４３日目 ゾエベル（２）
「あ、おーい、ビビアさーん」
名前を呼ぶ声に振り向けば、猫背な山羊男ことゾエベル君がゆらゆらと手を振っていた。彼はへらりと笑いながらこちらへ近付いてくる。
「生で会うのは久々っすねー」
「ゾエ君、久しぶりー。いつも妹がお世話になってます」
「こっちこそいつも俺がお世話になってます。あ、そうだ！ 一昨日シエルシャンタ様のイベントに進展があったんですよ！」
おー、おめでとー。
ってことは、シャンタちゃん狙いでもイベントは進行するってことだったんだね。よかったよかった。
「しかも！」
興奮した様子のゾエ君は、そこで口元に手をやって声を潜める。
「なんと【星の結晶】をプレゼントしてくれたんです……！ ビビアさんこれ、シエル様狙いでも同じでした……？」
「あ、うん、同じ同じ。あとね、デートイベのとき服プレゼントしたときにも、彼女星の結晶くれたよ」
「まじっすかあ！？」
ゾエ氏が大仰に驚いてみせたもので、周りの視線がこちらに集まった。彼もそれに気付いたらしく、「ビビアさん、セミアクティブにしましょう」と提案される。
「うわー、うわー、俺、超テンション上がってきました。まあデートイベの服プレゼントはそもそもやれる人間が限られてくるんでワンチャン他のキャラでも有り得ますけど、今のところそんな情報上がってきてないし……。これ、シエシャン下剋上における神の一手っすね！ もうバグキャラだとか無能パトロンとは呼ばせませんよ！ それどころか、見方によっちゃリルをも凌ぐ有能パトロンと言っても過言ではないはず！ ああでもそうすると下手なファンが多くなりそうなのが悩ましいところ。ビビアさんはその辺、どう思います！？」
え？ え？ そんな鼻息荒く迫られても、話に付いて行けないんですけど。
えっと、つまり、何だろ。星の結晶ってそんな、キャラクターの評価が引っ繰り返るくらい重要なアイテムだってこと？
「そりゃそうですよ！ スキルの種類によっては、それがあるかないかでもはや別ゲー、世界が変わりますからね。それが一人のキャラクターと付き合うだけで、少なくとも好きなジョブスキル一個、ハイスキルなら二分の一個って、革命的ですよ。星の結晶は疎か【霧の結晶】だって、今までコミュニケートミッションで取得できた例は全くないんですから」
「そ、そうだったんだ……。そんなに大事なものだったんだね。ごめんごめん、私まだこのゲーム始めて一か月ちょいなもんで、全然知らなかったよ」
するとぴた、とゾエ君の動きが止まった。急に真顔に戻って、「一か月……？」と鸚鵡返しに呟く。
私は苦笑を浮かべた。
「うん、なんかある面では結構上手くいってるみたいで時々玄人ぶってるふうに見られるんだけど、実はそうなんだあ。だからね、このゲームがPKっぽいのがあることとか、プレイヤーどうしで妨害し合って競ってることとかも、丁度昨日知ったところなの。ゾエ君なんかは勿論知ってたんでしょ？」
「え、いや、まあ、はい、そんなような、そうでもないような……」
どういうわけかごにょごにょと歯切れが悪いゾエ氏。
あ、もしかして君自身、その手のプレイヤーだったとか？ いや、全然気にしなくていいんだよ。この世界ではそういう遊び方もアリみたいだし、その辺は個人の自由だと思ってるし。
「でもさすがに昨日ミナシゴさんから真実を聞かされたときには、ショック受けたなー。私ったら完全にゆるーい生産コミュゲーだと思ってたからさあ。一瞬引退も頭を過ぎったよ。私鈍臭いから、付いて行けなさそ～って」
「え゛」
けど、そういう前提のもと改めて落ち着いてこのゲーム世界を観察してたらさ、結構皆しれっとしてるんだね。
なんか勇気付けられたよ。私もあんなふうに逞しく図太く生きてかなきゃならんなーと……って、あれ、ねえ、ゾエ氏聞いてる？
折角私がちょっといいこと言っているというのに、肝心の彼といったら顔を青くして明後日の方角を向いている。
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【きまくらゆーとぴあ。トークルーム（公式）・大工について語る部屋】
[新シ]
濁った幻石のブロック使えば？
[ライア]
うあ～～きまくら。でもっと自由に建築やりてえ
町レベルの土地買い取りてえ
[おっとっと]
月何十万になるかな
[ツイスター]
こぐに行け定期
[こん]
グラフィックのレベルと資材の種類がダンチなのよね
[YTYT]
どうせ壊されたり改造されたりするのが分かっているにも拘わらず黙々とNPCの家建ててるミラン
凄いを通り越して精神疑う
[ミラン]
>>YTYT
最初にスクショと動画撮って満足してる
言うて俺はおまえほど建築に命賭けてないんで
[えび小町]
わたさんの作品はNPCには勿体無すぎるよなあ
[新シ]
まあプレイヤーにも驚くほどあっさり壊したり改築したりする人はいるけどな
[YTYT]
そこら辺はしゃあないよ
お代貰ってる以上その後の取り扱いにケチ付けるわけにゃいかん
うわー…とはなるが
[ねじコ+]
マケプレクリエイターやればいいのに
[YTYT]
その代わり客は選んでる
ある意味きまくら。の晒し体質に助けられてる
[こん]
えーきまくら。ユーザーの意見なんて当てにしたら終わりなとこあるけどなあ
[JeanJacques]
新たなホームの立地に悩む
自分家具屋に結構力入れてるからそこそこ客足見込めるところに建てたいんだけど、レスティンでいいとこないかな
[きき さかもと]
不動産屋張り込むしかないでしょ
三都はもうキリしかないよ
[おっとっと]
今後売れそうなプレイヤー見つけて近くに陣取るとか
極楽通りとかビャクヤの裏町とか、個人もしくはクランの力で発展してった前例もあるわけだし
[おろろ曹長]
現実的ではない
[チョレギ]
否定意見あるの承知の上で言うと、今話題のBさん付近、あると思います
[ミラン]
あーね？
見に行ってみたけど確かにあっこら辺、空き多いのな
[YTYT]
なんで空きが多いのかよく考えることだな
ヒント：Bショップ向かいの邸宅
[JeanJacques]
ゾエニキの別荘だよーーーーーんｗｗｗｗ
はあ
[ツイスター]
心理的瑕疵物件ってやつだな
[Peet]
んーヨシヲやらストーカーやらだったら考えものだけどゾエ程度だったらまあ
ただいずれにせよ>>おろろ曹長の言う通り現実的ではないよね
そこそこ売れてきたらもっと明るいところに引っ越すのが生産プレイヤーの定石なわけだし
様子見たほうがよさそう
[こたろう]
普通にあの人の商売の仕方本気で売りにいってるかんじしないし、地区発展の力まではないんじゃないか
そも前例はなくはないとはいえ極少数なわけで、特定のプレイヤーを考慮に入れて土地選ぶのはお勧めできんね
