285日目 たからばこ(7)
アジサイ花火の効果範囲は元々[中]だからね。いくらプーリッチュ達が一所に集っていようと、素のままで打ったらきっと彼等の四分の一にも効果は及ばなかったように思う。
それが、仲間からの援護バフデバフも相まって、群れ全体の耐久ゲージがどがっと削れたんだから凄いことだ。
アジサイ花火は[木]と[炎]の二属性ダメージが入るってところもデカいんだよね。それってつまり二回ダメージが入るってことでもあるわけで、単純に威力が強いのだ。
予め他の三人が良い塩梅で耐久を削ってくれてたこともあり、一度のアジサイ花火で大体のプーリッチュは倒せちゃった。残った数少ないプーリッチュ達もゲージは赤帯で、ちょちょいと後処理をしてしまえばすぐにツバメボスに意識を集中できたのだった。
今はプレイヤー全員で、力を合わせてツバメ狩りをしているところ。プーリッチュが面倒臭い分、ファインスワロウ自体はそんなに耐久高くないんだって。
うん、順当にクエストクリアできそうだね。私も一応適宜スキルやアビリティを使ってるけど、私なんかいなくても全然大丈夫そうだ。
そんなふうに気持ちに余裕があるもので、自然、周りのことにもよく目が行くようになる。そうするとね、気付きたくなくても気付いてしまうわけだ。
――――――当初来たときよりも、プレイヤーの数が幾分減っていることに……。
……はい、例によってアジサイ花火の巻き添えを食らった人が数人いる模様です。
思い出すのは【沈黙の都】でのクラーケン狩りだ。なつくさや、つわものどもが……って、いやいやでもさ、今回ばっかりはちゃんと注意喚起も呼びかけてるわけですからね。
それが証拠に話を聞いてくれた人達はこうして生き残って、協力してツバメ戦に当たってるわけだし。私は悪くない、とまではさすがに言いませんけども、恨むのはお門違いじゃありません?
でもねじコちゃんの元クランメンバーだったらしきニット服のおねーさん、あの人なんかやたら怖い顔して散ってったんだよな~。他のメンバーの人はちゃんとこっちの意図汲んで動いてくれて、今もご健在なんだけどね。
……戸締りはちゃんとしとこ。
「じゃあな」
「乙でーす」
ギルドでクエストの報酬を受け取って、ミラン君と名無し君は去って行った。名無し君とは途中ギスっちゃったところもあったけど、彼もねじコちゃんの作戦にはちゃんと協力してくれたし、最後には気持ち良く別れられてめでたしめでたしだ。
それにしても、彼みたいなガチ勢冒険者にして気難しいガキん、じゃなくて少年が、今回の同窓会遠征に快く参加してくれたのは意外だったな。
だって名無し君、ソロプレイヤーなら兎も角として、[もも太郎金融]っていう立派なクランのメンバーなわけでしょ? パーティ組むのには事欠かなさそうなのに、フットワーク軽くてびっくりしちゃった。
そんな疑問をオブラートに包みつつ口にすると、名無し君からは真顔でこんな返答が。
「クラン入ってるからって友達が沢山いるとは限らねーだろ」
……その一言で色々察した私が涙を禁じ得なかったのは、言うまでもないことである。
私は感慨深い思いで二人の背中を見送るのだった。
そうして彼等の姿が完全に見えなくなった辺りで、ふいに隣から硬い声が発される。
「あの、ブティックさん」
両拳をグーにしたねじコちゃんが、何やら緊張した面持ちで私を見ていた。
「どしたの? ねじコちゃん」
「あの……~~っ、ブティックさん、私とっ! クラン、組みません……!?」
「………………えっ」
え、ええええ~~~~!?
あまりにも唐突な申し出に、ひたすら困惑するワタクシ。……なんだけど、深く考える間もなく、気付いたら言葉はするりと吐き出されていた。
「やっ、私はそういうの、いいかなっ」
言ってしまった後で、私はすぐに反省する。ねじコちゃんが、しゅーーーーんと、あからさまに肩を落としたから。
うわあ、私のバカバカ! 断るにしてももう少し話を聞いてからとか、言い方とかタイミングとか、色々あるじゃんね。
そうは思いつつ、自分の一番の理解者は自分なもので、咄嗟にこんな反応しちゃうのもしょうがないようねと自分に同情してる自分もいたり。
いやーだってさ、それくらい、即行で思っちゃったんだもん。ないなって。
……あ、ねじコちゃんがってわけじゃないよ。クランに入る自分が想像できないってことね。
「ご、ごめんね。勿論ねじコちゃんが嫌なわけじゃないよ。でも私、クランとかそーゆーキラキラしたコミュニティに向かない体質で。今のところは独りでマイペースに遊んでたほうが気楽だなーって」
「あはは、『キラキラ』て……。……でも、そうですよね。ブティックさんは多分そう言うだろうなって、予想してました。断られるのは百も承知だったんで、全然だいじょぶです」
「えと、人手が足りてないかんじなのかな。ねじコちゃんとこのクラン」
「いえ、足りてないも何も……これから結成しようかなーって段階でして。まだ私一人だし何にも決まってません。あは」
「ええええ!」
オープニングスタッフとして私のこと誘ってくれたの!? 気持ちは嬉しいけど、絶対もっと相応しい人がいるよ! ねじコちゃん、今日の私の遠征の腕前見たでしょ?
そう諭すも、ねじコちゃんは柔く笑って首を横に振る。
「でも、楽しかったから。ブティックさんと一緒に冒険するの」
「ねじコちゃん……」
「腕前とか関係ないです。お互いのこと受け入れられるかとか、一緒にいて苦じゃないかとか、そういうことのほうがよっぽど大事です。私、この通り性格に難アリなんで」
「え?」
視線を落としたねじコちゃんを、私は瞠目して見つめた。
「ねじコちゃん、『性格に難アリ』なんかじゃないよ。優しいし賢いし、しっかり者だし」
「ありがとうございます。でも、そんなふうに言ってくれるの、ブティックさんくらいですよ」
「そんな……」
「今日だって私、ブティックさんのスキル見せてもらったときテンション上がっちゃって、止められなくなっちゃった。引いてたでしょ、ブティックさん達」
「あ、あーっと」
「ほらー! やっぱりドン引きしてるー!」
つい口籠ってしまった私に対し、ねじコちゃんは唇を尖らせる。うう……正直者な自分が憎い……。
とまあ、若干引いてたことは確かなんだけど、でも。
「だからって難アリとまでは言わないよ。スキル話には付いてけないなーとは思ったけど。でもそれくらいねじコちゃん、真剣にゲームに取り組んでるってことだもんね。そういうの、素敵なことだよ。それに私だって服のことになると熱中しちゃって、周り見えなくなることあるし。みんなそんなもんじゃない?」
「……ありがとうございます」








