ああ……、そうだね、ヨッヘム。うん、そのうちに――」


 あら? 何だか、二人とも言いにくそうにして――。

 まさか、わたしが商売っ気を出して、うちの茶園でも栽培できる茶葉かなあとか、サロンで紹介したら流行りそうとか考えていたことに、気づいてしまったのかしら?

 魔法の遣い手ですものね。人の心をよむぐらいのことは、なんでもないのかも……。


 わたしは、話題を変えて、ずっと気になっていたことを先生に質問することにした。


「先生、ライナルト様や先生のお話から、エーベル王国が何やら大変なことになっていることはわかりました。そして、その元凶が、どうやら王妃様らしいということも――。

でも、なぜ王妃様は、夢でウォルト様を脅かして、無理矢理わたしと結婚させようとしたのでしょうか? 王妃様の野望とウォルト様の結婚話は、まったく関係ないと思うのですけど……」

「そうですね。ウォルト様は、確かに関係ありません。関係があるのは、ジェルヴェーズ様、たぶん、あなたの方です」

「へっ?! わたしですか?!」


 やだ! わたしったら、エドラ王妃から、何か嫌がらせを受けるようなことをしちゃったかしら?

 我が家の領地で最近湧きだした美肌温泉水が、化粧水として大人気になって、エーベル王国産の薬草化粧水の売れ行きが悪くなったこと?

 エーベル王国一美味しいといわれるバターを作っている農場を、数年前に、こっそりお父様が買い取り、利益を独占していること?

 ほかにも、何かあったかしら?


「王妃様は、あなたを早く結婚させてしまいたかったのです。あなたの正体に、自分以外の者が気づいてしまう前に――」

「わたしの正体――って?」

「わたしたちや魔法省が、必死になって探しても見つけることができなかったのに、王妃様は、どうやら呪石の力を借りて見つけ出してしまったのです……」

「先生! そ、それはもしかして――」


 そうつぶやいて、ピンクッションから立ち上がったライナルト王子の横で、鳥の巣箱がカタカタと震え出した。

 やがて、巣箱の出入り口から風が吹き出したと思ったら――。


「きゃああぁぁぁーっ!」

「ひえええぇぇぇーっ!」

「おおおぉぉぉぉーっ!」


 叫び声と共に、靄に包まれた小さな固まりが三つ、次々と飛び出してきた!

 見る間に固まりは巨大化して人の姿をとり、靄が消えたときには、三人の人物がもつれ合うようにして床に倒れていた……。


「まあ、チェルシー?! アリー?! フレッドまで?!」


 見慣れた三人の家臣が、それぞれお盆と箒と杖を手に起き上がった。

 最初は、互いに顔を見合わせていたが、わたしの姿に気づくとものすごい勢いで飛びついてきた。


「お、お嬢様! よ、良かった……、ご無事で!」

「こ、こ、こ、ここは、ど、ど、ど、どこでございますか?」

「もう大丈夫ですぞ! このフレッドが、おそばに参りましたゆえ!」


 そう言うと三人は、わたしを取り囲むようにして立ち、呆然としながら見守っていたハーマン先生とヨッヘムを威嚇するように睨み付けた。


「ちょ、ちょっと、みんな、落ち着きなさい! よそさまのお宅に突然乗り込んできて、ご挨拶もせずにそのような態度をとるとは、不作法にも程があります。あるじであるわたしに恥をかかせたいのですか?」

「お嬢様、そのようなつもりは――。と、申しますか、この古びていて狭くてごちゃごちゃとしたお宅は、どなた様の……、ひ、ひゃはぁぁぁーっ!!」


 テーブルの上に立っているライナルト王子を指さしながら、チェルシーがわたしの後ろに隠れた。「よ、妖精?!」とか「いかなる呪術?!」とか言いながら、アリーとフレッドも、身を縮めチェルシーに引っ付いた。


「まったく、もう――。ここは、エーベル王国の王宮に仕える、灰色の魔法の遣い手ルトガー・ハーマン先生の隠れ家です。しっぽが生えた若い方は、先生の助手のヨッヘム。彼の本性は、クロギツネです。しっぽが見えるでしょう? それから、テーブルの上のお小さい方は、実はエーベル王国の王太子ライナルト様です、呪いを受けて、このようなお姿になってしまわれたのです」


 背後から、「灰色の魔法」「クロギツネ」「呪い」といったつぶやきが聞こえた。

 三人は身を寄せ合いながら、必死でこの状況を理解しようと努めていた。

 ようやく気持ちが落ち着くと、こそこそとわたしの隣に並び、改めて挨拶をした。


「皆々様、非礼をお許しください。わたくしは、ダンドロ公爵家で長年執事を務めております、フレッドと申します。このたびは、このように趣あるお屋敷にお招きいただきありがとうございます」

「わ、わたしは、ジェルヴェーズ様付きの侍女で、チェルシーと申します。靴屋の娘でございます。新しい靴がご入り用のときは、どうぞお声をおかけください」

「わたしは、メイドのアリーでございます。こちらのお部屋の棚は、ずいぶん雑然と……。あっ、いえ、棚のお掃除でしたら、いつでもお手伝いいたしますわ!」


 テーブルの上のライナルト王子が、ニヤニヤしながら三人を見ていた。

 ヨッヘムは、大急ぎで三人分のお茶を用意しますと言って、部屋を出て行った。

 そして、ハーマン先生は、巣箱を覗き込んであちら側の様子を気にしていた。


 いつの間にか、テーブルが少し大きくなっていた。

 木箱や樽など、椅子の代わりになりそうなものが部屋の隅に転がっていた。

 ん? あんなところに木箱や樽なんてあったかしら?

 そういえば、部屋全体が微妙に広くなっているような気がする……。


 戻ってきたヨッヘムが、三人を木箱や樽に座らせ、青いお茶のカップをテーブルの上に並べた。

 先生が、好奇心を抑えきれず、いまだに視線を彷徨わせている三人に言った。


「ようこそ、我が隠れ家へ! 歓迎いたしますよ、銀鏡の乙女・ジェルヴェーズ様にお仕えする忠実なるご家臣どの!」


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

あれ? 終わらない! 三人を登場させたら渋滞してしまいました……。

第三章は、もう少しだけ続きます。お付き合いください。

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