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037作品目  作者: Nora_
3/10

03話

「やあやあ来たぞー」

「あれ、よく分かりましたね、私の教室が」

「うん、だって休み時間全部使うつもりで探していたから」


 そこまでして私に会いに来る意味は?


「あら、もしかしてその人が?」

「あー……いや、それは私の勘違いだったっぽい」


 それにその話題を彼女の前で出すと冷たい視線で貫かれそうだ。

 こうして一人で行動していることから実際はそんなに仲良くないのかなって邪推してしまう。


「この人は陽月汐梨先輩」

「初めましてだね後輩ちゃん」

「私は天童天寧です」


 あれ、そういえば今日、まだ崎谷さんが来ていない。

 こちらは本格的に付き合っているため、いつもなら「天寧ー」って近づいてくるところなのに。

 喧嘩でもしたのか……? 悪口でも呟いていたのがバレたか?


「汐梨……」

「綺月じゃないか、どうしたんだい?」


 山本先輩といる時は毎回演じる人だなあ。

 それって素の状態ではいたくないということなのだろうか。

 ……駄目だ、どうしたって悪い方向に考えてしまう。


「あ、いやどこ行くのかなって……付いて来ちゃった」

「だったら普通に言ってくれればいいだろう?」

「う、うん……今度からはちゃんと言う」

「やれやれ、綺月は本当に私のことが好きだねー」


 でもここで好きだと言ったらまたあの怖い顔、冷たい声。

 それを考えたら山本先輩が踏み込むことはできない。

 歩み寄ってくれるのを待つしかできないなんて、そんなのもどかしくて寂しいだろう。


「あ、この人が山本綺月先輩」

「よろしく」

「よろしくお願いします」


 あぁ、やっぱり天童さんと話している方が気が楽だ。


「えっと……木芽……さん」

「別に錦でいいですよ、陽月先輩だってそう呼んでいますし」


 その先輩は一人でノートと格闘していた崎谷さんに絡んでいるけど。


「じゃあ錦……って呼ばせてもらう」

「はい」


 うんまあ、陽月先輩が戻らないなら戻れないよなあ。

 それにいまだって他の女の子と楽しそうにしている。

 崎谷さんはコミュ力おばけだから対応力が高すぎて参考にならない。


「なにかあったの?」

「あー……私が校外学習の時に迷惑かけちゃって」


 山本先輩の方が微妙そうだから気になったんだろう、それかもしくは少しの異変にも気付ける有能な子なのかも分からない。


「そうなの? ふふ、そういえば帰りのバスでもあの子に嫌われていたわよね」

「うっ……そうだね」


 その子は窓際で今日も読書をしていた。

 とてもバスで大声を出したような子には見えない。

 教室で喋っているところは二年生になったばかりというのもあるけど見たことがない。

 なんのための校外学習兼遠足だったんだろう。

 いきなりドバンッと行事として設定されているのはそういうためでもあるのに。


「天寧、京菓はあなたの彼女なんだね」

「はい」

「女の子と付き合うってどんな感じ?」

「どんな感じと言われましても、京菓が好きだから告白したんです、参考になりませんよ」

「いいね、ラブラブで。そっかー、別に非現実的なことでもないのかー」


 陽月先輩はブツブツと呟きながら教室を出ていった。

 その後を慌てて山本先輩が追っていく。

 いまのって山本さんが選ばれる可能性が上がったわけでもないけど、微塵もないということはなくなったんじゃないだろうか。


「私、あの先輩苦手だわ」

「あ、天寧も? 私もちょっと苦手かも……」


 うん、彼女達の言いたいことは分かる。

 あの浮かべている笑みの下、一体どんなことを考えているんだろうなあ。




「天寧、京菓、一緒に帰ろうぞ!」

「別にいいですけど」

「私も天寧がいいなら」


 良かった、どうやら興味の対象はそちらに移動してくれたようだった。

 彼女達が出ていき少ししてから山本先輩がやって来た。

 出ていったことを説明すると慌てたように追おうとしたが、なぜかこっちを見て足を止める。


「錦の家ってどこら辺なの?」

「私の家ですか? 南側ですけど」


 大きくはないけど綺麗な家で気に入っている、一人で住む分にはあれでも十分すぎるくらいだ。


「追わなくていいんですか?」

「……まあ、いいかな」

「そうですか、それじゃあこれで」


 昇降口に移動して靴に履き替える。

 よく考えたら敢えて嫌われようとするまでもなく好かれないのは分かっていた、だから自分らしく生活していればいい、そのことに気づけたのはだいぶ大きい。


「暖かいね」

「あれ」

「一人じゃ寂しいし、いいでしょ?」

「別にいいですよ」


 あの二人と絡みだしたのが面倒くさい理由でなければいいが。

 追われる恋より追う恋がしたいってことなのかな。


「ね、この後って暇?」

