377日目 羊飼いの杖(2)
ログイン377日目
「ひいーっ、つらたん! これで今日はフルパ集まったからまだましなほうなわけでしょ。この先クマトラ捌ける自信がないよおーーっ」
「私昨日ももも金メンバーと来てるんだけど、昨日よりも手強くなってる気が……」
「相手をダウンさせずとも経験値が積めるきまくら。のイージー仕様が、まさかこんなところで仇になるなんて……」
「遠征ガチ勢も多く来てますもんね……。レベル上げの良い餌になってるんでしょう」
本日秘境拠点の廃屋にやってくると、丁度地下へ続く階段から、四人のプレイヤーが上がってくるところだった。
虎っ娘さんに熊っ娘さんに鳥っ娘さん、そしてショートカットのプレーンっ娘さん。陰キャさんにくまたんさんにめめこさんにきーちゃんだ。
彼等は『クマトラ』とかいうどっかのボス幻獣か何かの話で盛り上がっているようだ。
しかし私の姿を認めるとぴた、と会話を止めた。そして取り繕うかのように笑顔を浮かべる。
「あっ、ぶ、ブティックさん。乙でーす」
「私達、今丁度ネビュラガチャ回してきたところで」
「今日は豊作で、4人全員キャンディ入手できたんだよ」
「ほんといつも利用させてもらっちゃって感謝ですー」
彼等は『ネビュラガチャ』――――即ち1日1回挑戦できる【ネビュラキャンディ】の採取を終えてきたところのようだ。
フレンドの入場を開放してから、この拠点はぽちぽち人が出入りするようになった。そして1週間経った今、こうして私自身プレイヤー達と鉢合わせることもたびたび生じている。
幸い今のところはまだ外に情報が漏れている様子はなく、問題も起きていない。
絶海のほうのネビュラツリーは例によって治安が悪いらしい。だからここで穏便にキャンディ採取が行えることを、みんな喜んでいるようだ。
結構結構。特殊な土地を占有していることへの負い目も薄れることだし、大変よろしくてよ。
それにしても、陰キャさんにくまたんさんにめめこさんにきーちゃん、かあ。
なんだか不思議な組み合わせ。そこ仲良かったんだね。
陰キャさんとくまさんもいつの間にか仲直りできたんだ。
と、何気ない感想をこぼすと、四人は何とも言えない顔で互いに目配せし合った。
「いや、まあ、そうですね。人生って不思議なもんですね」
同意されてしまった。彼等は再び苦笑いを浮かべるものの、先ほどの笑みとはまた違う意味がある気がした。
しかし唐突に地下から聞こえてきた咆哮が、気まずい空気を払拭する。
「も゛おおおおっっ」
声と共に、どすどすという足音も近付いてきた。
ユキちゃんだ。私の気配に勘付いて、急いでお出迎えに来てくれたらしい。
「あ! じ、じゃあ、私達はこれで!」
「これからユキちゃんともふもふタイムだもんね」
「お邪魔しましたあ!」
ユキちゃんの声を聞くや否や、陰キャさん達は慌てた様子で去って行く。気を利かせてくれたらしい。
うーん、他の人の前ではユキちゃんへのデレデレメロメロモードは慎んでたんだけど、どこかで見られていたんだろうか。ちょっと恥ずかしいな。
でも、彼等がいなくなったのと同時にもっふーんと突撃してきたユキちゃんを前にしては、気持ちを切り替えざるを得ない。
恥じらいなんぞは砂塵と共に大砂海の風に乗せて飛ばしてしまえ。ユキちゃーん、ただいまあー!
そうして気が済むまでユキちゃんとじゃれた後は、ユキちゃんの健康チェックに移行する。
ここのところ野生の幻獣達が活発らしく、私が留守にしてると結構[耐久]が減ってるんだ。[衰弱]状態になってることも直近で3回あったし、他の様々な状態異常にかかることも増えている。
多分侵入者を追い払うために孤軍奮闘しているんだと思われる。
幻獣の侵入は柵や壁を立てて防ぐこともできるそう。でも凶暴ユキちゃんはすぐ壊しちゃうから、その手は使えないのが悩みどころだ。
今日のユキちゃんも耐久は半分ほどに減っていた。ステータス情報を確認する私は、しかし別のことにも気付く。
――――――またレベルアップしてる……。しかも一気に5レベルも……。
そう、最近ユキちゃんの成長速度が凄いのだ。
昨日見たときはレベル41だったのが、今じゃもうレベル46。前は一日跨いだくらいじゃ1レベルアップしてるかどうかも怪しいくらいの時期もあったのに、これって変だよね。
何せ、レベルが上がっていくにつれ次のレベルアップまでに必要な経験値も増えていくっていうのは、きまくら。も他の標準的なゲームと同じである。一体全体、近頃のユキちゃんはどこでこの膨大な経験を積んでいるのだろうか。
お陰で未だ稀に繰り出される凶暴攻撃が、結構洒落にならなくなってきた。クリティカルなんてものに当たった日には、自拠点内で死に戻りすることもたびたびといった体たらくである。
このまま順調に[絆]を上げていけば、主人に攻撃することはなくなるらしい。しかしプレイヤー含め主人以外の存在への攻撃は、[行儀]が上がらない限り止むことはないと言う。
因みに現在のユキちゃんの[行儀]ゲージは[1/100]です。
絶望的! ……まあ私じゃ上げられないのは知ってたけど。
もっとも別にね、私は凶暴ユキちゃんでも十分愛せますよ。ユキちゃんには、たまに直撃する凶暴パンチによるダメージを補って余りある可愛さがある!
……でも攻撃がなくなるんであれば、それに越したことはないんだよね。
だって凶暴さがなくなれば、一緒にお出かけできたりもするわけじゃない? PC、NPCに拘わらず誰かとパーティを組んで遠征に行くことができるし、他の幻獣ともお友達になれるかもしれない。
ユキちゃんにとっても私にとっても、素晴らしいことに違いないのだ。
ということで、どうにかこうにか行儀なり性格なりを矯正する方法はないのかと調べてみた結果。
なんと、あったのだ! それも私にとっては灯台下暗しなお手軽な方法――――【羊飼いの杖】を使った性格変更が可能だったのだ……!








