285日目 たからばこ(5)
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)(鍵付)・クラン[Clione]の部屋】
[chichika3335]
え?
[さあか]
今フィールド属性が風になったのよ
木属性のプーリッチュを掃除するには絶好のチャンス
それがあのブティックとかいうプレイヤーのスキルで、氷に書き換わったわ
[chichika3335]
あー……ブティックさん遠征は不得手らしいし、間違えちゃったんじゃない?
[エストマンの犬]
きまくら。の属性難しいですよね
僕も木の最大の弱点は炎って思い込みがなかなか抜けなくて
[さあか]
それだけじゃない
ねじコの奴ヘイトを自分に集めながらずっと逃げ回ってる
あれ、明らかに妨害行為だわ
[mu-ma]
ええ!?
ね、ねじコさんもうそんなにブティックさんに毒されて……!?
[chichika3335]
ほんとだ……
あの動き、プレイヤーの攻撃をプーリッチュが回避できるよう意図的に動かしてる?
[mu-ma]
八方美人と、何でしょう、赤ちゃんの泣き声のするスキル?
折角かけたバフデバフがあれで一気に剥がれたような
[さあか]
許せない!
とんだ嫌がらせだわ!
あいつ、自分が追い出されたことが悔しいからって、私達を邪魔するつもりよ!
[chichika3335]
へ
[mu-ma]
今、何て
[エストマンの犬]
あの、お知り合いの方、こっちに合図してるように見えるんですけど
何か伝えたいことがあるのでは?
[chichika3335]
あ、ほんとだ
メッセ来てた
[mu-ma]
え?
時間稼ぎ……?
[chichika3335]
あんまりダメージ入れないで最大数集まるまで待つようにって……
[エストマンの犬]
もしかして!
纏めて大掃除するつもりなのでは!?
******
「倍返し……バースクライ……グレイシャルピリオド……クアッドリリオン……」
「ね、ねじコちゃん……?」
「拡散式……あれか、【メリーマッシュ】の【毒胞子】が確か拡散スキルだから、あれと似た働きの……バースクライは仲間のみ、でも八方美人と合わせれば……活かすとするなら、ツバメ駆除……プーリッチュの工程を時短……他プレイヤーの妨害を阻止するために、敢えてバフ解除を……」
「ねじコちゃん? ねじコちゃん? おーい!」
システムパネルを見つめるねじコちゃんの心は、そのままどこかへ旅立って行ってしまった。こちらの声は聞こえていないようで、瞳を煌々と輝かせながら、ぶつぶつと独り言を呟いている。
かと思えば、彼女はばっと私のほうを振り向いた。
「ブティックさん! あの!」
「は、はい」
「ブティックさんのスキル、それにみんなのスキルを組み合わせれば、凄く素敵なことができそうです!」
「そうなんだ……?」
「もしよろしければ! 不肖このねじコが、コーディネートさせていただきたく……!」
鼻息荒く迫ってきたねじコちゃんはさっきとは雰囲気が様変わりしていて、ちょっとびびる。でも、彼女の発したこの単語は、私の琴線に触れた。
「『コーディネート』……?」
「そうです、そうです! ファッションに造詣が深いブティックさんなら、きっとこの言葉は馴染み深いことでしょう。そう、スキルもファッションと同じ――――コーディネートすることができるのです!」
「はあ」
「ブティックさんは服装の組み合わせを考えるとき、何を考えに入れますか? まず自分の持ち合わせ、どこに行くか、誰に会うか、何をするか、そしてそれぞれのアイテムの調和。スキルも同じです。選択肢、場所、対象、目的、そしてそれぞれのスキルの、調和。この複雑な足し算引き算を経て生み出される美しきハーモニー、それが“スキル回し”……! 即ち、ファッションで言うところの“お洒落”なのです!!」
「ほお」
どうやらねじコちゃんは分かりやすいと思ってファッションに例えてくれているようだけど、正直私はチンプンカンプンである。変なスイッチが入ってしまったらしき彼女のテンションに若干引いてるため、話の内容がまるで入ってこないというのもある。
でも一つ言えることがあるとすれば、彼女が何だかとても楽しそうであるということ。元気なのは良いことだ。
よって私はこう答えた。
「よく分かんないけど、ねじコちゃんの好きにしていいよ」
するとねじコちゃんは、ぱああああっと顔を輝かせた。きらきらパーティクルが弾けるスタンプを幻視したほどだ。
――――――そうして、今に至る。
ボス幻獣のいる屋上に辿り着くや否や、私はねじコちゃんの指示に従ってスキルを放っていった。
フィールド優勢属性が[風]になれば、【グレイシャルピリオド】で即座に[氷]属性に書き換える。名無し君の【八方美人】に合わせて【バースクライ】を発動し、他プレイヤー達が積んでいたバフデバフを解除。
そしてねじコちゃんはというと、私をミラン君に預けたのち【大胆不敵】を発動し、幻獣達の注意を引きつけながら屋上を駆け回っていた。
因みにこのボス戦、先に述べた通り、他のプレイヤーも一緒になって臨んでいる。っていうか、寧ろ私達のほうが遅れて来た側だったりする。
【アポレノの古城】は1サーバーの最大参加人数が百人ほどらしいので、そんなに混み合ってるわけじゃないけどね。
でも要するに、先にここに来たプレイヤーは当然、先にボス戦に挑んでいたわけだ。
で、後から来た私達が、ボスの眷属【プーリッチュ】に有効な風属性を敢えて塗り替えたり、他プレイヤーがかけたバフデバフを消したり、プーリッチュのヘイトを一挙に引き受けたまま闇雲に走り回っていたりする。
傍から見たら、どう考えたって狩り場荒らしだろうなあ……。
けど勿論、私達のこの行動には意味がある。
私達は他の人の足を引っ張ってタイムイートしたいわけじゃない。寧ろ狙いは、他プレイヤーの行動を制限することにより、ボス戦の時間を大幅に短縮することにある。
……って、この時点で大分エゴイスティックな作戦なんだけどね。それはねじコちゃんも承知の上らしく、そっと目を逸らしつつ苦笑していた。
まあ結果的には皆に利のあることだし、一応出来得る限りは他の人にも意図を共有するつもりだし、「メッスルールの採用されたきまくら。においては妨害こそ正義」――――――とは名無し君の談である。
私が言ったんじゃないからね。名無しだからね。








