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小癪な公爵令嬢は、ポケットの中に小さくて大きな秘密を隠している  作者: 有理守
第三章 魔法王国と大陸一の大王国と伝説の王国
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その二 王子の胸の内

「お父様、お母様、おはようございます!」

「おはよう、ジェルヴェーズ! すっかり元気になったようだね!」(はいはい!)

「おはよう、ジェルヴェーズ。朝食を部屋でとったと聞いて、心配していたのですよ。でも、顔色も悪くないし体調はよろしいようですね?」(うんうん!)

「おはようございます、お姉様! 宴はどんな感じだったのですか? ウォルト様がひっくり返るところをわたしも見てみたかったわ!」(こらこら!)

「おはようございます、ジェル姉様! 小鳥の雛はどこにいるのですか? わたしにも見せてくださいな!」(おやおや!)


 お父様とお母様しかいないと思っていたのに、居間には、二人の妹たちも集まっていた。

 ディアドリーは、十二歳。大人の世界に、興味や憧れを持ち始めるお年頃。

 ジャスティーナは、九歳。まだまだ幼いところがあり、可愛らしいものが大好き。

 二人の情報源は、どうやらチェルシーあたりのようね。

 チェルシーったら、余計なことをしゃべっていないといいのだけど――。


「ディア! 言っておきますけど、わたしがウォルト様を転ばせたわけではないの。ご自分でよろけて、お倒れになったのよ。それから、ジャスティ! 連れて行ってあげてもいいけど、ヘビに出会うかもしれないわ。覚悟しておいてね。

わたしは、お父様と少し大人のお話をしたいの。二人とも席を外してくれるかしら?」


 妹たちは顔を見合わせたあと、渋々と立ち上がった。

 挨拶をして部屋の外に出て行ったけれど、廊下で聞き耳をたてているかもしれない。もちろん、チェルシーと一緒に――。


「ジェルヴェーズ、大人のお話――とは、何だね?」

「わたくしも、一緒に聞いていてかまわないかしら?」


 お父様もお母様も、好奇心いっぱいの顔でわたしを見ていた。

 わたしは、「コホン」と一つ咳をして、優雅に椅子に腰を下ろした。

 ポケットの中のライナルト王子も、きっと緊張しながら聞き耳をたてているわよね。


「お父様、噂で聞いたのですが、わたくしが十五歳になったので、大陸中からたくさんの縁談が舞い込んでいるとか――。 ウォルト様以外にも、わたくしとの婚姻を望んでくださっている方はいらっしゃるのでしょうか? 例えば、どこかの国の王子様とかで――」


 いきなりエーベル王国のことを話題にするのも変だから、こんな感じで切り出すことにした。

 わたしと釣り合う年頃の王族や貴族の男性は、そんなにはいないはずだ。話しているうちに、エーベル王国の王子たちの名前も出てくることだろう。


「確かに、いくつか話はきているよ。しかし、ジェルヴェーズ……、おまえは……、その……、本気で、ウォルト様との婚約をご辞退したいと思っているのか?」

「恥ずかしがらなくてもいいのですよ。嬉しかったら嬉しいとお伝えして、素直にウォルト様のお申し出を受け入れたらいいのです。過去のいさかいを気にすることはありません。たぶんウォルト様は、ずっとあなたのことを思っていてくださったのですよ。お気持ちに応えて差し上げたら、きっと喜ばれると思います」


 へっ?! お母様、いま何て仰いました? ウォルト様がずっとわたしのことを思っていてくださった?

 いまだにわたしの名前をまともに言えない、あの「すっとこどっこい」がですか?


「ウォルト様は、悪いお方じゃありません。その証拠に、あなたのお誕生日には、毎年花束とカードを届けてくださって、七年前の過ちを繰り返し反省していらっしゃったじゃないですか。

あなたを喜ばせるつもりが、逆に不興をかってしまい、気恥ずかしさから思わず暴言を吐いたことを、ずっと後悔していらしたようです。あのあと、ドールハウス職人のことを学び、あなたに贈ろうとした品物の価値も知って、あの品は、グゥイルト王国へお返しになったそうですよ。代金は、彼の地でのドールハウスの振興のために寄贈されたと聞きました」

「誕生日祝いの花束は覚えていますが、カードなんかついてましたっけ?」

「ええ。あの……、ごめんなさいね、ジェルヴェーズ。実は、つい心配で、わたしは毎年カードに目を通していたの……。『あのときは、ひどいことを言ってしまった。どうか今年こそ許して欲しい』と、毎年書いてありましたよね」


 うーん……、おぼえていない……。というか、見たことがないわ、そんなカード!

 考えられるのは、わたしに花束を渡しに来るチェルシーが、毎年カードを勝手に始末して、わたしに渡さなかったのかもしれないってこと――かしら?


「反省されていたというのは本当でしょうか? いまだに、わたくしの名前を間違えておられるんですよ! その上、『小癪なヤツ』とか『おまえ』とかおっしゃって――。 ウォルト様は、今でも七年前のことを恨んでいて、ダンドロ公爵家を下落させるために、わたくしとの結婚を考えているようにしか思えませんわ!」


 わたしの言葉を聞き、お父様は、あごに手を当て「うーん」と唸った。


「まあ、確かに解せないところはある。二か月ぐらい前からかな? 突然、出仕するとウォルト様のお部屋に呼ばれて、ジェルヴェーズの様子を訊かれるようになった。

縁談はあるのかとか、思いを寄せている人物はいるのかとか――、おまえの身辺をいろいろと気にしておられるご様子だった。

ここ数年、ウォルト様には、ある国の姫君や上位貴族の令嬢との縁組みが噂されたこともあったので、なんで今さらジェルヴェーズのことを――と思ったものだ」


 二か月くらい前か――。何かあったのかしらね?

 反省していたのに、七年ぶりにまた、わたしを恨みたくなるようなできことが――。


「理由はわからないが、今のウォルト様は、なんとしてもおまえを婚約者にしたいとお考えのようだ。近いうちに、また王宮へ呼ばれることになるだろう。今のままでは、婚約のご辞退はかなり難しくなるかもしれない。だから、ほかの方からの縁談など、気にしている場合ではないのだよ」


 お母様までもが、真剣な顔でうなずいている。

 昨日の宴でかなり恥ずかしい思いをされたのに、ウォルト様は懲りずに、次の婚約宣言の機会を狙っているというの?

 これは、エーベル王国の様子を聞くどころではなくなってきたわね。

 ライナルト王子にお知恵を借りて、この先の作戦を立て直さなくては!


「お父様。わたくしは、立派な女公爵となり、お父様の後を継ぐことを目指しておりますの。ですから、ウォルト様と結婚するわけにはまいりません。お父様も、わたしの願いが叶うようにお力を貸してくださいませんか? もし、わたくしの婿として相応しい方がおられましたら、ぜひ、お知らせくださいませ!」

「ジェルヴェーズ……」


 わたしは、言葉を失った様子のお二人に挨拶をして、居間を出た。

 そりゃあ、娘が、王家の意思に背こうとしているのだから呆れるわよね!


 勢いよく扉を開けると、廊下には、妹たちとチェルシーがひっくり返っていた。

 いやいや、それだけじゃない! その後ろに、アリーやフレッドまで倒れている!

 わたしのことを気にかけてくれる妹たちや家臣のためにも、このダンドロ公爵家を、ウォルト様の好きなようにはさせませんからね! ふん!


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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