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小癪な公爵令嬢は、ポケットの中に小さくて大きな秘密を隠している  作者: 有理守
第一章 横暴王子と生意気令嬢と小っちゃな隠し球
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その二 掌の王子   

「キャアァァァ~ッ!!」


 わたしは、悲鳴を上げながら、ポケットをバンバン叩いた。

 ポケットに何かいる! 動くものがいる! ネズミ? トカゲ? 何?!

 ポケットの中から小さな叫び声が聞こえた! やめてよ~! 黙ってよ~!!

 何がいるのか確かめるのは怖いので、とにかく動かなくなるまで叩き続けることにした。


 悲鳴を聞きつけて、侍女や執事たちが、バタバタと書斎に飛び込んできた。


「お、お嬢様、どうなさいました?!」

「窓から、虫でも入ってまいりましたか?!」

「曲者は、いずこー?! このフレッドの杖にて、成敗してくれようぞー!」


 わたしに駆け寄り無事を確かめるチェルシー、書斎を見回し悲鳴の原因を探すメイドのアリー、杖を巧みに振り回し気勢をあげる老執事フレッド――、忠臣ぞろいの我が家だが、ちょっとばらばらなところはある……。


 わたしは、再びソファに腰を下ろした。

 そして、すっかり大人しくなったポケットの中を、おそるおそるのぞいてみた。

 えっ? こ、これは――。


「あ……、あっ、ごめんなさい、みんな……。変な夢を見ていたの……。夢の中で魔獣に襲われそうになって、思わず叫んでしまったの。何でもないわ……。うん、何でもないの……。もう、戻ってちょうだい。一人になって心を落ち着けたいから……」


 わたしは、ポケットの膨らみに気づかれないように、体の向きを変えながらソファに体を伸ばし、少し眠そうな口調で言った。


「本当に、よろしいのですか?」

「お茶や虫除けのき物でも、持ってまいりましょうか?」

「久しぶりに、お嬢様のおそばで、子守歌でも歌ってさしあげましょうかな?」

「ありがとう! 皆の忠義には感謝するわ! でも、もう大丈夫だから、一人にしてちょうだい!」


 家臣たちは、何かボソボソと呟きながら、わたしの命令に従い書斎を出て行った。

 しばらくの間、廊下から話し声が聞こえていたが、やがて静かになった。

 そろそろいいかしらね? 

 わたしは、ソファに座り直すと、そっとポケットを開け、中のものを摘まみ出した。


 掌に載るぐらいの小さな人形、いや、人間だった。

 テーブルの上に置いて、じっくりと眺めてみることにした。


 金色のふんわりとした髪。高級そうな生地で仕立てられた上等な服。

 靴やベルトの小さな金具は、丁寧に磨かれている。

 それなりの地位にある、まだ若い男の人のように見える。

 これって、もしかして――。


「う、うう、うう~んん……」


 小さな男の人が、うめき声を上げた。

 良かった……。死んではいなかったのだわ!

 わたしは、右手の人差し指で、小さな男の人の足の辺りをつついてみた。


「ねえねえ、妖精さん! 起きてくださいな! 妖精さん!」

「う、うん……。ああ……」


 小さな男の人が、ゆっくりと目を開けた。

 とても綺麗な青い瞳をしていた。やっぱり――。


「ごめんなさい、妖精さん! 乱暴なことをしてしまって……。でも、わたしの願いを聞き届けて助けに来てくれたのなら、最初に名乗ってくれないと! 突然、ポケットの中なんかで暴れたから、ネズミかトカゲかと思って叩いてしまったわ! どうぞ、わたしを許してくださいね、妖精さん!」


 テーブルの上に足を投げ出して座り、きょとんとした顔でわたしを見ている小さな男の妖精に、わたしはできる限り丁寧に謝り、微笑みかけた。

 せっかく現われた妖精さんに、嫌われてしまっては困るわ!


「ど、どうやら、エグモントの奴……、わたしを、巨、巨人国へ、送り込んだようだな? 王子ともあろう者が、異界の巨人国で、巨人娘の慰み者となって果てるとは……。フフフ……、このような最期、想像だにしなかったな……」


 若い男の妖精は、そう言うと、小さな手で小さな目から溢れた涙を拭った。

 巨人国? 巨人娘? 慰み者? な、何言ってんのよ、この妖精!


「よ、妖精さん! ここは、巨人国じゃありませんわ! あなたがと~っても小さいだけです!」

「巨人娘よ! 先ほどから、そなたは、わたしのことを『妖精』と呼んでいるが、わたしは妖精ではないぞ! わたしの名は、ライナルト・マヌエル・ビンツスだ。エーベル王国の王子である!」

「ええーっ!!」


 何、なに、なにぃ~?! 妖精さんじゃないの~?! 

 困り果てたわたしを助けに来てくれた、妖精さんだと思っていたのに~! 

 王子?! 王子なんて、役に立たないわよ! わたしに必要なのは、妖精!


 腹が立ったわたしは、自称王子を摘まみ上げ、屑入れの中へポイッと放り込んだ。


「うひゃああ! な、何をするのだ、巨人娘! もう一度言う! わたしは、エーベル王国の第一王子、ライナルト・マヌエル・ビンツスであるぞ!」


 ん? エーベル王国の第一王子、ライナルト・マヌエル・ビンツス……。

 その名前、聞いたことがある……。エーベル王国っていうのは、確か――。


 わたしは、屑入れの中から自称王子を拾い上げ、再びテーブルの上に置いた。

 屑入れには書き損じた紙を丸めて入れていたので、王子に怪我はなかったようだ。


「あのう……、エーベル王国って――、北の海に浮かぶ、ちんまりした島国ですよね? 酪農や漁業が盛んで、おいしい乳製品や魚の燻製とかが評判の――」

「ちんまりは余計だが――、よく知っているではないか! その通りである!」

「あ、あと、もう一つ、とても有名なものがありますよね?」

「うーむ……、確かに――」

「エーベル王国と言えば――」

「「魔法!!」」


 きゃーっ! やったわ! 妖精さんじゃなかったけれど、魔法王国エーベルの第一王子を手に入れてしまった!

 もしかして、わたしったら、すごく運が向いてきたんじゃない?! 


 えっ?! でも、でも、でも、どうして王子は、こんなに小さいの?

 それに、突然、わたしのポケットの中に現われたりして――。

 そういえば、何だかおかしな一人言をずっと口走っていたわよね――。


 わたしは、ライナルト王子の小っちゃな青い瞳をじーっと見つめた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

続きは、今日か明日投稿します。よろしくお願いいたします。

さっそくの応援、感謝します!

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