362日目 一心同体(4)
「あ、そうだ。折角だしブティックさん、フレになろうよ」
「え……」
「イーフィじゃ君の友達にはなれんけど、久瀬だったら無問題だから」
「はあ」
私は別にイーフィさんとフレになってもモーマンタイですけど? そう口を尖らせるも、久瀬さんには笑顔で「いやいや無理無理」と即行流されてしまった。
くっ、なんだろうこの複雑な気持ち。なんで私は私に冷たく当たってきたにっくきイーフィさんとお友達になっているのだろう。
いや、本人は別人であることを主張しているが、私にとっては同一人物なんだよ。イーフィさんとは敵対関係にあって犬猿の仲で、久瀬さんとはフレンドでユキちゃんとチケットを取引した仲で、でも二人の中の人は一緒でって、もう気持ちも頭も追い付かない。
おまけに、ロールプレーアカウントであるイーフィさんはメタ発言なんかはしないんだろうけど、素プレーアカウントの久瀬さんはイーフィが自分であることも認めた言動してるからさ。
「悪かったね。問答無用で牢獄送りにしちゃったり、幻獣触りに来た君を拒絶しちゃったり。でもあの男はそういう頭の固い真面目な奴なんでね。許してくれとは言わんさ。何なら君も、イーフィに真っ向から反目する敵役として動いてくれていい。受けて立とう。でもその分、こっちでは平和にやろうや。ああ俺、幻獣選手権に参加するためにこのキャラ作ったから、こっちでも獣使いなんだ。こっちの俺だったら、全然眷属獣とかも触らせてあげるよ。気兼ねなく声かけてくれ」
こんなこと言われるもので、大変調子が狂う。そしてイーフィさんのガワだろうと久瀬さんのガワだろうと、私が“悪役”っていう認識はなぜか同じというね。
だからなんか、握手を求められているのに素直に手を差し出せない感覚がある。
イーフィ久瀬さんに対する今の感情の比率で言ったら、プラスポイント48%マイナスポイント52%ってところ。
ぎりぎりのせめぎ合い、でも僅かにマイナスが競り勝ってる状況なのだった。悶々。
こうしたやり取りを経て、私は帰途に就いた。
もっともホームが近付くにつれそんな葛藤などくだらなく思えるほどに、私の心は明るくなっていった。なぜってなぜって、我が家にはお留守番中のユキちゃんがいるからだ。
楽しいライブイベント、のち、楽しいユキちゃんとのもふもふ触れ合いタイム。この幸せとわくわくに目を向けるならば、間に挟まる久瀬ーフィ氏に対するもやもやなど些末なことである。
私はホームに着くや否やすぐさま中庭に出て、満面の笑みで呼びかけた。
「ユキちゃーん! ただい、まー……」
そうして、台風でも直撃したのかと見紛うほどに荒れ果てた庭の惨状を見て、愕然とするのだった。
******
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(個人用)】
[3745]
みーつーけーたー!
[3745]
見つけた見つけた見つけたー!
[久瀬大樹]
くそっ、早いな
[3745]
いっひっひっひっひ、私を誰だと思ってんのさ
だんちょファンクラブ会員1号、3745ですぜえ
[久瀬大樹]
言っておくが俺は正義の味方イーフィとは無縁だからな
他の有象無象と何ら変わらんいちきまくら。プレイヤーだからな
[3745]
オッケーオッケーノンプロブレム
なぜって私は団長じゃなくだんちょの追っかけなわけですからね♪
[久瀬大樹]
しっかし結構ばれるもんなのな
普通にしてるつもりなんだが、イーフィ臭付いてんのかな
[3745]
まあ私は当たりつけてたし
白ベアの件から辿って考えれば、だんちょは間違いなくライブイベントに来るわけでしょ
だからその参加者から炙ってけば全然簡単
[久瀬大樹]
なるほど確かに……
え、ってことは俺のこと、他の団員にもばれてる?
[3745]
あははっ、それはさすがに自意識過剰だよ~w
私じゃあるまいし、みんなそこまでだんちょに興味ないからw
[久瀬大樹]
ほっ
まあそうだよな、ならよし
[3745]
ああでも、なかもと君は気にしてるみたいね
うちの白ベアがBさんの手に渡ったことを知って、
「こんなの不正ですよ! 癒着ですよ! 正義の代表たる団長が、こんなことに加担して良いはずがない!」
ってぎゃあぎゃあ騒いでたよw
[久瀬大樹]
おい~~
一番面倒なのに目え付けられてんじゃねえか~~
[3745]
だいじょぶだいじょぶ
「白ベアを譲った知り合い」がだんちょの別垢だってことに、彼まだ気付いてないからw
ストレートにブティックさんのことだと思ってるみたいよ
だからこのキャラのことはまだ彼にはばれてない
[久瀬大樹]
あいつがバカで良かったよ
[3745]
あの性格でおバカじゃなきゃ、だんちょ騎士団に入れてないもんねw
詰めの甘さは彼の美徳だねw
[3745]
でも何にせよ追及は避けられないと思うけどw
勘違いだとしても、なかもと君はだんちょがBさんにベアを献上したって思い込んでるからね
[久瀬大樹]
知らんな
イーフィは騎士団内で誰も引き取り手がおらず持て余していたユニークベアを、知り合いに譲った
その知り合いがその後ベアを誰に譲ろうと、与り知らぬところだ
団長のプライベートな事情を部下に説明する義務もない
そもそもB嬢の飼っているベアが騎士団にいたベアと同じなのかどうか、確かなところは誰にも分からない
これで押し通す
[3745]
苦しいなーw
[久瀬大樹]
苦しい言い訳を「そういう設定」だからでゴリ押せるのもロールプレーの強みだ
[3745]
草
だんちょがこんなこと言ってるの、聞きたくない人いっぱいいるだろうねw
[久瀬大樹]
だからこの垢作ったまである
[3745]
すっかり伸び伸び楽しんじゃって
ブティックさんとも早速和やかに接しちゃってるし
[3745]
あ、いっそのことさ、こっちは悪役ロール用にしてみたら?
団長はBさんの天敵、久瀬っちはBさんの配下とかw
私も協力するよ
[久瀬大樹]
ややこ
それ採用するとしたらおまえも別アバター必要だぞ
[3745]
いやいや
その場合私はどっちかのスパイってことにするから
[久瀬大樹]
久瀬は兎も角イーフィの立ち回りむず過ぎだろ
相当設定詰めにゃならん
[久瀬大樹]
まあ悪くない案ではあるが……
[久瀬大樹]
しばらくはゆるーく、きまくら。やるかな
[3745]
そだねー
いつもお疲れ、だんちょ