285日目 たからばこ(4)
よし、アビリティとスキルの扱いはこれで分かったぞ。
あとはバフデバフ? こっちは何を意識すればいいんだろ。
「そうですね、今日のところはアイコンを二つほど覚えていただければと。フィールド優勢属性の見方は分かるんですもんね?」
「うん、分かるよ。……分かっててもミスって誤爆しちゃうこととかはあるけど」
「上出来です。じゃあ属性技を使うときにはそっちも引き続き参考にしてもらって、さらにもう二つ。[被ダメup]と[集中up]のアイコンを覚えましょう」
そう言うとねじコちゃんは、その辺の敵モブ相手に実演しながら説明してくれた。
まずねじコちゃんの持ってるスキル【油断大敵】により敵にかかるデバフ、被ダメージ上昇は、青い下向きの矢印のマーク。それから名無し君の持つスキル【鼓舞】によって仲間にかかるバフ、集中値上昇は、緑色の上向き矢印マーク。
――――――因みに名無し君は、こちらで三人で話し込んでいたらいつの間にかふらふら戻ってきて混ざっていた。感情の動きが早いのは彼の悪いところでもあり良いところでもある。
閑話休題。
被ダメアップは対象が受けるダメージを増幅させる効果、集中アップはスキルの威力を増幅させる効果と、意味合いはそれぞれ違うものの、これにダメージスキルを合わせたときの効果は共通している。つまり、火力が上がるわけだ。
「このどちらか或いは両方が発動しているときに、レオニドやアジサイを合わせて打ってもらえますか? マグネティック・フィールドも従来通り使ってもらいつつ」
「なるほど、分かりました! ……えっと、そうすると、さっきのクールタイムの件とバフデバフの件は、どっちが優先度高いのかな。クールタイムが上がったけど矢印アイコンがどっちも付いてなかった場合は?」
「良い質問です。そのときはバフデバフ優先でお願いします。油断大敵と鼓舞はどちらも短いスパンで打つことができるので、少し待てばすぐ火力の高いスキルを発動できます。この辺が良いバランスなんじゃないかと」
「ふんふん、了解であります」
「だ、大丈夫そうですかね? この方針でいけば、かなり変わってくると思います。とりあえずこんなかんじで挑戦してみて、上手くいかなかったらまた考え直していけばいいかなって」
すらすら説明していたときとは打って変わって、急に自信なさげな表情になるねじコちゃん。そんな彼女に向けて、私はこっくり頷いた。
「うん、教えてくれてありがとうねじコちゃん。頑張ってみるよ! ミラン君も名無し君も、付き合ってくれてありがとうね」
すると今まで静観を決め込んでいたミラン君が、おもむろに口を開く。
「折角だからスキル構成も見てやれば? ねじコそういうの得意だろ」
「え……」
何とも言えない顔で黙ってしまったねじコちゃんを流し見てから、ミラン君は私に視線を移す。
「ブティックさん、他にも持ってるスキルあったら教えてもらっていい? 勿論、伏せたいやつは伏せていいけど。もしかしたら使える技があるかもしれない。し、ないかもしれない」
「あ、うん。分かった。じゃあトークに貼るね」
私が遠征に関係するスキルを共有していくと、名無し君は口元をひくつかせ、ミラン君は目を細めた。
「げー、案の定サブスキ富豪」
「やはり溜め込んでいたか」
どういうわけか消極的な反応の二人。何だよー、言われた通り晒しただけなのに何でそんな顔されなきゃいけないんだよー。
もしかしてスキルの数だけ多いくせ、全然使いこなせてねーなって? うるさいやい。
しかし、ねじコちゃんの反応は違った。
何も言ってこないので不思議に思って見れば、その双眸は爛々と輝きを湛え、口は半開き。まるで今にも涎でも垂らしそうな、玩具を前にした子どものような顔である。
彼女は恍惚として、呟いた。
「たからばこ……」
******
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)(鍵付)・クラン[Clione]の部屋】
[mu-ma]
だめですね……
全然ダメージ入ってないみたいです
[さあか]
どういうこと?
落ち着いて、ちゃんと狙いを定めて
そもそもダメージ判定が出てないように見えるんだけど
[mu-ma]
そうです
だから、矢を当てても無意味なんです
[さあか]
そんなはずないでしょう
あのボス相手じゃ飛び道具使いのムーマさんが頼りなのよ、しっかりして
[mu-ma]
私のエイムが悪いって言うんですか!?
[さあか]
え……誰もそんなこと、
[mu-ma]
言ってます!
[chichika3335]
……ねー、さすがにぶっつけでボス狩りは無理あるよ
一回帰って、作戦立て直してからまた挑戦しよ?
[さあか]
でも、折角ここまで来たのよ
クエストも受けちゃったし、この部屋まで来るのだってかなり大変だったんだから
やれるところまで頑張りましょうよ
[chichika3335]
いやだからあ、それで全滅したら元も子もないやんっていうさあ
[さあか]
それに、負けたくないし……
[chichika3335]
はあ?
[エストマンの犬]
あ、あの、僕気付いたことがあって、
[さあか]
エスト君、後にして
今はそれどころじゃ、
[chichika3335]
いーよ! 犬君!
何があったか教えて?
[エストマンの犬]
……あの、この沢山湧いてくるプーリッチュって幻獣が、多分ツバメに入ったダメージを肩代わりしてます
ムーマさんの矢が当たるのと同時に、プーリッチュが発光して、少しゲージが減ってる気がするんです
[mu-ma]
あ! 【庇う】持ち!?
[chichika3335]
うわあ、厄介だなあ
でもよく気付いたね犬君、グッジョブだよ
[エストマンの犬]
……っ、ありがとうございます!
[さあか]
………………
[mu-ma]
だから後から合流した方達、ツバメは無視でプーリッチュ処理優先してたんですね
[chichika3335]
でもこいつら倒しても倒しても時間でまた復活してくるじゃん?
堂々巡りじゃない?
[mu-ma]
プーリッチュを全部倒してからツバメに攻撃、復活してきたプーリッチュをまた倒してツバメに攻撃……
って、ちまちま繰り返していくしかなさそうですね
[chichika3335]
途方もない作業だなあ
んで時間がかかればかかるほど後続のプレイヤーが集まってくるから、報酬も減る、と
[mu-ma]
まあ、結局私達だけの力じゃ無理だったことですし、それならそれで
[エストマンの犬]
あ
あのお知り合いの方達、ここまで来たみたいですよ!
[chichika3335]
ねじコさん……
[mu-ma]
びっくりですよねー、ブティックさんとPT組んでるなんて
でもちょっとフクザツ
もしかしてねじコさん、ブティックさんとクラン組むっていうんでうちから抜けたのでは?
あんなお揃いの可愛いヤツ着ちゃってますし
[chichika3335]
……仮にそうだったとしても、それは本人の自由だよ
[mu-ma]
ですね
オンゲの世界で束縛とか馬鹿らしいですもんね
[さあか]
ねえ
あいつらなんか、妙なことやってない?








