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小癪な公爵令嬢は、ポケットの中に小さくて大きな秘密を隠している  作者: 有理守
第三章 魔法王国と大陸一の大王国と伝説の王国
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その三 王宮への召喚

「も、申し訳ありません、お嬢様! 毎年こっそりカードの中身を拝見し、お嬢様のお目に触れぬように片付けておりました!」

「チェルシーさんだけをお責めにならないでください。わたしも話は聞いておりました」

「このフレッドのそっ首を差し出しますゆえ、なにとぞチェルシーには穏便に!」


 あるじの許可なく勝手なことをしちゃったのなら、放っておくわけにもいかない。

 理由を問いただそうと思って、チェルシーを居間へ呼び寄せたら、フレッドとアリーもついてきた。えっ? 二人とも知っていて、わたしに黙っていたってこと?!

 妹たちも様子を見に来たけれど、早々にお引き取り願った。

 お子様は、これ以上立ち入らせませんよ!


「チェルシー、カードは今どうなっているの?」

「全部、保管してございます!」

「じゃあ、いちおう目を通すから、ここに持ってきてちょうだい」

「承知いたしました!」


 チェルシーは、素早くお辞儀をして、あたふたと居間を出て行った。

 扉の近くには、心配そうな顔でアリーとフレッドが立っていた。


 可愛らしい菓子箱を抱えて、チェルシーが戻ってきた。

 差し出された箱を開けてみると、二つ折りの白いカードが六枚入っていた。

 驚くべきことに、六枚の内容は、ほぼ同じだった。


「ジェルヴェーズ 誕生日おめでとう 去年(ここの部分は、毎年変わっている)の誕生日には、そなたに腹を立て乱暴な物言いをしてしまった 心から悔やんでいる どうかわたしを許して欲しい ウォルト」


 お母様が言っていたよりも、ずいぶん素っ気ない文面だわね。

 どれも同じきれいな筆跡だわ。わたしの名前の綴りも間違えていないし……。

 たぶん、ウォルト様付きの侍従が、あるじに代わって書いたものだろう。

 最後の署名だけは、本人がしていたのかもしれない。少し字が汚いから――。


 だけど、問題はそこじゃあないのよね!

 わたしはカードを箱に戻し、それをテーブルの上に置いた。


「このカードを見る限り、確かにウォルト様は、自分の暴言を悔やんでいるように思えるわ。でも、全然わたしに謝ってはいない。あんなにひどいことを言ったのに――。 むしろ、わたしの方が、先にウォルト様を怒らせるようなことを言ったから、ウォルト様もつい余計なことを言ってしまった――、つまり、わたしが悪いみたいな書き方をしているわよね? 六通とも全部おんなじ……。

チェルシーが言うとおり、こんなカードを読んでも腹立たしく悲しいだけだわ。今まで見せないでおいてくれてありがとう、チェルシー! あなたの判断は間違っていなかった。カードはわたしが預かり、折を見て始末します」

「お、お嬢様?! あ、あの、わたしのご処分は……」

「処分? 正しいことをした家臣を罰したりしません。三人とも、これからもわたしのために、しっかり働いてちょうだいね!」

「お嬢……、様ぁぁ……」


 感謝で涙ぐむ三人をそれぞれの仕事に戻し、わたしは一人居間に残った。

 ぐったりとソファに寝そべりかけたところで、ポケットがもぞもぞと動いてライナルト王子が這い出てきた。

 うわっ、すっかり忘れていたわ! よかった! おしりで踏みつぶさなくて――。


「やはり、ウォルト王子は、そなたが思っているほど悪辣な人物ではないみたいだな。自分の暴言を反省した上、ドールハウスの価値についても詳しく学んだようだ。そなたの言葉が、きちんと伝わったということだろう?

王子にもプライドがある。謝罪の言葉がないことには目をつぶって、暴言の件は、意地を張らずにそろそろ許してやってもいいのではないか?」


 そう言うと、ライナルト王子は、わたしがテーブルの上に置いたクッションによじ登り、わたしと向かい合うように座った。

 まあ、わたしも八歳だったとはいえ、少し言い過ぎたかなとは思う。

 完全にウォルト様を見下して、自分の家のドールハウスを自慢しちゃったし……。


「わかりました。その件は、機会を見てウォルト様とちゃんとお話することにします。でも、何か変ですよね?」

「何が変なのだ?」

「お父様の話によると、ウォルト様は少し前までは、わたし以外の方との縁談を検討されていたみたいです。七年前には、わたしを『未来の花嫁』にと考えたこともあったのかもしれませんが、その後は、王宮でお目にかかることがあっても、わたしを避けていたように思えます。

まあ、それはそうですよね。毎年カードと花束を届けても、御礼の手紙ではカードのことには触れなかったのですから――。わたしが、ずっと怒っているとわかっていたはずですもの。

それなのに、なぜ急に、わたしとの婚約を蒸し返そうと思われたのでしょうか? この二ヶ月くらいの間に、どうしてもわたしと婚約・結婚する必要が、ウォルト様に生じたということでしょうか?」


 王家がお金に困って、我が家の財産をあてにしている――なんてことはないわよね! そんなことになっていれば、お父様が全力でお助けしているはずだわ。

 ウォルト様が好まぬ縁談を押しつけられそうになって、断るために婚約者が必要になった――ありえないことだわ! 大陸一の大国・マイヤール大王国の王家が断れない相手なんていないもの。


 だったら、なぜだろう……。


「やはり、ウォルト王子は、そなたのことが気に入っていたのだろう。いろいろあって、二ヶ月ぐらい前に、ようやくそれに気づいたということではないか?

暴言を吐いたり、疎遠になったりしたことを後悔して、そなたの婿が決まってしまう前に、婚約を申し込もうと考えたのさ。そなたの同意を得るためには、名前ぐらい、きちんと言えるようにしておくべきだったとは思うが――」


 まったくそうよね! ウォルト様って、そういうところが粗忽なのよね!

 何年たっても変わらないところを見ると、この先もずっとこのままかもしれない。

 う~ん……、わたしとしては、ウォルト様との婚約は……、何があろうとないかなあ……。


「すみません、ライナルト様。エーベル王国の話を聞き出すつもりでお父様の所に行ったのに、そちらの話が何も探り出せなくて――」

「心配することはない。この小さな体にも、少しずつ慣れてきた。そなたのおかげで、今のところ快適に暮らせている。気がかりなことはあるが、今の自分にはどうにもできないことばかりだ」


 何か別の話題で、お父様とエーベル王国の話をする機会を作らなくては――。

 悠々と構えているように見えて、ライナルト王子だって、落ち着かない気持ちでいるに違いないのだわ。

 クリスタやハーマン先生やエグモント王子のことを、ずっと気にしているはずだもの。


 しかし、ほどなくわたしたちは、ウォルト様の真意やエーベル王国の状況を、意外な形で知ることになった。

 そのきっかけは、翌日わたしに伝えられた、ウォルト様からの王宮への召喚よびだしだった――。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 ようやく公爵邸を出て、お話が動き出します。よろしくお願いいたします。

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