351日目 チケットノルマ(1)
ログイン351日目
ダンサー探しとチケットノルマを割り当てられ、昨日はもやもやした思いを抱えつつログアウトしたワタクシ。けれど一転、現在の私は興奮に湧いていた。
というのも、お客としてやって来たヴィティに何気なく話しかけたら、こんな選択肢が出てきたのだ。
ヴィティをバックダンサーに誘いますか?
→・はい
・いいえ
えっ。と、私は息を呑む。
これってつまり、いりしゅあライブのバックダンサーをヴィティに頼めるってこと? ヴィティがいりしゅあに混ざって、一緒に踊るの?
私てっきり、ダンサー探しっていうのは特定の決められたキャラクターがいて、その子に辿り着かなきゃ駄目なんだと思ってた。
でももしかしてこれってそういうお使い的ミッションというよりかは、プレイヤーが好きなキャラクターをダンサーに選ぶことを目的とした要素なんだろうか。だとしたら話は変わってくる。
私の心は俄かに浮き立つ。一旦ヴィティに対しては『・いいえ』を選択しておいて、その時を待つ。
だとしたらだとしたら――――――。
「はろービビア。今日は良い天気ね。お出かけ日和だわ」
「春服、新調しに来たの。ねえ、お勧め教えてよ」
――――――シエル&シャンタにダンサーを頼むことも、可能ってこと……!?
「え!? “いりしゅあげいと”!?」
「“いりしゅあげいと”って、あの“いりしゅあげいと”で合ってる!?」
「勿論知ってるわ、大スターだもの。っていうか私達大ファンよ!」
「ライブにも何回も行ってるわ。……パパが男爵だった頃はね、周りの貴族達から『あんな俗的な場所に出入りするだなんてはしたない』、なんて言われちゃったりもしてたけど」
「今は伸び伸び出入りし放題、超ハッピー。っていうかライリー様もルイーセ様も偉ーい賢人様なのに、俗的だとかはしたないだとか、あいつらほんと失礼よね」
期待した通り、バックダンサーに誘う選択肢は双子との会話でも現れた。そしてこの反応である。
とっても良い食いつきっぷりで、まだ引き受けてもらったわけでもないのににやにやしちゃうね!
「やるわ、勿論やるやる! こんな素敵な機会、またとないもの」
「ルイーセ様ライリー様と同じステージに立てるだなんて夢みたい! え? ダンス? ふふん、ビビアったら、私達を誰だと思ってるの?」
「“いりしゅあげいと”のダンスなら、私達お手の物よ。お手本動画視ながら、いっつも二人で踊ってるんだから」
「つまんない社交ダンスのレッスンさぼって、こっち練習してたかいがあったわ!」
「ねーっ」と手を取り合い、微笑み合うツインズ。はあ今日も尊い。
それにしてもこのミッション、まさか好きなキャラクターをアイドルグループに入れて一緒に踊ってもらえるイベントだったとは。きまくら。ってもしかして神ゲーなのか?
「でも、ビビアがいりしゅあのお二人と知り合いだったなんて驚きだわ」
「……へえ、舞台衣装の仕立てを頼まれたの? やるじゃない」
「さっすが私達の贔屓のブランド、[ブティックびびあ]!」
いりしゅあと通じていたことにより二人からの評価も鰻登りで、もう頬っぺたが緩んで緩んで仕方がないや。今の私の顔、鏡に映したらでれっでれにとろけてヤバいことになってるんだろうなあ。
そんなわけで、私は最推しの二人をステージ上に引っ張り出すことに成功したのだった。
双子のお帰りを見送ったのち、私はよし、と気を引き締める。そうと決まったからにはこのミッション、最善を尽くして取り組まないとね。
ネット情報によると、お客として来てくれたプレイヤーの数も、ミッションの成功度に影響するらしい。と言っても例のごとく、変動するのは関係する3キャラクターの好感度のみとのこと。
でも今私が進めているシナリオは、ネットには出ていない未知の世界なのだ。やれることは何でもやっておくに越したことはない。
この20枚のチケットを全部捌ききって、ライブハウスをお客さんでいっぱいにしてやるんだから!
最早このコンサートは私にとって、“いりしゅあげいと”のステージというより、シエルシャンタのデビューステージという意味合いのほうが強くなっているのだった。
さて、それじゃあ誰に渡そうか。フレンド一覧ページを眺めながら、私は真剣に考える。
因みにこのライブイベント、日程と時間は後でルイーセに話しかけるときに自分で決められるそうだ。
それとチケットの価格は公式では1枚8,000キマとなっていて、最初ルイーセからチケットを受け取るときにもそれに対応したキマがプレイヤーの手持ちから差し引かれている。
でも、プレイヤーがプレイヤー相手にチケットを取引する際の値段設定は自由みたい。
何ならタダでプレゼントしても問題ないとのことだ。差し引かれた金額は戻ってこないけどね。
成功度に影響するのは実際にはチケットを捌いた数というより、チケットを持ってライブに足を運んでくれたプレイヤーの数、なんだって。
だからとにかくばら撒けばいいわけでもないの。チケットを受け取ったからにはちゃんとライブにも参加してくれるっていう人を、見極めていかなきゃ。








