表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
429/473

362日目 一心同体(4)

「あ、そうだ。折角だしブティックさん、フレになろうよ」

「え……」

「イーフィじゃ君の友達にはなれんけど、久瀬(くぜ)だったら無問題(モーマンタイ)だから」

「はあ」


 私は別にイーフィさんとフレになってもモーマンタイですけど? そう口を尖らせるも、久瀬さんには笑顔で「いやいや無理無理」と即行流されてしまった。


 くっ、なんだろうこの複雑な気持ち。なんで私は私に冷たく当たってきたにっくきイーフィさんとお友達になっているのだろう。

 いや、本人は別人であることを主張しているが、私にとっては同一人物なんだよ。イーフィさんとは敵対関係にあって犬猿の仲で、久瀬さんとはフレンドでユキちゃんとチケットを取引した仲で、でも二人の中の人は一緒でって、もう気持ちも頭も追い付かない。


 おまけに、ロールプレーアカウントであるイーフィさんはメタ発言なんかはしないんだろうけど、素プレーアカウントの久瀬さんはイーフィが自分であることも認めた言動してるからさ。


「悪かったね。問答無用で牢獄送りにしちゃったり、幻獣触りに来た君を拒絶しちゃったり。でもあの男はそういう頭の固い真面目な奴なんでね。許してくれとは言わんさ。何なら君も、イーフィに真っ向から反目する敵役として動いてくれていい。受けて立とう。でもその分、こっち(・・・)では平和にやろうや。ああ俺、幻獣選手権に参加するためにこのキャラ作ったから、こっちでも獣使いなんだ。こっちの俺だったら、全然眷属獣とかも触らせてあげるよ。気兼ねなく声かけてくれ」


 こんなこと言われるもので、大変調子が狂う。そしてイーフィさんのガワだろうと久瀬さんのガワだろうと、私が“悪役”っていう認識はなぜか同じというね。

 だからなんか、握手を求められているのに素直に手を差し出せない感覚がある。

 イーフィ久瀬さんに対する今の感情の比率で言ったら、プラスポイント48%マイナスポイント52%ってところ。

 ぎりぎりのせめぎ合い、でも僅かにマイナスが競り勝ってる状況なのだった。悶々。


 こうしたやり取りを経て、私は帰途に就いた。

 もっともホームが近付くにつれそんな葛藤などくだらなく思えるほどに、私の心は明るくなっていった。なぜってなぜって、我が家にはお留守番中のユキちゃんがいるからだ。

 楽しいライブイベント、のち、楽しいユキちゃんとのもふもふ触れ合いタイム。この幸せとわくわくに目を向けるならば、間に挟まる久瀬ーフィ氏に対するもやもやなど些末なことである。


 私はホームに着くや否やすぐさま中庭に出て、満面の笑みで呼びかけた。


「ユキちゃーん! ただい、まー……」


 そうして、台風でも直撃したのかと見紛うほどに荒れ果てた庭の惨状を見て、愕然とするのだった。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(個人用)】



[3745]

みーつーけーたー!


[3745]

見つけた見つけた見つけたー!


[久瀬大樹]

くそっ、早いな


[3745]

いっひっひっひっひ、私を誰だと思ってんのさ

だんちょファンクラブ会員1号、3745ですぜえ


[久瀬大樹]

言っておくが俺は正義の味方イーフィとは無縁だからな

他の有象無象と何ら変わらんいちきまくら。プレイヤーだからな


[3745]

オッケーオッケーノンプロブレム

なぜって私は団長じゃなくだんちょの追っかけなわけですからね♪


[久瀬大樹]

しっかし結構ばれるもんなのな

普通にしてるつもりなんだが、イーフィ臭付いてんのかな


[3745]

まあ私は当たりつけてたし

白ベアの件から辿って考えれば、だんちょは間違いなくライブイベントに来るわけでしょ

だからその参加者から炙ってけば全然簡単


[久瀬大樹]

なるほど確かに……

え、ってことは俺のこと、他の団員にもばれてる?


[3745]

あははっ、それはさすがに自意識過剰だよ~w

私じゃあるまいし、みんなそこまでだんちょに興味ないからw


[久瀬大樹]

ほっ

まあそうだよな、ならよし


[3745]

ああでも、なかもと君は気にしてるみたいね

うちの白ベアがBさんの手に渡ったことを知って、

「こんなの不正ですよ! 癒着ですよ! 正義の代表たる団長が、こんなことに加担して良いはずがない!」

ってぎゃあぎゃあ騒いでたよw


[久瀬大樹]

おい~~

一番面倒なのに目え付けられてんじゃねえか~~


[3745]

だいじょぶだいじょぶ

「白ベアを譲った知り合い」がだんちょの別垢だってことに、彼まだ気付いてないからw

ストレートにブティックさんのことだと思ってるみたいよ

だからこのキャラのことはまだ彼にはばれてない


[久瀬大樹]

あいつがバカで良かったよ


[3745]

あの性格でおバカじゃなきゃ、だんちょ騎士団に入れてないもんねw

詰めの甘さは彼の美徳だねw


[3745]

でも何にせよ追及は避けられないと思うけどw

勘違いだとしても、なかもと君はだんちょがBさんにベアを献上したって思い込んでるからね


[久瀬大樹]

知らんな

イーフィは騎士団内で誰も引き取り手がおらず持て余していたユニークベアを、知り合いに譲った

その知り合いがその後ベアを誰に譲ろうと、与り知らぬところだ

団長のプライベートな事情を部下に説明する義務もない

そもそもB嬢の飼っているベアが騎士団にいたベアと同じなのかどうか、確かなところは誰にも分からない

これで押し通す


[3745]

苦しいなーw


[久瀬大樹]

苦しい言い訳を「そういう設定」だからでゴリ押せるのもロールプレーの強みだ


[3745]

だんちょがこんなこと言ってるの、聞きたくない人いっぱいいるだろうねw


[久瀬大樹]

だからこの垢作ったまである


[3745]

すっかり伸び伸び楽しんじゃって

ブティックさんとも早速和やかに接しちゃってるし


[3745]

あ、いっそのことさ、こっちは悪役ロール用にしてみたら?

団長はBさんの天敵、久瀬っちはBさんの配下とかw

私も協力するよ


[久瀬大樹]

ややこ

それ採用するとしたらおまえも別アバター必要だぞ


[3745]

いやいや

その場合私はどっちかのスパイってことにするから


[久瀬大樹]

久瀬は兎も角イーフィの立ち回りむず過ぎだろ

相当設定詰めにゃならん


[久瀬大樹]

まあ悪くない案ではあるが……


[久瀬大樹]

しばらくはゆるーく、きまくら。やるかな


[3745]

そだねー

いつもお疲れ、だんちょ




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仕立屋コミックス&書籍発売中(^ω^)
9wjng0gw7g1fbkp61ytqbgewajkh_zl9_71_a1_1byr.jpg9wjng0gw7g1fbkp61ytqbgewajkh_zl9_71_a1_1byr.jpg9wjng0gw7g1fbkp61ytqbgewajkh_zl9_71_a1_1byr.jpghtml>
― 新着の感想 ―
[良い点] 久瀬ーフィ呼び笑いましたー!
[一言] お祭りとかイベント終わりの、すっごいいい終わった感がする 今回の一連のお話も、読んでてすごく楽しかったし、すごく気持ちが良かったし、いろんな人の魅力的な面が見られて好きな人も増えたし すっ…
[一言] だんちょガチ勢、3745こわッ(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