336日目~ 幸福な乙女のドレス(前編)
ログイン336日目~
デザインは固まった。それじゃあ今日は、ダムさんに頼まれたウェディングドレスを仕立てていくとしよう。
ダムさんの依頼も深瀬さんの依頼も、やると決めたからには手は抜かないよ。
二人の事情に色々思うところはあれど、私にとってのきまくら。はあくまで遊び。楽しんで服を作ることが、一番の優先事項だからね。
ダムさんに細かい要望などあるか聞くと、「基本的にはお任せするが、はっきりウェディングドレスだと分かるデザインにしてほしい」とのことだった。
確かに彼曰く深瀬さんは、何度告白しても分かってもらえないくらいの滅茶苦茶鈍感な女の子。ウェディングドレスを贈ったはいいものの、それが“ウェディングドレス”だと気付いてもらえないんじゃあ目も当てられない。
……果たして深瀬さんは本当にダムさんの言うような鈍感な人なんだろうかとか、なんかこれ犯罪に加担してるような感覚あるなとか、色々思うところはあるよ。思うところはあるんだけれど、そういう余計な邪推は一切無視することにする。
いいんだ。服を作ってるこの時間だけは、兎に角依頼人の気持ちに寄り添うって、決めてるんだから。
そういうわけで、今回は王道でいこうと思う。今はウェディングドレスといっても多種多様なデザインがあるわけだけど、オーソドックスな要素はきちんと押さえて作るとしよう。
メインカラーは白で、腰元はきゅっと、スカートはぶわっとなプリンセスライン、裾は引きずるくらいに長く。この辺を外さなければ、一旦合格点は取れるでしょう。
となると、サイバーパンクな深瀬さんのキャラにどこまで合わせるかってことも課題になってくる。
これに関してはファッションの好みやこだわりなどについて、昨日モデル本人に尋ねてみた。まああの時は深瀬さん自身服の仕立てを依頼しに来てたわけだし、そこを探るのは至極自然な流れだったでしょう。
するとこんな答えが返ってきた。
「そうですね。自分で選ぶとなるとやっぱりこういう、可愛いというよりかはカッコイイ系の服に偏っちゃいます。カジュアルだったり、メンズっぽかったり。
可愛い系、女の子らしい服装が嫌いなわけじゃないんですよ。ただちょっと、自分で着るには似合わなさそうだなーって避けがちなんですよね。
リアルでそんなかんじなので、きまくら。でも何となくそれ引きずってる感はあります。
でもブティックさんにコーディネートお願いできるっていうんなら、ブティックさんの思うまま自由にしちゃってください。
普段着ないような新しいファッションに挑戦したいって気持ちも、あるにはあるんですよ。私が選ぶんじゃ心許ないですけど、ブティックさんが決めてくれた服って思えば、きっと堂々と着れると思うんで」
つまり、自分のキャラに凄く強いこだわりがある、というわけではないみたい。寧ろ新たな境地を切り拓きたいとの気概も見え隠れしている。
そういうことなら、ウェディングドレスは一旦ガスマスク抜きで考えてもいっかな、という結論に至った。
……いや、ガスマスクをどう調理するかってこと、私にとってはかなり大きな懸案事項だったのよね。
深瀬さんがあのアイテムを譲れないチャームポイントと捉えていた場合、“ウェディングドレス+ガスマスク”っていうなかなか尖った組み合わせで考えなきゃいけないからさ。
でもってダムさんの希望はウェディングってすぐ分かる服装なわけでしょ? ガスマスク付けてても違和感ない正統派ウェディングとか、相当難易度高いよ……って、頭を悩ませていんだよね。
なのでダムさん依頼のドレスはマスクを構想から外させていただくとして、深瀬さんのその他の個性を考えていく。
背はやや高めで、髪はアッシュグレーのミディアムヘア。やはり一番目を引くのは、気の強そうな蛍光グリーンの瞳だろう。
快活でパワフルで、反面鋭く怜悧な雰囲気も見受けられる。
うん、そうしたら、女性らしい要素は盛り込みつつも、シルエットはシンプルにしたいな。首回り肩回りをすっきりさせて、健康的に肌見せするのもいいかも。