「そうですね」

「なら喫茶店にでも行かない? ほら、この前のお詫び、奢るから」

「別にいいんですよ? でも、山本先輩がせっかく誘ってくれているのなら行かせてもらいます」

「うん、行こ」


 誘ってもらったら基本的に断らない、これが私なりの生き方。

 それで厚かましいと思われたらそれまでだけど、必ず断る人間よりはいいはずだ。


「私はアイスコーヒーにしようかな、錦はどうする?」

「それじゃあ同じのをお願いします」

「かしこまりました」


 数分してコーヒーが運ばれてきた。


「ありがとうございます、いただきます」

「うん」


 少しだけ飲むとその適度な甘みと冷たさで疲れが癒えた。

 こういうところはあまり来ないからなんか贅沢したような気分になる。


「今日の反応的に陽月先輩も有りなんじゃないですか」

「うーん、どうなんだろう、それに汐梨は女の子を見るといつも積極的に絡んでいくから」

「もどかしいでしょうがゆっくりやっていくしかないですね」


 いま興味を抱いているであろうあの二人は付き合っているんだから心配はない。

 問題なのは他の子と話をしている時だけど、そこでしゃしゃり出るとあの恐ろしい顔で見られる、と。

 できることは嫌がられない範囲で一緒にいることしかないだろうなあ。


「あの子達、付き合っているんだよね。いいなあ、好きだから告白したんだよ、なんて汐梨に言われたら舞い上がっちゃうけどな」

「あの、お世話になっておいて言うのもなんですけど、なんで追わなかったんですか?」

「言ったでしょ、お詫びだって」

「別にいまじゃなくてもいいじゃないですか」


 また弱気になって言っても無駄だからなんて考えたんじゃないだろうな? その逃げるための手段として利用されるのは嫌なんだけど。


「別に無理だと考えて他のことをして紛らわそうなんてしていないよ」

「その割には山本先輩、あの後教室に来た時も遠慮していましたよね。天童さんや崎谷さんと話をしている陽月先輩を見ているだけだった、それっておかしくないですか? 私の時みたいにしたら怒られるからって恐れる気持ちは分かります、でも、あの二人は付き合っているんですから――いえ、関係ないのに偉そうに言ってごめんなさい」


 そんなの分かっているよな、自分が使われたくないからって奢ってもらっておいて言うことじゃないな。

 別に積極的に嫌われたいというわけでもない、どうせなら無関係か仲良くってのが理想だろう。


「お金、やっぱり払います。えっと、あ、山本先輩の分もここに置いておきますので。失礼します」


 店外へと出て歩いていく。

 なんだろうな、山本先輩を見ているといちいち言いたくなる。

 変な遠慮すんな、でも踏み込みすぎるな、適度を保てって。

 そこを見極めなければ自分が羨んだ天童さんや崎谷さんのようにはなれない。


「陽月先輩がいないところでくらい愚痴でも言えばいいのに」


 なのにわざわざ遠回しなことしか言わないから嫌なんだ。

 どうせ使うならスッキリするまでやればいい。

 安心してくれていい、悪口を言われれば私だって言い返してあげるから。

 なんにもスッキリしない、それどころかモヤモヤが溜まっていく集まりなんかにはするなよっ。




「て、天童さん……」

「珍しいわね、そんな様子なの」

「小、小!」


 どうして人は唐突なのを好むのか。


「トイレなら出てすぐのところにあるじゃない」

「そうじゃなくてっ、小テストで困っているんです……助けてください!」


 抜き打ちで行われ無事、良くない点数を取ってしまった。

 放課後までに五種類のプリントを終わらせて提出しなければならないのに分からないのだ。

 いや、なにが分からないって小テストで躓いたから出されているのにこれが同等かそれ以上に難しいということ、あの名前も知らない担任は鬼畜である。


「いいわよ、でもちゃんとやりなさい、写すのは駄目」

「それは大丈夫、そんな卑怯なことはしたくないから」

「ええ、それならやりましょうか」


 いや待って、なにこのクール美人で頭がいい子。

 理解しやすいように言葉を選んでくれて、その上でいい匂いがしてきてついつい嗅いでしまう。


「いいなあ、崎谷さんが羨ましい」

「あー! だめだよ天寧を取ったらっ」

「ち、違うよ、私はただ教えてもらおうとしているだけ」


 ずっと引っかかていた問題も彼女が教えてくれただけでスラスラと解くことができた。

 自分が頭が良くなったわけではないのに、まるで最初から分かっていたみたいな錯覚すら覚える。


「ありがとっ、今度なにかお礼をするから!」

「だったら面倒くさいから天寧って呼びなさい。京菓のことも名前呼びで」

「え、そんなのでいいの? えと……け、京菓もいいの?」

「むぅ、まあ……天寧がいいって言うなら」

「じゃあそうさせてもらうね、本当にありがと!」


 これで放課後はさっさと帰れる! カレーを作っていっぱい食べるんだ!

