312日目 パレス・エトワール(2)
肝心の麻雀試合のルールは、各チームの代表が一人ずつ東風戦を1ゲーム打つというもの。それを四回繰り返してチームの合計点数を競うことになる。
私の出番は三戦目だった。
この時点でのチーム総合得点は、残念ながら最下位。でもまだ十分巻き返せる位置にいた。
……なんだけど、時の運に負けまして、どの局も引きが悪くてさあ。
何とか放銃――――自分の打牌で相手に和了られてしまうこと――――は避けつつも、なかなか点差を埋められずに迎えた最後の局。
頑張れば逆転も有り得る満貫以上、最短で和了ることを目指せば1,000点くらいっていう、絶妙な手が入ったんだよ。
勿論ね、勿論よ、できることならこのチャンス手を高打点の手に育てたかったよ。
でもこっちが南鳴いて北鳴いて西鳴いて捨て牌も見え見えの索子染め手狙いで攻めてるのに、親の[深瀬沙耶]さんがぐいぐい索子押してくるからさあ。
あーこりゃ絶対深瀬さん聴牌してるなー、こっから打点高くするために自分の手を整えるのは間に合わないだろうなーって思ったわけよ。
それに、競ってるのはチームの総合得点なわけで、ここで終わりってわけじゃなかったからね。私の後にまだ、ヴェンデル君の試合が控えている。
ってなると現時点での最善手は望みの薄い賭けに出ることよりも、兎に角傷口を広げずヴェンデル君に勝負を託すことかなって判断したんだ。
ゆえの、“1,300点”なわけです。決して、和了れりゃ何でもいいやーてな具合に適当に打ったんじゃないんだからね!
とまあ、私としては一応それなりの理由を持つ選択だったんだけど、一緒にゲームしてる人にとっちゃそりゃ拍子抜けだよね。下手すれば役満も有り得るような怖い鳴きしてたんだもの。
「めっちゃビビったよーブティックさん!」
「私がイーソー押すのにどれだけの覚悟を要したことか……」
「私も、降りたつもりだったのにロンって言われてゲボ吐くかと思った!」
試合が終わると、同卓していた深瀬さん、[ねね]さん、[ロッタ]さんは、真っ先にこの件について詰めてきた。
へ、へへ。別にハッタリを仕掛けたわけじゃなかったんだけどね。
でもいくら冷静に判断した結果とはいえ、配信でこれやるのって結構御法度だったかなあ……。配信じゃなくとも麻雀において「1,000点だあ!? そんなつまらん手は許さーん!」っていう過激派たまにいるもんね。
なんか、今更ながらちょい後悔してきたり。
俄かに焦りが出てきた私であったが、しかしなぜか三人は逆に感心すらしているようだった。
「さっすがブティックさん! 鋼のメンタル!」
「配信も何も関係ないっていうその心意気、私も見習わなきゃ……」
「やっぱ100万のゴミを売りに出した人は違うね~」
え? そうなるの? 寧ろ「こっから役満狙わないなんて度胸が足りん!」とか言われちゃうかもと思ったけど。
ま、まあ、怒られないで済んだんだし、何でもいいか。
因みに楽団の子達は配信の都合上私の視点で試合を見ていたもので、「まあそうなりますよねー」ってかんじだった。
そもそも彼等、このコラボのために麻雀触りだしたくらいの初心者らしく、あの局の価値とかもそんな理解してなかったっぽいね。有名配信者のイベントに参加できるだけで満足ってかんじで、端から試合に勝つ気はなかったみたい。
結果ヴェンデル君も諸先輩方に大敗を喫し、我々楽団チームは四位に終わった。うーん、このチームの中では辛うじて私が一番経験者だったみたいだから、もうちょっと活躍してあげたかったなあ。
でも、どうしようもない時は本当にどうしようもないというのが麻雀というゲームである。それに楽団の子達は楽しそうにしてたから、これはこれでいっか。
そんなわけで軽く感想戦や挨拶を済ませたのち、イベントは終了、解散となった。さて、折角ダナマまで足を運んだわけだし、拠点に帰る前にふらっと街を散策してこっかな~。
そう考えた矢先、私の視界端で見覚えのある姿が映った。
はねっけのあるオレンジブラウンの髪に、突き出た三角の犬耳。ミコト君だ。
人で賑わうパレス・エトワールの片隅にて、ミコトは独り、硬い面持ちで佇んでいる。
ミコト君はレスティンでもビャクヤでも会えるって話は聞いたことあるんだけど、ダナマスでも会えるんだね。なんか色んなところに出没してるの、益々謎が深いなあ。
とりあえず私は、興味の赴くまま彼に話しかけてみることにした。しかし一定の距離まで近付いたところで、彼はふらりと歩きだしてしまう。
あっ、どっか消えちゃうかな? と思いきや、彼はまた一定の距離を置いたところで立ち止まった。
これ、あれだ。追いかけるイベントだ。
なんか昨日もね、似たようなことがあったんだ。
レスティンの街を歩いていたら、ミコト君の姿を見つけたの。それで近付いて行くと路地の奥に消えちゃって、追いかけるとその先で見つけられるんだけど、またすぐ歩きだしてどこかへ行ってしまうんだ。
最終的に辿り着いたのは、街の外れに佇む古い孤児院だった。そこでようやく彼に話しかけられた。
ミコトはそこの施設を資金面で援助しているんだって。自分も孤児だった経験もあり、行く当てのない子ども達を不憫に思ったそうだ。
ミコトは子ども達にも孤児院で働く人達にもとても好かれていて、その様子だけで、彼がどれだけ施設に貢献しているかがよく分かった。
んで、そこで開放された彼のコミュニケートミッションが、【ミコトの秘密】というものだった。
その時点での進行度は二分の一くらい、つまりイベントには続きがあるということになる。流れ的に、今のこの状況がその続きなんだろうとの考えに至るのは自然なことだった。
それで縮まらない距離間にもめげずミコトの背中を追いかけていくと、やがて彼は『STAFF ONLY』と書かれた扉の奥へ消えて行った。……あれ、ここ、前にも来たことがあったような。
不穏な予感がもくもく湧き上がってくるも、とりあえず私は彼の後に続くことに。けれどそうして地下へと続く階段手前まで来たところで、フードを目深に被った男に阻まれてしまった。
「この先は関係者以外立ち入り禁止だ」
あー、うん、そうよね。
何てったってここを下りた先にある地下街は、犯罪組織[マルモアレジスタンス]のアジトである。前回来たときにはその組織のナンバーツーたるラーユさんがいたから入れたけど、一般人な私一人じゃ門前払い食らっちゃうよね。
……でもそういえば私、あの一連のイベントの後、ツェツィーリアには単独でも面会を果たすことができたんだ。そのキーとなったのは、件の革命イベントで得た称号、【歴史の裏の密使】だった。
もしかしたら今回もこれでいけるかもしれないと思い、私はステータス画面の称号にこちらをセットした。
すると、扉の前に仁王立ちしていた男が、無言で脇に避けてくれたではないか。
話しかけてみると、「女王の使いよ、我々と貴様等は相容れぬ存在であるとまだ分からぬのか」とのこと。よくは思われていないけど、私の立場を一定数認めてくれてはいる、みたいなかんじなんだね。
地下街に下りていくと、ミコトの姿はすぐに見つかった。彼は重い扉を開けて出た街の一角にて、所在なさげに佇んでいる。
ここが追いかけっこの終点のようだ。私はようやく彼に近付くことができた。








