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職業、仕立屋。淡々と、VRMMO実況。  作者: わだくちろ
Another

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295日目 類友(後編)

 さらに昨日も同じようなことが生じている。あ、でもね、昨日はちょっと味変(・・)があったんだよ。

 ベルの音に反応して響いたのは、「あっ」という野太い声。やって来たのは竹中氏であった。

 そして彼を見つめる彼氏候補Dさんの眼差しには、明らかな敵意が燃えている。対する竹中氏もDさんの視線を真っ直ぐに受け止め、瞳をぎらつかせていた。


「腰抜けの竹中……貴様ここで何をしている……?」

「それはこちらの台詞だ、リル様至上主義過激派の[ピッグ]よ。ここはおまえの忌み嫌うシエシャンの聖地、ブティックであるぞ。おまえのようなプライドばっかり高くて中身の伴わない人間が、よくこのような場所にのこのこと姿を現わせたものだな。貴様にとってここは敵地も同然であろう」

「ふん、口惜しいがおまえの言う通りだ。こんな場所、よもや俺が来るとは思うまいな。だが俺とて守るべきもののためとあらば、苦渋を飲んで自らの流儀を曲げることもあるのだよ。彼女いない歴イコール年齢の貴様とは違ってなあ!」

「なっ、なに……!?」


 と、盛り上がってるお二人さん。

 それは別にいいんだけど、何勝手にうちのお店を『聖地』やら『敵地』やらに仕立て上げちゃってんの。

 百歩譲って『シエシャンの聖地』って呼ばれるのはまあ光栄なことなのかもしれないけど、こんなナウでヤングなアパレルショップを取り上げて敵地はないでしょ敵地は。


 そんな私の心の突っ込みを余所に、応酬は続く。竹氏はピッグさんとうるしださんを見比べ、わなわなと唇を震わせた。


「ピッグ……貴様……心身をリル様に捧げたというあの台詞は、嘘だったというのか……? 俺は二次元と結婚する、リル様のためなら生涯独身も厭わないと堂々のたまったおまえが……まさかそんな……」

「ふっ、確かにあの頃の俺の気持ちに嘘はなかった……いや、今だって俺は信念を貫いている。俺の命はリル様と共にある。しかしな、彼女は言うのだ。俺は俺のままでいいのだと。それ即ち、リル様にすべてを捧げた俺の存在を、丸ごと彼女は受け止めてくれているということ……! だから俺は決めたんだ! 俺は、リル様のために生きる! そんな俺を受け入れてくれた彼女のために生きる! この二つはイコールで成り立っているのだ……!」

「ちょっと何を言っているのか分からないぞ! そんなものは詭弁、屁理屈だ! おまえは自らの心に嘘を吐いている! 確かにおまえの抱くリル様への想いは極端が過ぎるものがあり同意できるものではなかったが、それでもあの頃のおまえの眼差しは澄んでいた! 曇りなき瞳だった! それが今はどうだ、実体を持つ女性という存在に欲望を曝け出し、その(まなこ)は淀みきっている……! 目を覚ませピッグ! 恋など虚構だ! 二次元こそ真実!」

「うるさいうるさい! 俺だって彼女が欲しいんだ!」

「ふざけんなよてめえ抜け駆けは許さねーかんな!」


 ……どうでもいいけど、余所でやってくれませんかね。と、感じたのは、私だけではなかったらしく。


「ブティックさん。私、用事を思い出しましたので、そろそろ行きますね」


 うるしださんは、にっこり微笑んで店を出て行った。独りで。

 恋しき人が既にいないことにも気付かぬ悲しき片想い男と竹さんの諍いは、益々ヒートアップしていくばかり。

 私はうるしださんに倣い、そっと店の奥に引っ込んだ。あいつら次荒らしたら即行ショップブロックしてやる、と考えながら。


 そんなこんなで色々ありまして、本日もうるしださんはやって来ている。

 そしていつものように他愛無いお喋りを、時折空気凍結タイムを挟みながら繰り広げていると、来客を告げるベルの音が鳴り響く。振り返ったうるしださんの顔が、蒼褪める。

 あ、今回はうるしださんが反応を示すパターンなんだねーと暢気な感想を抱けるくらいには、このイベントに慣れてしまったワタクシである。なんかもう展開が定常化し過ぎてて、うるしださんのことNPCみたく思えてきちゃってるかも。


 何はさておき、このたび店を訪れたのは市女笠を被った和装の男――――そう、なんとササであった。

 彼を見つめるうるしださんの顔はあからさまに動揺しており、カウンターに置かれた手は僅かに震えていた。怯えている……?

