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職業、仕立屋。淡々と、VRMMO実況。  作者: わだくちろ
Another

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347日目 恋のデスマーチ(7)

 正直なところ、この騒動で実際に何が起きているのかすべてを把握し説明することは、不可能に思えた。


 そもそもがこの銀河坑道の大洞穴、ザクロライトを巡って普段から抗争が盛んな場所である。ラッシュ中ともあれば尚更だ。

 そんなホットスポットに深瀬さんとダムさん、我々、フラッシュモブの皆さん、そしてMUT化したハガネワニ君が放り込まれたとて、元々のお祭り騒ぎが三割増しでうるさくなるくらいのものだ。

 従ってどこからどこまでが深瀬さん達に起因する事象なのかを判別するのは、困難を極めた。

 アツアツのコーヒーに角砂糖を二、三、放り込んだとて、すぐに溶けて見えなくなっちゃうでしょ。そーゆーこと。


 それゆえ私は誰が深瀬さんの邪魔をするパフォーマーさんなのかそうでないのかも分からぬまま、ただただバレッタさんの指示のままに傘花火やスキルによる攻撃を下していった。

 闇雲に範囲技を使うわけにもいかないこの状況下で、特に活躍したのは【グラウンドナッツ】である。

 ……ザコガリーズ再び。バレッタさん多分、このスキルのこと気に入ってるんだろうな。


 明確に“面倒事に巻き込まれた”と言える中それでも逃走に走らなかったのは、ひとえにバレッタさんのためである。圧に負けたというのが八割、あとは友情ともつかぬ信頼関係からというのが二割。


 何だかんだ彼女とも付き合いが長い。「友達」って胸張って言うのは気が引けるけど、どうも彼女は私のことを一方的に“舎弟”として扱っている()がある。

 それが名誉なことかどうかは置いといて、まあ私のこと憎からず思ってるんだろうなっていうのは何となく察している。「私は姉御よ。付いて来なさい」ってカッコつけてるのがそこはかとなく透けて見えて、ちょっと可愛いんだよね。

 だから私もつい放っておけなくなっちゃうというか。


 きっとバレッタさんは、ギャルはギャルでも虐められがちな陰キャ女子を庇ってくれる、公正なギャルなんだと思う。わんわんっ。


 あとはまあ、この戦線への参加が深瀬さんとダムさん、双方に貢献することであるというのも大きい。深瀬さんは本丸(ほんまる)のダムさんに辿り着き勝負を挑むことを目標としているわけだし、ダムさんはパフォーマーさん達が予想外の反乱を起こして迷惑そうだもの。

 依頼者二人の心証を悪くするものでないとあらば、協力することもやぶさかではないと思った次第であった。


 とはいえこちらは四人。敵はその何倍も数が多い。

 明らかに劣勢……かと思いきや、意外とそんなこともなかった。


 狩人一位の深瀬さんは勿論のこと、バレッタさんもマユちゃんも遠征ガチプレイヤーである。つまりこちらは私を除いて少数精鋭。

 対して相手方は、対人戦に不慣れな者も多くいるようだった。

 加えて深瀬さんのスキル【トランスフォーゼ】により一時的に変異したワニ君、なぜか途中から私達に味方するようになった楽団の活躍により、ダムさんへの道を阻む壁は一枚また一枚と剥がれていく。


 そうしてフラッシュモブさん達も大分疲弊しついにダムさんの姿が見えてきたところで、本丸が行動を起こした。

 数人のプレイヤーが代わる代わる彼を取り押さえていたのだが、自陣の数が少なくなってきたためその拘束態勢に穴が生まれたらしい。一瞬の隙を突いて、ダムさんは拘束者の手から逃れ出る。

 束の間自由になった彼が真っ直ぐに見つめるは、いよいよ間近に迫ってきた愛しき人。


「深瀬さん! これを……!」


 ダムさんは綺麗にラッピングされた大きなギフトボックスを取り出すと、それを深瀬さんに投げた。

 直後、パンフェスタさん達が雪崩れ込み、再びダムさんを取り押さえる。悲しいかな、愛の言葉の一つも添えられない。

 でも贈り物は、確かに彼女の手に届いた。そしてアレの中身は、絶対絶対アレだよね!


「ビー! 集中力切れてきてるよ!」


 バレッタさんに注意されるも、私は二人の動向を目で追わずにはいられなかった。

 唐突にプレゼントを投げ付けられた深瀬さんは、びっくりするあまり一旦後ろに退く。素早く中身を確認した次の刹那――――――彼女は、純白の花嫁に変じた。


 ……き、着たああああーーーーーーーー!!


