349日目 舞台衣装
ログイン349日目
ライリーに似合う白い舞台衣装を望んでいるルイーセと、ルイーセに似合う濃い色の衣装を望んでいるアーベンツ。当の依頼者はルイーセであるが、アーベンツの言っていることももっともだ。
さてはて、どちらの好みを優先したものか。迷った私はこんな時の強力な助っ人、“いんたーねっと”に頼ることにした。
するとやはり、このイベントは衣装の完成度のみならず、カラーによっても結末が分岐するとのことだ。ただし白にするか濃い色にするかで影響するのはそれぞれのキャラクターの好感度のみで、報酬などは変わらないそう。
白にするとルイーセの好感度が上がって他二人の好感度はそのまま、濃い色にするとアーベンツとライリーの好感度が上がってルイーセの好感度が下がる、だそうだ。
因みに調査の過程で得た副産物情報なんだけど、このミッション、最後までこなすと“いりしゅあげいと”のライブチケットを貰えるんだって。そのライブで二人は何とプレイヤーが仕立てた衣装を纏い、歌って踊ってくれるんだそうだ。
これは衣装の作り手たる【仕立屋】としては、なかなかに胸熱なイベントである。
アイテムの完成度は、そのご褒美ライブの規模に影響するみたい。
結果は成績に合わせて三段階あるようで、ライブの時間や演目、そして他プレイヤーを招待できるチケット数が変化する。最高ランクだと自分以外のプレイヤーを10人招待できて、15分の長尺ライブが観賞できるそうだ。
でもこの『リザルトS』とも呼ばれる最高ランクのライブ、達成するのは滅茶苦茶難しいらしい。
ちゃんとした記録に残ってる限りでは、今まで達成できたのはたったの一人。それが仕立屋最高位の老師称号【泡沫の針子】を有する[春南]さんとのことだ。
何でも、この方も私と同じくミラクリ付与を得意とするそうで、つまり“きまくら。人間国宝”の一人らしい。恐らくいりしゅあ用に作った衣装もミラクリが付いていて、だからリザルトSを達成できたんじゃないかって、攻略サイトのコメント欄では話題になっていた。
……ってことはですよ? みんなにとっては難しいSランクでも、私にとっては案外狙える位置にあるんじゃないかなあ、なーんて楽観的期待を抱いてみたり。
だってワタクシもミラクリ付与は得意分野ですもの、えへん。まあ、【ソーダ】ときーちゃんのウラクリ素材ありきの仕事ですけれども。
私は特別いりしゅあ推しってわけじゃないけど、二人のことは普通に可愛いキャラクターだと思うし、ライブはとっても楽しみだ。こうなってくると俄然やる気が湧いてくる。
よーし、目指せ15分の長尺ライブ。
ところで結末に影響なくとも好感度が変わってくるコミュニケートミッションっていうと、私、あれを思い出すんだよね。シラハエの賢人カミキリを起点に発生したミッション、【万華鏡の行方】。
あのイベントも最初ネットで得た情報では、プレイヤーの選択で変動するのは好感度のみで結果や報酬は変わらない、ということだった。
でも改めてビャクヤの街を自分で調べたら、新たな事実が浮き彫りになってきたんだよね。そして真エンドとも言えるようなルートを開拓することができたのだ。
だからもしかしてこのミッションも……なーんて考えてしまうのは、さすがに虫がよすぎるかなあ。
けどいずれにせよ、作ったアイテムのデザインが好感度にしか影響しないっていうんなら、もう自分の好き勝手やっちゃっていいかとも思ったり。
攻略サイトによると、ライブのグレードに関わってくるリザルトっていうのは、出来上がったアイテムの価値――――つまり品質やギルドで取引するときの価格で決まるんだそう。色やデザインはこっちには関係しないんだって。
だったら誰の好感度を上げようが下げようが気にしないで、ただ私が着てほしい衣装を着てもらうための音楽ライブを目指そうかなって。
もっとも依頼人の好みとかアーベンツの意見なんかは、こっちで勝手に解釈しつつ取り入れていくつもり。そうやって考えたほうが楽しいしね。
でもゲーム的に旨みがあるのはどういう選択なのかとか、そういうメタっぽい推量は捨てて作ろうかなと思った次第である。
幸い、ルイーセとライリーに提供する衣装は別々のデザインのものでも可、とのことだ。だったら関係する三人のキャラクター全員を満足させる方法もあるかもしれない。
ただ、安直にルイーセに濃い色の衣装を、ライリーに白い衣装を着せるっていうのは、美しくない気がする。ライブの演出にもよるんだろうけど、アイドルの舞台ってなるとやっぱり色合いは統一させるのが好みだなあ。
色違いを着せるとしてもカラートーンは同じくらいのものを着せたい。白とディープトーンの組み合わせっていうのは、なんかな。
そうして私が下した結論は、それこそ安直だけれども、白とディープの中間色を使う、というものだった。
白だとライリーに寄せ過ぎな気がするし、濃い色だとルイーセに寄せ過ぎな気がする。じゃあ間を取って、パステルカラーにしてみようという考えだ。
チョイスした色は愛らしくも渋みのあるピンクグレー。
そういえば、全然タイプの違うビジュアルの二人だけど、共通点があるってことに気付いたんだ。
それは二人とも、懐古的でどこかノスタルジックな雰囲気が漂ってるってこと。ライリーはビスクドール、ルイーセはマリオネット、そんなかんじで、古き良きお人形さん感のあるキャラクターなんだよね。
よって、アンティークを思わせるこの色をメインに作っていくことにした。
