342日目 勝負服(2)
さてさて、効果内容は~――――――。
【ショウブツナギ】
品質:★★★★★
スピードクロスで作られた服。
主な使用法:装着
効果:敏捷+640 [毒]無効
消耗:810/810
習得可能スキル:デッドアイ
(デッドアイ:条件発動スキル 消費- 《銃》《弓矢》アイテム使用時限定で発動 最大飛距離が二倍になる)
【ショウブツールベルト】
品質:★★★★
三角牛の革で作られたベルト。
主な使用法:装着
効果:耐久+200
消耗:700/700
習得可能スキル:トランスフォーゼ
セットボーナス:光属性のダメージを吸収+耐久値に変換(大)
(トランスフォーゼ:任意発動スキル 消費70~ 一定時間、自身の眷属獣を変異させる)
――――――んー、まあまあ、悪くないんじゃない?ってところ。
一応今回も【必然】ガチャに挑戦してたものの、そっちは失敗だったようだ。範囲ダメージのスキルはドレスに付与できたので、こっちは汎用性が高く遠征職に人気という【反撃の狼煙】を付けたかったんだけどね。
とはいえ、【デッドアイ】? このスキルなんかはクロスボウ使いの深瀬さんには喜ばれそうだから、結果オーライかな。
ちょっと微妙なのは、もう一つのほうのスキル【トランスフォーゼ】だ。これつまり、【獣使い】じゃなきゃ意味を成さない技ってことだよね。
うーん、そういえば深瀬さんの職業、聞いてないんだ。
遠征職っぽい雰囲気はある。あと獣使いじゃなくとも、幻獣を使役できるスキル【調教】を取るプレイヤーは少なくないと聞く。
だから深瀬さんも使える可能性はそこそこあるけど、そうじゃなかったら完全に産廃になっちゃうなあ。
『眷属獣を変異させる』っていう一文も、なんか少し怖いかも。例えば可愛がってるブーツキティちゃんズが狂暴化、なんてことにならないといいけど。
未確認スキルのようで、攻略サイトで検索をかけても例のごとく出てこない。ま、消費70属は一般に強い能力と言われているし、スキルである以上何かしらの利点はあると思いたい。
何はともあれ、仕事は完了。
私は早速深瀬さんに連絡を入れる。すると彼女からは「今日中に引き取りに行きたい」との返信が来た。
ダムさんといい深瀬さんといい、フットワーク軽いなあ。そしてその双方の行動力と決断力が今、大いなるすれ違いにより悲劇を生もうとしている、と……。
ニンゲンカンケイってむつかしい。虚無的な思いをしみじみ噛み締めながら待つこと数十分後。
「これが……ブティックさんが思う、勝負服……」
アトリエにやって来た深瀬さんは、明らかに拍子抜けした顔で完成衣装を見つめた。あれ?と、私は私で彼女の反応に拍子抜けする。
いや、勿論自惚れですけど、私今回の衣装にもなかなかの自信があったんだよね。依頼人の期待にしっかり応えてる自信があったし、依頼人の予想を一段上回ってる感覚もあった。
深瀬さんにすっごく似合う、強キャラヒロインを演出できたと思ってる。
何なら私、昨日のダムさんのようなリアクションをちょっと期待してた。わあ、凄い、嬉しいって、当然のようにポジティブな言葉が出てくると思っていた。
しかし今目の前で衣装を見つめる深瀬さんの顔には、困惑がありありと表れている。
あ、あれ? 私ってばなんか間違えちゃった?
唐突に、足元が覚束なくなるような感覚を抱く。
わーわー、恥ずかしい! 私、いつの間にかめっちゃ自信過剰になってた! 大体の人が作品を褒めてくれるものだから、それが当たり前になってた!
でも、そうだよね。世の中には色んな好み、個性の人だっている。私は人の心が読めるわけじゃない。いつだって依頼人の期待通りのものが作れるとは限らない。
だからそれは別にいいんだ。そういうすれ違いは得てして起こる、仕方のないこと。
ゆえに私は今まで、オーダーメイドではなく、リクエストという注文形態に終始してきたんだ。問題があるとしたら、皆におだてられるあまりそんな現実をさらっと忘れて冷静さを欠いてしまう自分にあるわけで。
落ち着こう。まあまあ一旦、落ち着こう。
私は大きく息を吸って、深瀬さんに向き直った。
「あのー、イメージと違いましたかね。お話してある通りこちらもリクエスト依頼としてお受けしてますので、何かありましたら遠慮なくキャンセルしちゃってくださいね」
「え、あ、違います! 買います! 勿論買いますよ。凄くかっこ良くて、私の好み押さえてて……、ただ……」
……私の好みを、押さえ過ぎでは? 彼女はそう言った。
「不味かったですか?」
「いえ、そのおー、なんかいかにも、私が選びそうな服だなーって思って。でもブティックさん的には、これが正解ってことなんでしょうか」
「あ、深瀬さんが普段着ないような新路線の服装を期待してました?」
「んっと、まあ、はい。正直あの、こういうカッコイイ系の衣装で勝負できるとはとても思えなくて。これじゃあいつもの私と同じでは、みたいな。差し出がましいこと言うようで悪いんですけど」
所在なさげに、両手の指を遊ばせる深瀬さん。
うーん、出た、このふわふわしたかんじ。会話がイマイチ噛み合ってないかんじ。
商品は買うけど、期待は外れている。好みを押さえているのに、正解と思えない。強キャラ衣装を欲しているのに、カッコイイ系ではない。
深瀬さんの真意が汲み取れない。
けれど視線を伏せてもじもじしている彼女を観察するうち、私の脳裏に一つの予感が閃いた。
彼女のこの反応はもしかして、品物に対する不満ではなく、自信のなさ、なのでは――――――? であるならば、彼女は至極単純な思い違いをしている可能性がある。
だとしてもそれを突き付けるようなお節介、普段の私なら焼かない。でも深瀬さんは商品を引き取るでもなく断るでもなく、そこに立ち尽くしている。
埒が明かないと判断した私は、言ってしまうことにした。
「深瀬さん。ファッションは、あくまでファッションなんですよ」
深瀬さんが顔を上げ、こちらを見つめる。
「服はその人の持っている良いものを引き出す役割を果たしますが、結局、人の実力以上のものを生み出すことはできません。本当に勝負に勝ちたいんなら、自分が頑張らないと。背伸びしたって、良いことないと思うんです」
瞬きを繰り返す蛍光色の瞳の奥で、火花が散ったように見えた。








