334日目 スクリーム(3)
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)(鍵付)・クラン[情報屋]の部屋】
[ようへい]
やっと落ち着いてきたね
これでそろそろ気晴らしにラッシュ遊んでも許されるくらいにはなってきただろう
[そうへい]
許します
アプデ&B情報の検証、お疲れ様!
ぱーっと遊んできていいですよ、ぱーっと
[ようへい]
営業班もお疲れ様
B情報を本にまとめるのは良いアイディアだったね
最初の手間はあるけど、その後が楽だし客の数も捌ける
[そうへい]
以前から案は出てたんですけどね
これまではお客が殺到するような事態もそうしょっちゅうあるわけじゃなかったし、必要に迫られなかったんでまだいいかってなってました
でも今回やってみて、コスパタイパ悪くないことが分かりました
今後はアプデとか新イベントあるときにはこの方法、応用していくつもりです
[ゆうへい]
話題になってることを知りたいけど何を聞いたら良いのか分からないって客、結構いるからな
そういう奴にとりま提供するには便利な形だよな
[こうへい]
平和が戻ってきてよかったよ
[きょうへい]
この平和が果たしていつまで続くのかってところですが
[こうへい]
それなwwwww
[そうへい]
ちょっとー
和んでるところに水差さないでよー……って、ん?
[そうへい]
なんだろ、急にメッセージ通知が沢山…
[りょうへい]
あの!これって既出ですか!?
(URL)
(動画)
[りょうへい]
今続々と問い合わせが来てるんで、既出なら至急データ提供お願いします!
[りゅうへい]
お疲れ様です
現在以下の件に関して大量の問い合わせが来てます
[りゅうへい]
・ミコトはセルディビジョンを覚えるのか
・セルディビジョンの効果詳細
・遠征ヘルプで入ったNPCがパーティ外のプレイヤーからも視えるようになる現象について
・遠征ヘルプで入ったNPCの攻撃対象にパーティ外のプレイヤーが含まれるようになる現象について
・特装アイテムに付いた習得可能スキルをNPCは覚えることができるのか
[りゅうへい]
こちらでもネットやデータベースの調査を進めているところですが、このような事例に心当たりのある方はご一報ください
[ようへい]
……さってと、それじゃいっちょラッシュ走ってきますか~
[そうへい]
……あ、ちょっ、待ちなさーい!!
[ゆうへい]
はあ
きりねーんだわこれが
******
「あわわわわ……」
スクリームミコトーズの暴走を、私は岩陰に隠れて見守っていた。
怖いのが、ミコト達が幻獣にのみならず、周囲のプレイヤー達にも攻撃を加えているように見えることだ。
確かに今は、フレンドリーファイアが解禁されたパラディス・ラッシュ中である。でもNPパーティの子達がプレイヤーに粗相をやらかすだなんて、見たことも聞いたこともない。
範囲スキルの対象に入っちゃうっていうんなら分かるけど、ミコト達は明らか近くにいるプレイヤーに狙いを定めているようだし……。
[発狂]状態のせい? それとも、気のせいかな?
うん、気のせいだよね。目の錯覚ってことにしておこう。
現実を直視することを拒んだ私は、この事態を薄目で眺めることにした。
しかし幸か不幸か、ミコト達による乱闘パーティーは長くは続かなかった。数分も経たぬ内に、すべてのミコトが一斉に、その場で地面にくずおれたからである。
私ははっとする。
最近は目にすることも少なくなってきたが、馴染みのあるモーションだった。これは強制送還となる直前のミコトの動き――――つまり、彼の[耐久]がゼロになり、行動不能となったときに見せる動作なのである。
本来ならここで行動不能を解除するアイテム【月見酒】を投げてあげるところなのだが、この時の私は混乱していた。
――――――どっ、どのミコトに使ってあげればいいの……!? あと今ここで私が出て行ったら、この惨劇の犯人が私だって確実にばれるよねえ!?
そんなふうにまごまごしていたらば、タイムリミットの30秒をあっと言う間に迎えてしまった。その瞬間、九人のミコト達の視線が私に向く。
「ビビア……ごめんね……。君を最後まで、守りきることができなかった……。約束、守れなかっ、……」
うああああ! 台詞がヤミコトになってから変わってるうううう! 罪悪感がえぐいいいいい!
あとごめんだけど今回だけはこっち見ないでほしい。犯人が私だとばれるじゃないか。
そうして、ミコト達の姿はふっと消え去ったのだった。
「何だ? 今の……」
「ミコトが、分裂?」
「これもアプデの影響?」
ヤミコトパーティーが収まったのち、束の間の静寂を経てざわつきだす周囲のプレイヤー達。ひい、薄目で見ててそうなのかなとは察してたけど、やっぱり他の人にも視えてたっぽいぃ……。
これは益々出て行けなくなってしまった。うちの主戦力ミコト君が送還とか冒険するに当たっても大打撃だから、早めにここから脱出したいんだけどなあ。
と、体を硬くして縮こまっていた私の視界に、ふいに影が差す。顔を上げると、いつの間にか正面に、髪を後ろに撫でつけた青年が立っていた。
見知った顔だったので、私は少し安堵する。国境なき騎士団のクランマスター、イーフィさんだった。
今日の彼はでっかいパンダとでっかい牛とちっこいペンギンを引き連れている。みんな可愛い。
そう思ったけれど、キュートな眷属獣をのんびり観察している余裕はなかった。イーフィさんの珊瑚色の瞳が、鋭く私を見据えていたから――――――。
「ブティックさん。この惨憺たる有様は、君が……?」
「えっと、多分、はい……。ど、どういうことなんですかね? ミコトがセルディビジョン使えるとか、私にも訳が分からなくて……」
「ふむ……。ということは、なぜこのような秩序を乱す事態と相成ったのか、君にも理解できていない、と」
「はい……」
厳しい問いかけに、項垂れて答える。すると前方から「ぶっ」と空気が抜けるかのような音が聞こえてきた。
目を上げると、イーフィさんが顔を背けて肩を震わせている。
……え? この人笑ってる?
引きつる頬をもぞもぞさせながら、彼は神妙な表情を繕って私に向き直る。
「知らなかった、では済まされないのだよ、ブティックさん。君の迂闊さにより幾人もの罪なき冒険者達が被害を受けた。我等の守りし平和が荒らされた。そしてそれは、今日だけのことではない。君の傍若無人な振る舞いは、これまで多くの民草を犠牲にしてきたのだ。私には分かる。君の体は罪深き紅に染まっている。知らなかったでは済まされない。それは私としても同じこと。見て見ぬふりはできない。我々の庇護下にあるこの地にて暴虐を働いた以上、君には然るべき裁きを受けてもらう」
口端をひくひくさせつつ、芝居がかった口上を述べるイーフィさん。長い台詞ののち彼はぐ、と顔の筋肉に力を入れたようだったが、最終的にはやはり口角は緩んでいた。
「国境なき騎士団団長、また【黎明の篤志家】の名にかけて、貴殿に裁きを宣告する。――――――【代理執行】!」
次の瞬間、視界が暗転した。








