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小癪な公爵令嬢は、ポケットの中に小さくて大きな秘密を隠している  作者: 有理守
第一章 横暴王子と生意気令嬢と小っちゃな隠し球
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その一 婚約宣言

「ジュルヴェーヌよ! 喜ぶがよい! そ、そなたを、今このときより、わたしの婚約者にしてやる!」


 ウォルト様が、王宮の広間全体を震わすような大きな声で叫んだ。

 え? ジュルヴェーヌ? だれよ、それ? そんな人、ここにいたかしら?


 わたしは、こうべを上げ、きょろきょろと広間を見回した。

 周りにいらっしゃるのは、国王陛下、王妃様、宰相様、お父様、あとは、侍従と侍女が数名だけ――。みんな揃って困り顔。声も出さずにうつむいている……。


 最後に、両手を握りしめ目の前に立っている、我がマイヤール大王国唯一の王子・ウォルト様の顔を、少し首を傾げながら見てみた。

 ウォルト様は、自信満々に胸を反らし、薄ら笑いを浮かべてわたしを見つめていた。

 ま、まさか、ジュルヴェーヌって――、わ、わたしのことですかぁ?!


「ウォルト様、ジュルヴェーヌって、どなたでしょうか? あの、わたくしの名は、ジェルヴェーズです。 もしかして、わたくしの名前を言い間違えた……なんてことはありませんわよね? 婚約しようという相手の名前を間違えるなんて、たとえ王子でも許されることじゃありませんわ! 『そんなすっとこどっこいには、顔を洗って出直してきても断じて娘はやるもんか!』と、いつも温厚なお父様が、拳を振り上げるかもしれま――」

「う、うるさーい! く、口と頭が良く回る、こ、小癪な奴め! ジュルヴェーズだろうが、ジェルヴェーヌだろうがかまわん! と、とにかく、おまえはわたしと婚約するのだあ!」


 名前を間違えまくったあげく、「おまえ」呼ばわり……。

 誕生日だから、いい物をいただけるって聞いて、お父様と王宮へ来たのに……。

 いい物って、婚約ですか? それも、よりによってウォルト様との?

 大王国の唯一の王子だとしても、こんな人と婚約して幸せになれるわけがない!


 わたしは、おろおろしている大人たちに、優雅に腰を引いてご挨拶した後、王子に思い切りあかんべえをして広間を飛び出し、馬車に乗って屋敷へ帰った――。


 * * *


 その婚約騒動が、一か月前、わたしが十五歳の誕生日を迎えた日の話――。


 それ以来、わたしのいないところでは、「近い将来の聡明な王太子妃候補」「ちょっと遠い将来のたぶん聡明な王妃候補」「かなり遠い将来のもしかしたら聡明な国母候補」という、全然嬉しくない異名で、わたしは呼ばれているらしい。


 あんなに派手にあかんべえをしてやったのに、ウォルト様は諦めていないのよね……。


 どうしてかは、わかっている――。

 ウォルト様は、わたしと結婚することで、わたしの家、ダンドロ公爵家から全てを奪い取り、いつの日か、わたし共々没落させようと企んでいるのだ!


 ダンドロ公爵家は、このマイヤール大王国において、並ぶものなき名家である。

 めったに王女が誕生しなかった王家に代わり、ダンドロ公爵家は、次々と周りの国々の王家や上位貴族、そして、国内の有力貴族へ娘を嫁がせてきた。

 お父様によれば、大陸中の国々に我が家の親戚が散らばっているらしい……。

 わたしには妹が二人いるので、優良な親戚はこの先もまだまだ増える見込みだ。


 おまけに、ダンドロ公爵家の代々の当主は、みんな商売上手だった。

 細かいことは知らないけれど、いろいろな事業に投資して、誰一人として一度も損をしたことがない――と、以前お父様が自慢げに話していた。

 調子に乗って散財し、財産を減らすような愚かな人もいなかったのですって――。


 つまり、はっきり言って、人脈も資産も我が家は王家の上をいっているのだ。

 まあ、普通なら、王家に取って代わってやろうなんていう、面倒な野心を持つ人が現われてもおかしくなかったのだけど、お父様も含め、歴代の当主は全員穏健な常識人ぞろい。

 王家をひたすら陰から支え、マイヤール大王国の平和と発展に尽くしてきた。

 そして、王家も我が家に敬意を払い尊重してきた――、今までは、ね……。


 ウォルト様は、目の上のこぶである、我がダンドロ公爵家をこの世界から消し去りたいのだ。そして、マイヤール大王国を、誰にも遠慮することなく国王が好き勝手できる国に作り変えようとしているのよ! なんと傲慢な!


 この一か月間、わたしは「婚約者」として、いろいろな行事に呼ばれては、ウォルト様のお隣に座らされてきた。


 行事といっても、わたしは、社交界へのデビュー前だから、「今年最初に咲いた百合の花を見る会」とか「陛下の白馬が産んだ子馬を愛でる会」とか、そういうどうでもいい昼間の集まりばかりだったけど――。

 もちろん、わたしは、ウォルト様が言えなかった百合の種類を言い当てたり、ウォルト様よりも上手に子馬を撫でて懐かれたりして、毎回ウォルト様を悔しがらせてきた。


 お父様の話では、ウォルト様は、わたしの名前を正しく言えなかったので、まだ、正式には、婚約は成立したことになっていないらしい。

 もっともっと、「こんな奴との結婚絶対イヤイヤ感」を出して、何としても婚約の成立を阻止しなくては!


 だってね、先日、突然、「どのような理由があっても、王家の者との婚約・婚姻を解消することはできない」とかいうきまりが作られて、もし婚約したら、わたしかウォルト様が死ぬまで、二人は別れられないことになってしまったのよ。


「あーあ、やだやだ! ウォルト様はきっと、明後日のご自分の十八歳の誕生日の宴で、今度こそ、正しい名前を言って、わたしに婚約を迫るんだわ! わたしは、ダンドロ公爵家の跡継ぎだから、そういうやっかいごとに巻き込まれないはずだったのに~! ねぇ、誰かぁ、どうにかできないの~?!」


 わたしはそう叫ぶと、わたし専用の書斎に置かせた、わたし専用の最高に心地よい花柄の絹地のソファから、勢いよく立ち上がった。


「おわっ! な、なんだ?! ここは……、ふ、袋の中か?! ど、どこへ、わたしを運ぼうというのだ?! おい! エグモント! 返事をしろ!」


 えっ? 誰かの声がする……、とっても小さな声……。

 おかしいわね? この部屋には、わたししかいないはず……。

 一人で考えごとをするからって、侍女のチェルシーも下がらせたのに……。


 ん? ドレスのポケットの中で、何かがもぞもぞ動いている……。

 いつでも小さな雑記帳が持ち歩けるように、特別に付けさせた隠しポケットが、ぷっくり膨らんでひっきりなしに形を変えて――。


 やがて、ポケットの口から小さな指のようなものが見えて――。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

続きは、明日投稿する予定です。

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