362日目 一心同体(2)
と、二人から称賛を浴びせられ気持ち良くなってるところで、こんな会話の選択肢が現れる。
→・喜んでもらえて何よりだよ。これからも[ブティックびびあ]をよろしくね!
・実は今回、ルイーセの希望より自分の感覚を優先させてみたんだ。でも上手くいったみたいで良かったよ。
・実は今回、アーベンツの意見を取り入れてみたんだ。上手くいったみたいで良かったよ。
すっかり失念していたけれど、そういえばいたねえ、アーベンツとかいう陰の立役者君。因みに彼は今回のライブにもしっかり参加していたよ。
彼の提言が衣装の製作に影響を与えたのは確かなわけだし、その功績を称えてここは名前を出しておきましょうかね。そう思って三つ目の台詞を選んだのだが、目の前の二人はそれぞれ違った反応を示した。
「アーベンツが? ……ふーん、へー、あっそお。あの若造がねえ……」
「あ、アーベンツ君がですかっ? わ、私のことを想って? そっ、そうなんですかっ。……いやっ、でもっ、私にはライちゃんがっ……」
ライリーは俄かに不機嫌そうな空気を纏い、唇を尖らせる。対照的にルイーセは頬を紅潮させ、明らかに浮足立った様子だ。
おやおやおや? これはこれは……。
どうやらここにも、複雑な人間模様があるもよう。
それにしても『若造』って表現は妙なかんじがするな。
でもそっか、二人は何千年もの時を生きる賢人様なんだものね。アーベンツの歳が幾つなのかは知らないけれど、彼女達からしたらまだまだひよっこ君なんだろう。
うーん、この関係、エモみがあって嫌いじゃなくてよ。
もじもじと葛藤するルイーセにライリーは面白くなさそうな表情だったが、やがて気を取り直したらしい。彼女は肩を竦めて私に向き直った。
「ありがとービビア。君に衣装を頼んで大正解だったよっ。次の機会も是非お願いしたいな。これはあたしからのほんの気持ち。受け取ってね」
【羊飼いの杖】を手に入れた!
称号【ライリーの友人】を手に入れた!
それを見たルイーセが、慌てた様子で自分の体をごそごそ探る。
「わ、私からもお礼がまだでしたね! これを受け取るのですっ。苦しゅうない、ご苦労様なのですっ」
10万キマを手に入れた!
【成長の書物~発想の巻~】、【成長の書物~技術の巻~】、【成長の書物~手際の巻~】を手に入れた!
称号【ルイーセの恩人】を手に入れた!
あれ、ネットで見た情報と報酬がちょっと違うみたい。称号と、それから羊飼いの杖なんてアイテムが付いてくるっていうのは初耳だ。
これはやはり、私がリザルトSSを達成したからかな? ふっふっふ~。
羊飼いの杖は名前からして護身具なのかなって思ったんだけど、説明を見るとそうではないようだ。
【羊飼いの杖】
木製の大曲がりステッキ。眷属を新たな道へ導く。
ライリーの本職は【獣使い】なわけだし、これも眷属獣に使うアイテムっぽいね。うちは丁度ユキちゃんをお迎えしたばっかだから丁度いいかも~。
こうしてコミュニケートミッション【“いりしゅあげいと”の新衣装】は、無事クリアと相成ったのだった。
シエルちゃんシャンタちゃんにもしっかり声をかけたのち、私はヴルペキュラをお暇することに。しかし裏口から外へ出たところ、そこで待ち受けていた光景にやや面食らった。
「あっ、ビビアさーん! ライブ超超超超超良かったっすよ~! シエシャン可愛過ぎ衣装似合い過ぎで失神するかと思いました! つか公演中シャンタ様、何度も俺に向けてウインク投げてくれて~、」
「馬鹿め、シャンタちゃんが見てたのは隣にいた俺だぞ。あ、ブティックさん、このたびは素晴らしいライブイベントを開いてくださり本当にありがとうございました!」
「びーちゃーん、めっちゃ楽しかったよ~」
「すっごく素敵な思い出になりました!」
「良かったよブティ。あの衣装いりしゅあの雰囲気にぴったりだね」
「ふああああ~~~~ライルイ神ライルイ神ライルイ神……」
「うううブティックさんのいりしゅあコス解釈一致過ぎて、もうなんとお礼を言ったらいいか……。それにまさか初公開の新曲が3曲もあるだなんて……」
どうやらライブに参加してくれたプレイヤーの皆さんが、わざわざ私が出てくるのを待ってくれていたらしい。彼等は私の姿を認めるや否や次々と押し寄せてきて、お礼や感想を伝えてくれる。
凄い! 人生初、出待ちされるガワだ!
まあ芸能人とかのそれとは大分意味合いが違うんだけどさ。
オークションでチケットを入手した人の中には知らない人も結構いて、そうじゃなくてもこの人数に一斉に囲まれるのはちょっとビビる。でもみんな楽しんでくれたことが伝わってきたので、悪い気はしなかった。
……正直チケットが6千万で売れたって聞いたときには、ちょっと不安になったんだよね。「勢いであんな大金出しちゃったけど、なんだこんなもんかー」って、がっかりされちゃったらどうしよって。
それが杞憂だったことは、みんなの様子を見てすぐに分かった。えへへ、良かった。
そうしてライブ参加者からの挨拶に一頻り対応し、やっと場が落ち着いてきたときのことだった。
「ブティックさん」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには一人の青年の姿があった。装飾品をじゃらじゃらと沢山付けた、癖毛のイケメンさんだ。
……あれ、でも、声は知ってると思ったけど、見覚えのない人だ。
ネームタグを表示すると、そこには[久瀬大樹]とあった。やっぱりどこかで……って、あ。
「もしかして、白のグラキエスベアを譲ってくださった……!?」
「うす。その節はどうも。選んでくださり光栄です」
「いえいえそんな、こちらこそ。貴重なユニーククマさんなのに」
「とんでもない。うちの……じゃない、知り合いのクランとこで持て余してたくらいなんで。寧ろ良かったんですか? あれで。俺、今回の幻獣選手権には他にもイイやついっぱい送ったんですけどね。白ベアはダメ元っつーか、ワンチャンくらいの気持ちで」
「わあ、そんな熱心に参加してくださってたんですか。でも私としては白ベアちゃんで全然、っていうか、白ベアちゃんが良かったんです。一番のお気に入りです。ほんとに、ありがとうございました!」
言って頭を下げると、久瀬さんは苦笑して頬を掻いた。