 しかし、過去最大級の拒否反応を示すうるしださんの視線などどこ吹く風で、当のササはというと真っ直ぐに私を見据えていた。


 垂れ衣の向こうの切れ長の双眸が、二、三、瞬いたかに見えた直後――――――ササは、パンダの着ぐるみに変じた。


 私の脳裏で、タケノコを生やす儀式に勤しむ着ぐるみーずの映像が再生される。


 ぶっはーーーー、と私は吹いた。


 そうして笑い転げていたらば、うるしださん達の姿はいつの間にか消えていた。


 以来、彼女が私の前に現れることは二度となかった。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(個人用)】



[陰キャ中です]

おい


[陰キャ中です]

無視すんなや


[陰キャ中です]

あんた最近やたらブティックさんのお店周りに出没してるけど、どーゆーつもり?


[陰キャ中です]

まっさか「うるしだみるく」のことが気になってるとか言わないよね


[くまたん]

は?(´◉ω◉` )


[くまたん]

言うに決まってんじゃん

うちらのお城を壊した張本人やぞ


[陰キャ中です]

えっ


[くまたん]

何、そっちもeeになんか吹き込まれた?


[陰キャ中です]

いや、私はゆうへいに、「うるしだがブティックさんを狙ってるみたいだ」って聞いて……


[くまたん]

ふーん


[陰キャ中です]

けどま、あの調子じゃ杞憂だったみたいね

うるしだ程度の奴、ブティックさんが相手にするわけなかったか


[くまたん]

てかササの大変身くっそわろたわwww


[陰キャ中です]

いやまじでそれw

Bさんもめっちゃ遠慮なく笑うしさあwww


[くまたん]

恐怖と困惑の入り混じったうるしだのあの顔、最高w

そして二人ともうるしだが退場してることに全然気付かないっていうねw


[陰キャ中です]

でもBさんが一頻り笑い終わった後の空気、正直無関係のこっちとしても辛かったわーw

二人とも黙ってないでなんか言いなさいよなんかw


[くまたん]

あれは居た堪れなかったw

私耐えきれず店出たもん


[陰キャ中です]

結局Bさん、「あ、じゃあ、どうも……」みたいなかんじで個人スペースに引っ込んでったよw

んでササはあの格好のまま買い物して去って行ったwカオスw


[くまたん]

まさかササにジレジレを感じるときが来るとはなw


[陰キャ中です]

はーーーー、笑った笑った……


[くまたん]

……


[陰キャ中です]

………………


[陰キャ中です]

あのさー、くまたん


[陰キャ中です]

今、もも太郎金融で活動してて、楽しい?


[くまたん]

クッソ楽しいが何か


[陰キャ中です]

そっか


[陰キャ中です]

……じゃ、もういいや


[くまたん]

あんだ?やんのか?(´◉ω◉` )


[陰キャ中です]

ももに脅されてるんじゃないのかーとか、色々心配もしてたんだけどさ

くまたんがそう言うなら、もういっかって思って


[陰キャ中です]

だってくまたん、前のクラン……あるかるのこと、「うちらのお城」って


[陰キャ中です]

そんなふうに、今もこうやってうるしだのこと気にしちゃうほどに、ちゃんと、想ってくれてたんだね


[陰キャ中です]

前から言ってるけど、私はくまたんのこと今でも大好きだからね


[くまたん]

……私はおまえのそーゆーとこ、大っ嫌いだよ陰キャ




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― 新着の感想 ―
ササ推しなので彼がB嬢を笑わせたのが嬉しくなりました。 ササビビもっと絡んで欲しい……欲張っちゃいけない。 ササパンダ見るたびにふふってなっちゃいます(*´艸`)
[良い点] 笹熊猫! [気になる点] ササの目的が不明瞭で笑いますw [一言] 純情陰キャと捻くれくまたんかわゆす。
[良い点] ササ本当に何しに来たんだお前パンダかよ [一言] うるしださんでは天然地雷原要塞女のブティックさんの攻略は無理だったかあ(残当だけど 陰キャさんって何て言うか…何やろなあ
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