そんなことを考えつつまず選んだのはこちら、オフホワイトの【ロイヤルシルク。゜(´っωc`)゜。】。つやつやすべすべな、高級ドレスの王道ベースってところ。
形はノースリーブのトップスとボリューミーなスカートを合わせたワンピースにしたよ。公式でも【ウェディングドレス】のレシピがあったので、こちらの型紙を基盤にアレンジを加えていくことにする。
ネックラインはV字に広く取って、鎖骨をさらっと出してく方針で。スカートの後ろ裾は引きずるくらいに長く、贅沢に布を使っていく。
そして次に用意した生地がこちら、【ケロケロオーガンジー(⸝⸝⸝´ω`⸝⸝⸝)】。耐[猛毒]の効能を持つ素材で、【ケロケロナイロン】のオーガンジーバージョンである。
といってもケロケロナイロンは【マリンガフロッグの革】、ケロケロオーガンジーのほうは【マリンガフロッグの泡】が原材料ということで、全然違う材質ではあるんだけどね。
因みに【マリンガフロッグ】っていうのは、青紫色のでっかいカエルの幻獣です。……はい、このオーガンジーはそのカエルの吐き出した泡でできているそうです。
リアル寄りではなくコミカルな見た目の生き物ってところが、せめてもの救いかな。
まあでも、モンジャ焼きはぱっと見アレでも口に入れてしまえば美味しくいただけるわけでしょ。それと一緒で、材料が何だろうと生地にしてしまえば、元の生き物の気配なんて微塵も感じられなくなるわけよ。
ほら見て、この純真可憐な透明感、乙女心くすぐる柔らかな風合い!
こちらのクロスを三段、八の字オーバースカートっぽく、シルクスカートの上に重ねていく。勿論ギャザーはたっぷり寄せてね。
布端を三つ折りに始末したら、濃い白のラインで縁取りがされてるみたくなって良いかんじ。ファンタジック~。
さてそれじゃあ、このドレスに華やかさを加えていこう。使う手法はレース、そしてビーズ刺繍による装飾だ。
生花や布花を使うか迷ったんだけど、それよりも硬質な石ビーズや淡泊な色合いのほうが、深瀬さんの容姿や性質に馴染むかなと思って。
まずは草花を象った色んな形のモチーフレースを、上半身、スカートの左前面を中心に、バランス良く縫い付けていく。
モチーフレースはきーちゃん作のもあるし、NPCショップ含め他のお店で買ったものもある。公式のデザインでも十分可愛いし置いてる店もそう多くはないから、見かけたら買うようにしてるんだ。
溜め込んでおいて大正解。でも今回の製作でごそっと使っちゃったから、また集めないとね。
そうしたら次はビーズ刺繍のターンだ。
使うのは【コリエンテパール】と透明な【クォーツ】、それから【オパール】をアクセント程度に少しだけ。これらを縫い付けたレースの上から、模様になるよう刺繍していく。
さすがにこれは手作業じゃないよ。私はあまりビーズ刺繍に造詣が深くないのでね。
素晴らしききまくら。システムさんにはしっかり【ビーズステッチ】っていうスキルがあって、専用の図案も幾つかあるのだ。
……って思ってたんだけど、図案と図案が自然に繋がるよう調整するのは、スキルによる操作だけじゃなかなかままならなくてですね。気付いたら結局、所々自分で刺繍してました。
刺してる内になんか楽しくなってきちゃって、ついネットで色々調べちゃったりなんかして。最終的にはちょっと立体的なお花の形なんかも、自分で刺せるようになっちゃったりして、えへ。
いやあ、本格的に触ったことはなかったけど、ビーズ刺繍も楽しいもんだな~。やっぱりきらきらしい素材を扱うっていうそれだけで、テンション上がるよね。
今度リアルでもやってみよっかな。こうやって、お金をかけずに手軽に色んな種類のDIYをお試しできるって点も、きまくら。の良いところだな~。
なんてルンルン気分でまったり刺してたら、いつの間にか刺繍作業だけで3日過ぎてました。いかんいかん、この後に深瀬さんの依頼も控えてるんだし、もうちょっとてきぱきやらないと。
でも頑張ったかいあって、すっごく満足のいくドレスが出来上がったよ。柔らかでまろやかなシルクとオーガンジーの配合、繊細なレース模様と、凛としたビーズ刺繍。
私、もしかして天才か?