主役で使う型紙はこちら、【クラシックチュチュ】に決めた。そう、水平に広がるチュールスカートが特徴的な、バレエ衣装だ。
いかにもステージ用っていう華やかさがあるし、ロマンチックな二人の個性にもぴったりだと思って。
まず胴体部分には【ロイヤルシルク】から作られた【ロイヤルサテン(。´•ω•)】を使用する。上品な光沢のある、つやつやでひんやりなクロスだ。
デザインはビスチェっぽく、タイトに体のラインに沿う形を作っていく。正面にはシャツの前立てを模したイメージで幅広のレースリボンを張り、そこにピンクパールのボタンを並べたよ。
たっぷりギャザーを寄せたチュールスカートは、気持ち本来のチュチュよりも開き具合を抑えめにしておく。
裾部分にはラメ加工を施してみた。【接着剤】を塗布してから、そこに【ラメパウダー】を撒いて乾かす手法だ。
暗がりがスタンダードなライブステージだもの、これくらい主張しとかないとね。
ボディスとチュールの接合部はチュールの布端が敢えて表面に出るよう配置。ギャザーの絞り部分にレースを当て、その上から細いリボンを【なみ縫い】で飾った。
よし、クラシックチュチュは完成だ。次はヘッドドレスを用意していこう。
最近地味にはまっている“ティアラ”をチョイスしよっかな。今回は小さめのクラウンティアラを斜めにちょこんと載せるかんじで。
レシピは、咲きかけの百合の花のような形がキュートな【ブロッサムティアラ】。シルバー製にして、宝石は控えめに。
これで二人共通のメインアイテムが一旦完成。ここからはルイーセとライリー、それぞれの個性を活かすための装飾をしていくよ。
まずはライリー用に、総レースの【ボレロ】を仕立てる。彼女がこの前羽織ってたレースのガウン、あれが凄く素敵だったので、その雰囲気をこっちにも持ってきました。
ベールで目を覆った儚げ美少女のライリーさんには、品の良さ、淑やかさを強調していただきたい。
対照的にルイーセさんは機械製の肌や関節をがつんとさらけ出してほしいので、上着はなしでいこうと思う。
代わりにピンクパールとレースで【チョーカー】、それに【アンクレット】を作ったよ。きっと良いアクセントになるだろう。
靴はトゥシューズを模して、リボンを付けたハイヒールを採用。ルイーセのを黒、ライリーのを茶色の革で仕立てた。
加えてライリーには白レースのハイソックスも付けておく。
二つの衣装をそれぞれ二つのトルソーに着せたり合わせたりしながら、あーでもないこーでもないとバランスを整えていく。そうしてついに、“いりしゅあげいと”の調和と個性を反映したコスチュームセットが完成した。
作業完了のコマンドを実行すると、リンクセットにするかどうかを問うダイアログが表示される。
忘れてた。そういえばそんな要素もあったね。
答えは勿論いえすだ。面白そうなほうに百票なのだ。
【いりしゅあげいとのクラシックチュチュ】
品質:★★★★★
ロイヤルシルクで作られた服。
主な使用法:装着
効果:[毒]無効 心属性付与
消耗:820/820
セットボーナス:[アビリティ:冒険者気質]
リンクボーナス:闇属性無効 [習得可能スキル:グレースケール・リバーブ]
(冒険者気質:レベルアップ時、[耐久][力][敏捷]が上がりやすくなる)
(グレースケール・リバーブ:リンクスキル 消費50~ PT内の2人が同時に発動しなければならない。灰の旋律を奏で、対象を[緊張]、[発狂]、[混乱]状態のいずれかにする(範囲・大))
今回はシンプルな衣装構成だったためか、リンクボーナス以外のスキルは付かなかったみたいだ。
リンクボーナスにスキルと併せて他の効果が付いたのはちょっと新鮮。
こういう場合は確か、パーティ内で二人がリンク衣装を着てるときに限って[闇属性無効]の効果が発揮される、みたいなかんじなんだよね。……あはは、使い辛そ。
でも良い効果が付こうがビミョい効果が付こうが、今回はNPCへのプレゼントである。どちらにせよあんま意味ないか。
【グレースケール・リバーブ】のエフェクト見てみたかったけど、しばらくはお預けだ。
ライリーもルイーセも遠征サポートキャラの一人ではあるから、将来的にはワンチャンってかんじ?
ただ基本はダナマのギルドから手続きしないと来てくれないんだっけ。ミッションイベントで渡したアイテムが遠征サポートの場面で適用されるかどうかも分からないし、うーん、現実的ではないか。
とまあ、興味深い効果内容が無駄になってしまうことに思うところはあれど、でもね、究極的にはそんなのはどうでもいいんですよ。少なくともミラクリが付いてるってだけでリザルトSのライブは射程圏内なわけだし、目的が達せているんならそれでよし。
そんなことより大事なのは、み、た、め、なのであーる。
いやあもう、超可愛い。
レースにチュール、パールにリボン、ティアラにハイヒール、懐古趣味に少女趣味。私の好きなものが全部詰まってる!
ピンクグレーっていう大人キュートな色合いがまたイイね。ぶりっこし過ぎてないというか、派手な衣装な割に目に馴染むというか。
公式動画サイトに上がってた常設いりしゅあライブ、軽く覗いてみたんだけど、ちょっとオルタナっぽいエレクトロポップな曲調だった。
テンション上げ上げでリズムに乗れる甘めダンスミュージック、でもダークで切ない世界観が背後にあるかんじ。もう、この衣装ぴったりじゃんっていうね。
はあー、二人がこれ着てパフォーマンスしてくれるの、めっちゃ楽しみだな~。