 その余りの眩き白さに、誰もが目を奪われていた。

 そう、これこそがウェディングドレスの力。纏った瞬間、どんな女性をもその日の主役、女王様にしてしまう、奇跡の衣装。

 ドレスを摘まみ、頭のティアラを触り、自身の体を子細に確認していた深瀬さんの頬が、徐々に赤らんでくる。潤んだネオングリーンの瞳の奥ではしかし、今日一鋭い火花が迸った。


 彼女は走った。スカートをたくし上げ、長い裾を引きずりながらも、力強い足取りで真っ直ぐ駆けた。

 目指すは勿論、こんな恥ずかしいコスチュームを寄越したにっくき男。行く手を阻む人混みなど目にも入らぬ勢いで、深瀬さんは突き進んでいく。


 すると、不思議と人垣が割れた。彼女の鮮烈な美しさ、その迫力に圧倒されたのだろうか、ダムさんへと続く一本の道が自然と出来上がっていく。

 恨むことなかれ、深瀬さん。そこにバージンロードを幻視してしまったのは、多分私だけではないはず。


 がしかし、深瀬さんとダムさんの他にもう一人、強い決意を胸に燃やす者が存在していた。パフォーマー達を率いる代表格、パンフェスタさんである。

 共に戦う同志が次々散ろうと、楽団の謎の裏切りを経験しようと、ウェディング深瀬さんの圧に仲間が屈しようと、彼だけは膝を折ることはなかった。彼だけが唯一、ダムさんを背にして深瀬さんの前に立ちはだかった。

“カップル殲滅”を自らの使命と掲げ最後まで抗い続けるその熱き姿に、私は胸を打たれる。


 かくして、深瀬さんは冷たく告げた。


「【百花繚乱】」


 瞬間、深瀬さんを中心に、ブオンッと緑色の円環が広がった。一拍遅れて円環内の大地が割れ、足元の岩石が弾ける。

 一斉に生え出てくるは、色とりどりの美しく巨大な蔓花(つるばな)。しかししなる蔓には皆一様に、鋭い棘が付いている。

 蔓花はまるで生き物のように激しくうねり、その場にいたプレイヤー達に襲いかかった。


 勝負は決した。


 花々が咲き乱れる(あで)やかなスキルエフェクトが消えたその時、パンフェスタさんの姿はそこになかった。


 バージンロード沿いに群れを成していたプレイヤー達の姿も、そこになかった。


 そして当然のごとく、ダムさんの姿もそこにはなかった。




 拠点(ホーム)に戻った私は、階段に腰掛けしばしぼうっとする。なんか、今日は凄く色々なことがあったなあ。

 ゲーム内のこととはいえ人と沢山接したというのもあり、少し疲れてしまった。時間はまだあるものの、仕立て作業をする気にはなれない。


 ふああ~、ちょっと癒しが欲しい気分。

 こういうときペットを持てる【獣使い】っていいなーって思う。どこにも出かけず物作りもせず、ただ無心で動物を撫でていたい、そんな日もあるよね。


 けど何となくログアウトするのも億劫で、私はそのままブラウザを呼びだしてだらだらと動画サイトを眺めていた。すると三十分ほど経った辺りで、トーク通知が入る。

 深瀬さんからだった。



[深瀬沙耶]

ブティックさん、やりました!

やりましたよ、私!


[深瀬沙耶]

ダムさんと!

付き合えることになりました!


[深瀬沙耶]

もお~~、ブティックさんの意地悪

最初言ってたウェディングドレスの依頼ってこのことだったんですね

ブティックさん、ダムさんの計画も全部知った上で、私のことけしかけてたんですね


[深瀬沙耶]

……でも、これで良かったような気もしてます

だって私、自分の気持ちをはっきり彼に伝えることができて、凄く嬉しかった


[深瀬沙耶]

だからブティックさんにはめっちゃ感謝してます!

本当にありがとう!


[深瀬沙耶]

ブティックさんのお店のこと、いっぱい宣伝しておきますね

「恋を仕立てる洋品店」……とかとか、どうです!?(〃ノдノ)



 メッセージの最後には、ウェディング深瀬さんとダムさんのハグショットが添付されていた。


 ………………なんで?


 私の脳裏に、宇宙が展開される。


 何がどうしてこうなった?

 まあ確かに、『可愛さ余って憎さ百倍』とはよく聞くから、その逆もまた然りなのかもしれない。深瀬さんがダムさんのことを憎い憎いと思う余り、それが転じて、愛しい……に……?




 ――――――恋愛感情って、それまでの人の価値観を180度覆してしまうほどの、凄く不可解で恐ろしいエネルギーなんだなって思いました。まる。




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― 新着の感想 ―
最後までアンジャッシュに気付かないとは……流石やで……
[一言] 駄目だこいつ(Bさん)早く何とかしないと
[一言] 丸く収まった・・?? Bさん宇宙ねこ出しとる場合やないで><
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