342日目 勝負服(1)
ログイン342日目
――――――とはいえ、それはそれ、これはこれ。ダムさんにウェディングドレスを納品し一夜明けた本日、私は黙々と深瀬さんの勝負服デザインを進めていた。
ダムさんのロマンチック暴走エキスプレスにあれだけ振り回された後も、寝て起きてしまえば「ま、いっか」となるのが私の良いところである。
よおーし、構想は固まった。さ、作るぞ作るぞー。
因みにだけど、物理的に“強い”アイテムが欲しいんであれば私よりも適役がいっぱいいると思うって話なら、既に彼女にもしてある。スキルを付けられるとはいえ、強い技が付くとは限らないからね。
「……まあ深瀬さんは私なんかよりその辺の事情に詳しいと思いますけど。だから純粋に効果の強さを追求したいんであれば、他の【仕立屋】さんに頼んだほうがいいですよ。私より職業レベルの高い人いっぱいいますから。っていうか対人勝負ってなると尚更、服よりも防具に気合入れたほうがいいような」
「ぼ、防具? 鎧とかってことですか?」
「そうそう」
「はえー。ブティックさんが見るにあの人、そーゆーシュミなんですか」
「趣味?」
……とこんなかんじで、深瀬さんとはなかなか話が進まなくて困ってしまうことも多い。それでも頑張って意図を汲み取ろうと色々質問したりしていると、どうやら彼女は実利よりまず見た目を重視するタイプらしきことが分かってきた。
「いやまあ、そりゃ見た目大事ですよ! お洒落とかに気を遣わないでも勝てる地力があるんなら、こんな相談してないです」
「ふーん……なるほど。つまりまずは見た目で相手を威圧したい、みたいな?」
「威圧というよりは篭絡のような……」
「油断させたところを打ち落とすかんじですか……」
「や、やだーっ、そそそそんな私、ガツガツは行けませんってえー! ……でもまあ、そ、そういうかんじでいけそうな服をお願いしたいんです。こう、一撃ノックアウト! みたいな。即落ち瞬殺! みたいな。なんかそーゆーチート服ありません?」
「ですから私はあまりソッチ路線の技術には長けていないもので……」
「またまた、謙遜しちゃって! あ、勿論『一撃』とか『瞬殺』とかはイメージの話ですよ、イメージの」
「ああ……イメージ……」
この時だけたまたまそうだったのかいつもそうなのかは分からないんだけど、なんかね、深瀬さんってちょっと情緒不安定なかんじなんだよね。かーーーーっとテンション上がったと思ったら、次の瞬間恥ずかしそうにもじもじしだしたりするの。
“天然”ってやつなのかな。掴みどころがなくって、なーんか通じてないかんじ……って、あっ。
ダムさんが言ってたのってもしかして、このことなのか? 顔を突き合わせてお互い喋っているというのに、全く違うテーマについて会話をしているかのような、この感覚のことを言っていたのかな。
つまり深瀬さんて、いっつもこーゆーかんじの人なのか……。ちょっと電波っぽいみたいな。
う、うーむ……、二人のことをそれぞれ知れば知るほどに、理解と同時に謎が深まっていく。
なんだろう、この迷路を彷徨うかのような感覚。深く考えると益々迷い込んでしまいそうだ。
なので二人の主張の正当性を秤にかけるのは一旦やめにして、シンプルに依頼人の言葉を受け取ることにする。
つまり、『イメージ』が大事らしい。強いイメージ。強く見える衣装ってことだね。
そういうことならまあ、深瀬さんのリクエストを引き受ける意義もあるかな、と思った。
いや、本来の私だったら、「強いアイテムください!」なんて内容の依頼は引き受けないからさ。それって連日リクエストボックスに入れられてる「スキル付きお願いします」っていうつまんない依頼と何ら変わらないんだよね。