 そう……思っていたのに、


「あの、なにかご用ですか?」


 現れたのは山本先輩。

 提出して帰ろうとした私の前に立ちふさがり、通せんぼをしてきた。

 偉そうに言ったのがやはり悪かったのだろうか。


「陽月先輩は今日も天寧達と出ていきましたけど」

「……別に悪さをしようってことじゃない」

「じゃあなんでですか?」


 だったらそんなに意地悪をしてこなくてもいいと思う。

 なにか思うところがあるのなら言葉でハッキリと、そうしないとなにを直せばいいのか分からなくて困ってしまうから。


「これ返す」

「お金……って、いいですよ」


 なんか奢るとか言っておいて後から返してもらう悪どい人間みたいじゃないか。

 学校、放課後の教室、ここでお金の受け取りが発生したりするとヤバいことをしているみたい。


「だってださいでしょ、お詫びするとか言っておいて結局出してもらっていたら」

「寧ろこれを受け取る方がださいですよ、これは失礼なことを言ってしまったお詫びということで」


 カレーを作って早く食べたいんだっ、小洒落た物を意識しない普通の市販のカレーがよ!

 ごはんだって張り切って三合もセットしてあるし、今日は全部食べるって決めているんだから!


「カレーが食べたいから帰りますっ、それではっ!」

「ちょっと待ってよっ」

「あーもうっ、話があるなら付いてきてください! 私はカレーを作りたいんです!」

「わ、分かったっ」


 ところ変わって私の家。


「え、ひ、一人暮らしだったの?」

「はい、そうですよ」


 玉ねぎと人参とじゃがいもとなによりお肉! 具材を炒めていると山本先輩がこっちまでやって来た。


「手伝おうか?」

「いえ、それでなんのためにここまで来たんですか?」

「えぇ!? に、錦が話があるなら付いてこいって……」

「なら早く言ってください」


 絶妙なところを狙ってお肉を投入、ジュージューといい音といい匂いがこの狭い空間に広がる。


「あー……いざ来てみると特にないかな……」

「じゃあ帰ってください、私は一人で食べるのが好きですから」


 食事は自己完結式でなければならない。

 食べたいものを自分で作って感謝して食べてしっかり後片付けも済ます。

 そこに誰かの温もりは必要ない、別にそれは食事時じゃなくてもいいからだ。


「分かった……帰るよ」

「ああもう……山本先輩、私といたいなら守ってもらいたいことがあります」

「べ、別にそこまで錦といたいわけでは……」

「分かっていますよそんなことは! まず一つめ、私を利用するならもっと分かりやすくしてください」


 目は絶対に具材から離さない、まあでもそろそろ問題ないので水を投入。


「錦を利用なんてしてないけど」

「私といる時は遠慮しないでください、不満でもなんでも聞かせてくれればいいですから。でも、いまのままを貫くということならもう来ないでください」

「えっと……要は、聞いてくれるってこと? 汐梨と上手くいかないこととかそういうことの不安を?」

「そうですよ、だけどいまのなんで来ているのかも分からない状態は気持ちが悪いんです、利用するつもりでいいですから分かりやすくお願いします。はい、ではどうぞ」


 もう後は沸騰したらルーを入れるだけだから意識が甘くても問題ない。

 いまからならいくらでも聞いてあげられる――なのに彼女は「えっ!? 急に言われても……」と陽月先輩に積極的になれていない時みたいになっていた。


「ないなら帰ってください」

「カレーを……食べたい」

「はぁ……それなら最初から言ってください」


 ここは狭いから向こうで待っていてもらう。

 ごはんももう炊けているから後はこのルーを溶かせば!


「完成っと」


 お皿にごはんを盛ってルーをかけて、向こうへ運ぶ。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 ぐっ……私の至福の時間に邪魔が入った……。

 だが、冷めてしまったらもったいない、だからここは一切気にせず。


「いただきます!」

「いただきます」


 そう、食べなければ失礼というものだろう。

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