でも強そうな衣装ってことなら、作り手たる私としても楽しみがいがあるというもの。加えてダムさんのウェディングドレスリクを受けてしまった手前、深瀬さんに対しては負い目がある。
そういう理由も込みで、私はこのリクエストを承諾したのだった。
もっともだからといって深瀬さんは、ゴテゴテの金属鎧だとかトゲトゲなショルダーアーマーとかを望んでるわけじゃないだろう。【鍛冶師】ではなく仕立屋たる私に頼んでいる以上、彼女はある程度スタイリッシュなものを欲しているように思う。
つまり大事なのはカッコよさ。“強キャラ感”なんじゃないかなーと思うわけ。
脳内がお花畑なダムさんと対峙したとき、そのうららかな情景にひゅっと冷たい風が一陣吹き込むような、そんな鋭さ、クールさを演出できればいいな。勿論深瀬さんらしさを活かしつつね。
というわけで、今回メインで魅せたいアイテムはこちら、【ツナギ】だ。
丁度今私が着ている、ゆるかわ風味なオーバーオールにも使ったレシピである。でもこのたびはハード感と作業着感を強調して、真逆の印象に仕立てていくよ。
あとね、一応私なりに効果内容にも気を配って作ろうと思う。
ただ強い特装アイテムだなんてつまんないとは思うものの、勝負服としての依頼なわけだからね。引き受けたからには、私も打倒ダムさんを掲げて頑張るのだ。
よって選んだ生地は[敏捷]を高める【スピードエステル(๑ÖωÖ๑)】。さりげない皺加工が味のある、ブラウンのシャカシャカ素材である。
こちらを通常よりも一回りオーバーサイズ気味に、だぼっとさせて仕立てていこう。
大きめのポケットを複数付けたり、袖やズボンの裾を絞れるようにゴムとコードストッパーを通したりと、機能性も充実させていく。言ってもこの世界じゃ、それすらほぼほぼ“ファッション”なんだけどね。
んでね、深瀬さんにはこのツナギ、上半身は袖を通さず着崩してほしいんだ。つまりほとんどただのだぼだぼズボン、シャツ部分はくたっと腰に下ろしたコーデで着せたいの。
イメージは休憩中の工場作業員さんてかんじ。あれかっこ良くて、私的に結構ツボなんだよね~。
でもってインナーはシンプル且つスリムな黒の【タンクトップ】で決まりでしょう。
ボリューミーなボトムスに対して、すっきり淡泊なトップス。実用的で愛想がなくて、なのに中身が女子だとめっちゃ色っぽいというね。
うへへ、ガスマスクの深瀬さんに超似合いそうだなあ。見せる部分と隠す部分のバランスがね、絶妙なのよね。
それじゃ、あとは小物を足して二次元っぽい強キャラ感を出していこう。ハードな雰囲気を演出する上では、とりま革とか金属とか盛っていけばいいと思っているワタクシです。
まずは茶色の【三角牛の革】で腰具セットを作っていく。
ツナギといったら電気や土木関係の職人さん。職人さんといったら腰道具。
そんなイメージの元【ウエストポーチ】の型紙を参考に、ツールをいっぱい引っ提げられる多機能腰袋をデザインしたよ。
ストラップや金具は沢山、ランヤード――――フックのついた命綱――――もどきにサスペンダーも付けておこう。あとはクー君から仕入れた【懐中電灯】と【懐中時計】もおまけでぶら下げてっと。
いいねえ、このごちゃっとしたジャンク感!
スチパン風でもあるし、腰道具のアレンジによってはサイバー系に寄せることもサバイバル系に寄せることもできそう。可能性は無限大なのだ。
足元はハイカットの【安全靴】で決まりだね。黒くてゴツい編み上げシューズだ。
最後に【細工】スキルで華奢なゴールドネックレスを作って、女性らしさをほんのりくゆらす。これでコーディネート一式の出来上がり。
わーい、クールビューティー! 似たような格好した野郎どもの中に紅一点で混ざっていてほしい、ガテン系ヤンキーガールの完成だ。








